2026.05.04 【特集】マルエム商会 SiCビジネスに本格参入 再編進む国内パワー半導体業界に新たな提案
SiCビジネスを統括する横取締役
SiCサプライチェーンで幅広いサービス提供
これまで日本勢が優位性を保っていたパワー半導体市場で、再編の波が起こっている。今年3月にデンソーがロームに対し買収を提案。同月、ローム・東芝・三菱電機の3社がパワー半導体事業の統合に向けて協議入りするなど、再編の動きが本格化してきた。背景にはSiC(炭化ケイ素)を中心とする中国メーカーの台頭がある。技術力の向上とともにコストダウンを実現した中国産のSiC製品は、幅広い分野で採用が拡大している。勢いを増す中国勢と競争するのではなく、中国産SiCを活用することで日本勢の強みを生かす道はないか。岐路に立つ日系パワー半導体各社に対し、新たなソリューション提案を通じて成長を目指す企業を取材した。
マルエム商会(名古屋市、西岡隆夫代表取締役社長)は今年4月、中国や台湾企業のSiC関連製品と技術を組み合わせ、ウエハーからエピタキシャル(以下、エピ)工程、チップなど、素材から成膜、加工までを提供する調達プロセスの提案を開始した。SiCサプライチェーンにおける網羅的なサービスを提供することで、デバイス、モジュール、最終製品への応用などで強みを持つ日系顧客の国際競争力強化を支援する。
同社は今年創業103年を迎える技術系商社。FA機器、電力設備、環境システムなど、製造現場の課題をワンストップで解決するソリューションを提供してきた。このたび、SiCビジネスに本格参入することで、ソリューションプロバイダーとして日本市場におけるSiCパワー半導体の課題解決に取り組む。
現在、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及により、SiCパワー半導体の需要は急速に拡大している。その一方でSiCウエハーは結晶成長の難易度が高く、品質・供給の両面で課題も多いため、安定したサプライチェーンの構築が急務となっている。
SiC市場の拡大を見据え、国内外の半導体メーカーは数年前から投資を加速。米国では、SiCウエハー大手のウルフスピードが世界最大規模の工場を建設したほか、同業のコヒレントも増産投資を行いSiCウエハーの安定供給体制を構築してきた。ルネサスエレクトロニクスや三菱電機、デンソーなどの日系企業も各社に出資し、長期供給契約を締結するなど、SiC市場の本格的な立ち上がりに向けた準備が進められていた。しかし、25年6月にウルフスピードは米連邦破産法11条の適用を申請し、現在経営再建中。コヒレントも厳しい経営状況に直面している。
マルエム商会でSiCビジネスを統括する横伸二取締役は「SiCの優れた性能や特性は業界でも広く認められていたものの、大きな課題となっていたのは価格だ。基板材料の製造コストが高く、歩留りも上げにくいため、コストダウンが難しかった。そうした中、多くの企業が参画し果敢な競争を繰り返すことで技術力を高めていったのが中国企業。政府による経済支援も活用し、SiCウエハーを大量生産しコストダウンを実現させた」と話す。
2015年に中国政府が公表した「中国製造2025」に沿い、研究開発や生産技術への投資を進めてきた中国の半導体メーカー。米中貿易摩擦による輸出規制は、中国の半導体内製化を加速させ、結果的にSiCパワー半導体の業界再編へとつながった。
こうした状況を受け、同社は日本市場に最適な形でSiC製品を供給し、ソリューションプロバイダーとしての役割を担うことを決意。中国および台湾の企業と正規代理店契約を結び、SiCウエハー、エピ工程、チップまでSiCサプライチェーンに関わる幅広いサービスが提供できる体制を構築した。
代理店契約を結んだのは、SiCウエハーメーカーの浙江晶盛机電(JSG)、エピ工程サプライヤーの広東天域半導体(TYSiC)、チップを供給する芯聯集積回路製造(UNT)などの中国企業のほか、SiCウエハーメーカーであるJING CHENG MATERIALやパワーモジュールのクーリングデバイスを手掛けるIRON FORCE社など台湾企業も含まれる。

横取締役は「米中貿易摩擦の影響もあり、中国と距離を置くビジネスパーソンが増えている。その間に中国企業は政府の後押しを受け、大きく成長した。今後もSiCの市場規模は年率26%程度の勢いで拡大すると見込まれ、材料供給の重要性はますます高まる。当社は中国・台湾企業の取り扱い製品や技術の中から顧客に最適な組み合わせを提案し、次世代パワーエレクトロニクスの発展に貢献していく」と話す。
これまでSiCの需要をけん引してきたのは自動車産業。特にEV向けで新たな需要を創出してきた。現在、補助金の削減などの影響もありEV市場は世界的に低迷している。自動車メーカーのEV戦略も見直されるなど成長率は鈍化傾向にあるものの、将来的には復調すると見込まれる。そして自動車産業以外でもSiCの新たな需要が生まれている。AI(人工知能)の演算処理を支えるAIデータセンター向けの市場が急拡大するほか、ARグラスや半導体パッケージにおけるインターポーザ(中継基板)としての用途も検討されるなど、潜在的な需要も大きい。
「日本勢の強みは、アプリケーションを熟知する、デバイスおよびモジュールの領域」と話す横取締役。「自動車、産業機器、鉄道、家電、再生可能エネルギーなど、幅広い分野にSiC製品を供給し、エンドユーザーと連携することで、SiCの特性を最大限に発揮できる。ウエハーやエピなど自前主義にこだわらず、分業することで新たな成長も可能なはず。当社はその支援を行い、業界の発展に貢献したい」と意気込む。
同社は5月13日から15日まで大阪で開催される「関西ネプコンジャパン」に出展する。ブースではSiCビジネスに基づくウエハーや関連技術を紹介。日本初公開となる12インチのエピ付きウエハーも展示する。










