2021.04.23 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<39>企業内にローカル5G人財を育成する ②

 戦国時代の武将を育成するカリキュラムは、おおむね次のようなものであったらしい。

 『般若心経』などによって生死観を教える「哲学」→『御成敗式目』など武家社会の道理を教える「法律」→『四書五経』などの社会規範を教える「倫理」→『孫氏の兵法』など勝つための戦略を教える「兵法」。

 ここで興味深いのは、戦を生業とする武将にとって最も重要な兵法の前に、哲学や倫理を教えていた点だ。

 例えば、明治維新以降、株式会社の創設・育成に力を入れ、生涯に約500もの企業に関わった渋沢栄一も、企業経営を行うに当たり倫理として『論語』を大いに参考にしていたのは有名な話だ。

 渋沢栄一が残した名言の中に「世の人が元気をなくしており、社会の発展が停滞している。今までの仕事を守って間違いなくするよりも、さらに大きな計画をして発展させ、世界と競争するのがよいのだ」というのがある。

コロナ禍に通ずる

 これはまさにコロナ禍の今、デジタルトランスフォーメーション(DX)による競争力のあるビジネス変革に相通ずるものがあると思うのは、筆者だけではないだろう。

 前回示したDXの定義をもう一度見てみよう。DXは「ビジネス環境の激しい変化に対応し、デジタル技術を活用して、社会のニーズを基に、ビジネスモデルやプロセスを変革し、競争上の優位性を確立する」ことだ。

 具体例に落としていくと、まず「ビジネス環境の激しい変化」とは、コロナ禍による「ニューノーマル」や、少子高齢化による深刻な「熟練者の高齢化」などになるだろう。

 次に、これらの変化に対する「社会のニーズ」は、自宅やサテライトオフィスでの「テレワーク」や、工場や建設現場など危険な作業環境での高齢熟練者による「遠隔操作」や「遠隔監視」がある。

 例えば、溶鉱炉やタワークレーンの遠隔操作などだ。どれも、オフィスや現場にいるのと同等か、それ以上の生産性が求められる。特に工場などの現場は有線回線の敷設が困難なため、安定した無線環境を使ったモバイル端末による高品質な超高精細映像が求められるのも確かだ。

 そのためのデジタル技術として、超高速での通信ができるローカル5Gが最適な手段だ、と言われるとふに落ちるに違いない。

 将来的な「社会のニーズ」には、工場などでAIやロボットを活用した自動化があるだろう。その場合にもローカル5Gによる超高信頼・低遅延が大きく貢献するはずだ。

高齢熟練者による無人タワークレーンの「遠隔操作」

変革から教える

 ここでもう一度教育の話に戻したい。企業における新人教育も社会発展のための「ビジネス変革(トランスフォーメーション)」から始めていくと、違和感なくIoTやAI、ローカル5Gといった「手段(デジタル)」を活用せざるを得ない、個々の身近なユースケースに落ちていきやすいだろう。

 そうなるまでは「5Gとは」など本題のデジタル技術は封印しておいたほうがよいかもしれない。難しい話から入ると、脳が疲れて学習効果が低下する恐れがあるからだ。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉