2021.04.26 【テレワーク特集】効果的な運用が課題、生産性やコミュニケーションなど
今後は在宅勤務だけでなく出社時のビデオ通話などに適した少人数ミーティングスペースを設置する動きも出てくる(写真は内田洋行)
新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して1年―。生活や企業を取り巻く環境はこの一年で大きく変わった。多くの企業が働く場所や時間を選ばないテレワークを検討するようになり、まずは在宅勤務を徹底できるような環境整備に取り組んでいるのが実情だろう。政府が数年前から推進してきた働き方改革は、コロナ禍で大きく動きだしたものの、半面で新たな課題も出てきている。1年前はICT基盤整備が課題になっていた企業も多かったが、1年経過した今は、いかに効果的に運用していくかという段階に入ってきている。
働き方改革への取り組みは多くの企業が検討を進め、この数年はテレワーク導入に向けた議論が活発に行われてきた。一つのきっかけになったのが、東京五輪の開会式に当たった昨年7月24日の交通機関の混乱を防ぐとともに働き方改革の推進を目指して始まった国民運動「テレワーク・デイズ」だった。
2017年からスタートして規模を拡大していたが、19年から「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が順次施行されたことも追い風になった。それでも企業全体から見ると、一部の大企業や先進企業が中心となった取り組みだったことは否めない。
潮目が変わったのは昨年の新型コロナウイルス感染拡大だ。業種や業態、企業規模にかかわらずテレワークや在宅勤務を実施せざるを得ない状況になった。都市部を中心に多くの企業が在宅勤務などに取り組み始めたのが、昨年の第1回目の緊急事態宣言発令時だろう。
野村総合研究所の調査によると、コロナ前の19年時点のテレワーク実施者比率は8.4%(総務省調べ)だったが、野村総研が調査した20年3月には比率が16%に、さらに緊急事態宣言中の5月には39.3%へ急拡大した。
2000万人が対象
緊急事態宣言後には比率が下がるものの、それでも約2000万人がテレワーク対象者になっているという。野村総研によると、日本のテレワークが現実的にできる就業者は約3割とみており、実際の利用者はさらに少なくなると予測している。
この一年の動きを見るとテレワークを積極的に導入した企業はオフィススペースに余裕ができ、執務エリアを減らした企業もある。もちろんテレワークを導入できる職種とできない職種、職務などがある。テレワークできる職種の多くはこの一年で在宅勤務に取り組んできているとみられる半面で課題も浮き彫りになってきている。
テレワークを推進する日本テレワーク協会ではテレワーク導入のポイントとして、労務管理方法、情報通信システム・機器、テレワーカーの執務環境の三つを挙げている。
週1~2日程度のテレワークであれば評価制度を変える必要はないが、フル在宅勤務の場合などは検討が必要になる。同時にICTインフラ整備は必須で、セキュリティーなどの確保といったことも求められる。執務環境については作業管理などが必要になるとしている。
多くの企業がこの一年でICTインフラの整備をしてきているため、在宅勤務であっても業務に支障が出ない状況にはなってきている。今直面しているのは在宅勤務での生産性やコミュニケーションなどの問題だ。業務管理などについて、課題視するところもある。
一定の効果出る
東京商工会議所が行ったテレワーク調査によると、テレワークの実施効果として「働き方改革が進んだ」と回答した企業が46.2%あり、一定の効果が出ていることが明らかになっている。一方のテレワークを継続していく上での課題として「社内のコミュニケーション」を挙げたところが57.9%と最大だった。テレワークを取りやめた企業では理由について「業務の生産性が下がる」との回答が45.7%あり、取りやめた企業の半数が今後も実施しないと回答していた。
テレワークを推進しているある企業関係者は、「テレワークの本格化に伴いコミュニケーションツールなどを導入したことで遠隔地間のコミュニケーションは高まった半面で、同じオフィスで業務をしていた同僚や上司とのコミュニケーションが減った」という。
出勤している時には立ち話や雑談などもあり、そこから情報を得たり、少しの困り事の解決だったりができる。こうした簡単な話ができなくなったことで生産性が下がったという意見を言う人もいる。実際にこうした雑談については賛否あり、「雑談がなくなり仕事がはかどる」という意見もある。今、各社が模索しているのは出勤と在宅の良いところを組み合わせられないかということだ。
テレワークを推進している企業の多くは現在、社内でのペーパーレス化の加速と脱はんこなどにも取り組み始めている。資料共有や情報共有の仕組みづくり、ワークフローの見直しなども検討が進んでいる。同時にスペースに余裕の出たオフィス空間の見直しも始まりつつある。
利用方法が変わる
電波新聞社が行った主要ICT企業トップインタビューでも、多くの経営層が「オフィスは必要だが、利用方法が変わる」と話している。執務エリアとしての役割から協働や共創の場所に変わっていくとみている。会議室なども見直されてきている。大人数での会議室から、少人数やビデオ通話などを行うための少人数会議スペースやビデオ会議用のブースの設置だ。
内田洋行によるとテレワークの推進により、ビデオ通話やオンライン会議が増え、コロナ前よりも会議やミーティングの数自体は大幅に増えているという。こうした少人数会議やビデオ通話ができる環境づくりも今後必要になってくるとみる。同社はこうした背景からオフィス環境の見直しの一環で、フリーアドレスや会議室の利活用に関する社内実証も始めている。結果を基にオフィスの見直しの提案にもつなげていく。
東京、大阪などは25日から、3度目となる緊急事態宣言が発令された。コロナとともに業務することが必須になった今、テレワークの在り方もさらに進化が求められる。