2020.11.20 バイデン政権で揺り戻しもNEDOが米の気候変動政策を分析、リポート公表
第46代米国大統領になるジョー・バイデン氏(出所:White House Official portrait)
米国の大統領選で、ジョー・バイデン氏が次期大統領に選出されたことを受けて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、現政権とは大きく変わることが想定される気候変動問題などへの政策についてリポートをまとめ、公表した。トランプ現政権とは「対照的」とされる方針もあり、次期政権では多くの揺り戻しが予想されている。
リポートは、NEDO技術戦略研究センター海外技術情報ユニットの森田健太郎ユニット長らを中心にまとめられた。大統領選で民主党候補だったバイデン氏の選挙公約などを分析し、共和党候補で現大統領のドナルド・トランプ氏との対比などを紹介している。
50年の目標も「事実上の公約」
注目されるのは、現政権が離脱した地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定への対応の行方だ。バイデン氏は、パリ協定に復帰することを公約に掲げる一方で、遅くとも50年までに米国の経済全体で二酸化炭素(CO₂)排出量をゼロにすることも表明している。
既に、パリ協定について、米国は05年比で25年までに26-28%のCO₂削減を約束していた。そのため、「復帰となれば、この約束が求められることになるはずだ」(森田氏)という。
バイデン氏は、50年にはネットゼロエミッションを目指すべきとの専門家の見解に賛意を示している。森田氏は「各地でバイデン氏が言及しており、事実上の公約になったと判断していい」と話す。
さらに、具体的施策として、4年間で2兆ドル(約215兆円)を投入予定の「クリーンエネルギー/持続可能インフラ計画」を公表。米国内の電気自動車やその原材料、部品の製造分野を、世界的なリーダーにまで押し上げることを目指すほか、バッテリ貯蔵、送電インフラへの投資、クリーンエネルギーの雇用創出のための税制優遇措置などを行う。
計画には、気候変動問題に焦点を当てた省庁横断的な研究プロジェクト機関として基金「ARPA-C」を新設することも明記。環境技術のイノベーションを推進するために資金の提供体制を強化する。既にある同様の基金に対して、現政権は「数年間、予算要求しないなど、廃止を求めていた姿勢で、対照的だ」(同)という。
新設する基金は、「ゲームチェンジ」させる技術開発を目標とし、対象分野に、リチウムイオン電池のコスト削減や、再エネを利用した水素製造、CO₂の回収・貯留技術(CCS)技術などが盛り込まれた。
森田氏は「バイデン氏は、50年について高い目標に言及した分、計画も総動員体制になっている」と分析。「パリ協定に加わった前民主党政権のオバマ政権でさえ、推進するのは再エネ一本だった。だが、バイデン氏はそれだけでは足りず、CCSなどの少し基盤の違う技術まで取り込んでいる」と指摘する。
リードする欧州に接近する可能性
また、バイデン氏は「イノベーション」を強調し、研究開発投資として4年間で3000億ドル(約32兆円)を増額することを提案。クリーンエネルギーのほか、先端材料やバイオテクノロジー、人工知能などの分野を対象とした。現政権の20年10月-21年9月の研究開発予算が約1400億ドル(約15兆円)に及ぶとされ、それと比べても年間5割ほど増額する規模の大きさだ。
こうした投資は、環境面への予算とは別建てとみられる。だが、議会の上下両院で民主、共和両党の勢力がねじれを起こす可能性もあり、予算提案するバイデン政権に対して、「議会との交渉で、最後は、予算が抑制させられたり、工夫を求められたりする」(同)ことも見込まれる。
リポートでは、バイデン氏は、先端技術やイノベーションを巡るルール作りについて、「日本、オーストラリア、韓国といった同盟国との関係をより一層強化する可能性がある」と分析。エネルギー・環境政策は、「地球温暖化対策をリードするEUとスタンスが近くなる可能性がある」としている。
米国の環境面への政策が大きく転換することが予想されることで、森田氏は、「日本が、国際的な議論に着いて行こうとすれば、50年を見据えた議論を加速させなければならない」と指摘する。先行していた欧州に、バイデン政権が「同じ方向に、同じスピードで歩調を合わせる」可能性があるといい、「日本は気付くと、相対的に後れを取ってしまう恐れもある」ためだ。
菅義偉首相が所信表明演説で、「50年にカーボンニュートラルの実現」を掲げたことも、森田氏は「こうした状況を、政府が察知した故の発言だったのではないか」と推測している。