2025.06.05 新規プロジェクトで社会貢献 車載機器の受託設計会社の「ゼロからのモノづくり」

左から足立優サブリーダー、原大介リーダー、営業部チーフエンジニア佐野光浩氏

嚥下反射スプーン嚥下反射スプーン

 車載機器の受託設計などを手がける「TSG(ティー・エス・ジー、横浜市都築区)」は、社会貢献を目的としてモノづくりの新規プロジェクトを昨年7月に立ち上げた。受託設計がメイン業務の同社にとって、企画から立ち上げて形にするモノづくり経験を学ぶ取り組み。アイデアだしから製品化まで一貫して行う力を育てたい考えだ。

 「社会地域貢献プロジェクト」として、部門の垣根を越えてモノづくりに興味がある社員11人で発足した。その第1弾では、飲食物を食道に飲み込む動作を指す「嚥下反射」を促そうと、温度が変わるスプーンの開発に取り組んだ。

 首元に装着するネッククーラーの仕組みを取り入れて、瞬時に冷やすペルチェ素子を使って温度調整をする仕組み。パワーエレクトロニクス機器で電気の電圧を変換する際に発生する熱を解析する計測を応用している。プロジェクトサブリーダーを務めた商品開発2部の足立優部長は「実際に制作する前に、熱の解析シミュレーションを使って計測した」と話す。

 介護事業所などに困り事のアンケートを実施し、スプーンにたどり着いた。高齢者は嚥下反射の機能が低下し、食事介助の際に誤嚥(ごえん)やむせる恐れがある。この問題の予防法として、スプーンを氷水で冷やし、口腔内を刺激することで誤嚥を防いでいるという。

 同社が開発したスプーンを使えば、氷水で冷やす作業が不要となり、介助時間を短縮できる。

 2月には工業技術見本市「テクニカルショウヨコハマ2025」にも出展し、開発中のスプーンを見た来場者から嚥下反射についての質問や、介護関係者からの意見も得た。プロジェクトのリーダーを務めた海外事業部の原大介部長は「楽しみながら取り組むことと、テクニカルショウへの出展を目的として、達成した」と説明した。スプーンのプロジェクトは区切りを迎えた。

 この活動に携わった営業部の佐野光浩チーフエンジニアは「30年ほど前は製造業に従事していたが、今は委託設計のみ。モノを作るには準備が必要だが、今回企画を立てることを学べた」と話す。

 地域貢献プロジェクトは継続し、新たな製品を構想している。

 同社は、主力事業である開発設計や製品の高い安全性が求められる自動車業界ならではの厳しい品質評価の設備を豊富に持つ。こうした強みを生かして、他分野でも新しいモノづくりで社会に貢献していきたい考えだ。原部長は「新規事業を通して企画力やリサーチ力を強め、委託設計だけでなく、能動的な動きで社内を活性化させたい」と話す。