2025.12.08 佐賀大のダイヤ半導体、宇宙へ「5~6年後に」衛星通信を増幅、1月からサンプル

ダイヤモンド半導体の進展を発表する佐賀大の嘉数教授(右)とSaha Niloy Chandra(サハ・ニロイ・チャンドラ)助教

 佐賀大学は、衛星通信や次世代移動体通信であるBeyond 5G/6Gの送信部品に使える改良型ダイヤモンド半導体を発表した。研究を主導する理工学部電子デバイス工学コース、電気エネルギー工学コースの嘉数誠教授は宇宙での利用を「5年後、6年後という時間的軸で考えている」とした。電力の制御を担うパワー半導体として、自動車への搭載などにとどまらない用途を開く。通信信号などの電力をどこまで増幅できるか目安となる電力利得を測定したところ、限界を示す遮断周波数は120GHz。300MHz〜300GHzのマイクロ波、30GHz~300GHzのミリ波の範囲に達した。8日の記者会見で明らかにした。

 会見では主に三つの改良点を発表。まずマイクロ波、ミリ波対応のためより微細な電極を採用した。半導体の製法として一般的な光線を用いたフォトリソグラフィーに替え電子線描画技術を使って断面がT字型になる形状にし、T字の足の部分の幅を157nmサイズにした。日本電子製の装置を駆使し実現した。

 またパワー半導体は加える電圧の大きさによって電流を通すオン状態と遮るオフ状態を切り替えるスイッチングが重要だが、同機能に欠かせないゲート絶縁膜の材料である酸化アルミニウム(Al2O3)を高純度化。オフ状態の耐電圧を最大4266Vに向上した。世界最高記録としている。既存の市販品は大電力の制御を要する電車用でも同3000V程度だ。

 さらに硬く金属とつなげるのが難しいダイヤモンド半導体を、電子基板などに取り付けられるようパッケージング、ワイヤーボンディングなどの後工程技術も独自開発している。

 佐賀大は2023年度から5年間の予定で宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を進めており、最終年度までに地上での実証を終える計画。実際の宇宙での利用はその先とする。衛星通信で信号増幅に使っている進行波管(TWT)など真空管の置き換えを見込む。加熱不要で電力効率向上、寿命延長、重量削減が期待できる。ダイヤモンドの高い耐放射線性も強みとしている。

 佐賀大発スタートアップ、ダイヤモンドセミコンダクター(佐賀市)が2026年1月からサンプル製造と販売を開始する。「ダイヤモンド結晶や放射線検出器などは海外で市販しているが半導体デバイスとしては世界初」(嘉数教授)。既に複数の大手電機メーカーから引き合いがある。特許申請との兼ね合いで、サンプルに今回発表の改良点をどこまで採用するかは調整中だが、少なくともT字型電極は搭載する。パワー半導体として従来の電力制御と高周波の増幅、両用途を見込む。