2020.09.21 IoT技術活用で植物工場を本格的に事業化エレクトロニクス商社/EMS
菱電商事の植物工場納入例
次世代農業として注目される植物工場(野菜工場)に、エレクトロニクス商社やEMS(電子機器製造受託サービス)企業が進出し、自社工場で本格的な事業化を図っている。工場ではIoT技術を活用して野菜の生育に必要な光などの高度な環境制御を実施。年間を通して安心、安全な野菜を安定供給し、国民の食生活に貢献する。
農業就業人口の減少や平均66歳以上といわれる高齢化、異常気象、多発する自然災害の甚大化など、日本の農業は多くの課題を抱えている。安心、安全な野菜を安定供給することは、国にとっても重要な政策だ。
植物工場では光、温度、湿度、CO₂ガス濃度、光合成速度、養分吸収速度などを制御して野菜を栽培する。これまでに農園、食品、化学、水産、林業・建材、ITなど様々な企業が植物工場に進出し、リーフレタスを中心に葉物野菜を生産。植物工場で生産されたレタスは、露地栽培と施設園芸を合わせた生産量全体の5%弱程度といわれるが、例えばファミリーマートでは15年に植物工場で栽培された野菜を導入し、現在では導入当初と比べ約60倍に増加したという。
エレクトロ商社の進出
菱電商事はエレクトロニクス商社として、半導体デバイス、FA、冷熱、ビルシステム事業を主事業にグローバルビジネスを展開。
15年からコンテナ型小規模植物工場や栽培LEDの量産化をスタートした。農業の生産性向上、食品流通の合理化に向けた技術・サービスを提供するファームシップ(東京都中央区、北島正裕代表)と17年に協業体制を確立。19年には同社と資本業務提携し、大規模設備のシステム開発や専門施工体制を構築している。
植物工場に進出する様々な企業から工場設備・システムを受注し、3年間で80億円以上の実績を上げた。1日当たり10トン以上生産できる設備規模だ。與五澤一元・執行役員ICTソリューション事業本部長は「植物工場の環境制御技術に加え、LEDの照射角度、照度、照射時間などをIoT制御することで光合成をより活性化させ、栽培期間の大幅な短縮や収穫量増加に貢献している」と話す。
エレクトロニクス商社のレスターホールディングスと、子会社で植物工場事業を行うバイテックベジタブルファクトリーは、国内最大規模の完全閉鎖型植物工場を全国5カ所(秋田県鹿角市・大館市、石川県七尾市・中能登町、鹿児島県薩摩川内市)に構える。
レスターホールディングスはUKCホールディングスとバイテックホールディングスが経営統合して19年4月に発足。電子部品や半導体、電子機器、システム機器のほか、植物工場と太陽光発電所(全国)、風力発発電所(北海道)やEMS(中国・東莞、ベトナム)など幅広い事業に取り組んでいる。
植物工場は全ての工場で農業の国際規格GLOBALG.A.P.(Good Agricultural Practice)を取得。主にレタス、グリーンリーフなどを生産する。スーパーなどの小売りではなく、コンビニなど中食(総菜)をターゲット市場としており、植物工場で栽培された安全・安心な野菜の普及に向けてファミリーマートと協業、商品導入を拡大し、全国約1万6千店規模で展開する。
カトーレックは新規事業として、香川県小豆島で自社の植物工場の運営に乗りだした。同社はEMS事業とロジスティクス事業を柱に、モノづくりから物流までサプライチェーンをトータルにサポートする。EMS事業では高松市に本社工場(グローバルEMSセンター)を構え、中国(蘇州、広州)、ベトナム、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、メキシコ(ティファナ、グアナファト)、インドに製造拠点を設置。基板実装を中心に車載、AV、家電、情報・通信、住宅設備機器、産業機器、医療機器、航空・宇宙機器など幅広く受託している。
新規のアグリ事業について、加藤英輔社長は「異常気象による農作物の不作、高齢化による生産者減少など農業が課題を抱える中で、一年を通じて安定した供給量と品質を実現できる植物工場に注目した。植物工場にはある程度の生産規模が必要であり、今後拡大を検討したい」と述べた。
小豆島で土庄町農林水産課と理化学研究所が実証研究を行っていた次世代型植物栽培システムを引き継ぎ、完全人工光型植物工場を運営していく。主にベビーリーフとエディブルフラワー(食用花)を育てる。
経営資源を最大限に生かしつつ、栽培から収穫、販売、配送までを行う。付加価値の高い植物の栽培を通じて、香川県産品の魅力づくりや地域活性化への貢献を目指す。