2021.11.17 【InterBEE特集】放送のDX推進が加速IP・クラウド・AIを活用
NHKのSDGsキャンペーン「未来へ17アクション」
多様化するメディア新時代。新型コロナウイルスの感染拡大が続いたことを受け、「ニューノーマル時代」に向けた社会の構造変革が生じ、あらゆる分野でデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)の必要性が高まった。インターネットの普及による視聴環境の変化、放送局のDX、データの利活用など、さまざまな市場環境の変化により、放送業界でもテクノロジーを活用した効率的なコンテンツ制作が求められている。DXを推進する取り組みが加速し、今後さらなる新サービスが期待される。
放送業界のDX
放送業界のDXとしては、人手不足やコンテンツの需要拡大などを背景に、映像制作の現場でも働き方改革が求められている。4K・8K、HDRといった映像の高画質化への取り組みに加え、IP・クラウド・AI(人工知能)を活用した新たなソリューション、AR/VR(拡張現実/仮想現実)などの技術革新で映像制作現場の効率化を実現するソリューションへの関心が高い。
また、現代社会は、IoTやAIなどの最新テクノロジーを活用し、人々の快適な暮らしとあらゆる社会課題の解決を図る、Society5.0を目指している。Society5.0の実現による社会課題の解決では、国際連合が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成への貢献が期待される。
世界中のあらゆる産業が、国連が提唱するSDGsへの取り組みを進めている。こうした中、放送業界もNHKをはじめ、民放キー局やローカル局などが「SDGメディア・コンパクト」に署名し、さまざまなSDGs関連番組やサービスを通して課題解決に取り組み、SDGsの目標達成に積極的だ。
NHKは1月からSDGsキャンペーンとして「未来へ17アクション」を開始した。11月をSDGs集中月間と位置付け、多くの番組を集中的に提供している。こうしたコンテンツを〝伝える〟ことを通じて、多様で豊かな社会づくりに貢献していく。
コロナ禍で加速したリモートプロダクション
放送業界にもDXの波が到来している。以前から注目されていたリモートワークフロー関連技術が、コロナの影響で一気に普及した。ニューノーマル時代を迎え、番組制作の現場でも、自宅などの離れた環境から撮影・編集・配信に至るまでの業務を行うニーズが強まっている。
一方、5Gによる通信ネットワークの高度化・多様化が進み、さまざまな産業が連携して新たな付加価値を提供する放送メディア産業への期待も高い。
制作現場では省人化と業務の効率化が求められ、制作現場からリモートで番組制作・配信できる「次世代放送プラットフォーム」が注目される。
放送・映像制作を支えるリモートプロダクションや、パナソニックのIT/IPプラットフォーム「KAIROS(ケイロス)」やリモートカメラなどを組み合わせたシステム、池上通信機のIPとロボティクスを融合させた新たなシステムソリューションなど、各メーカーはリモートで作業を行えるよう、製品開発に積極的に取り組んでいる。
さらに、AIを活用したサービスやソリューションのニーズも増えており、AI技術による番組制作の効率化や課題解決などに大きな期待が寄せられる。
ソニーはこれまで培ってきた映像・音声の技術をベースに、映像制作業界や社会インフラを支える企業・官公庁向けにAIソリューションを提供。社会のさまざまな課題に対し、AIを活用したソリューションの開発・提供を加速している。
これからのウィズコロナ社会に、放送システムと通信ネットワークがどのように応えていくのか、動向に引き続き注目したい。
ユニバーサル放送
Society5.0時代におけるユニバーサル社会の実現に向けて取り組みが進む中、放送分野も、子どもからお年寄り、目や耳に障がいのある人など、あらゆる視聴者が、見やすく、聞きやすく、分かりやすく、安心して視聴できる「人にやさしい」放送・サービスの実現を目指している。
NHKは、今夏開催された東京五輪・パラリンピックで、全ての視聴者が楽しめる「ユニバーサル放送」に力を入れた。
競技データから自動生成した実況と字幕をほぼリアルタイムで、ライブストリーミング映像に付けて提供するサービス「ロボット実況・字幕」および、CGのキャラクターが手話で実況を伝える「手話CG実況」を実施した。あらゆる人が共に楽しめる放送・サービスの提供は、新たな視聴体験として反響が大きかったという。
新4K8K衛星放送の視聴可能機器台数が1000万台を突破
12月1日で新4K8K衛星放送(本放送)の開始から3年がたつ。同放送の視聴可能機器台数は順調に拡大を続けている。NHKや民放BSキー局など、現在は18チャンネルで4K・8K放送を楽しめる。
2018年12月1日の本放送開始以来、視聴可能機器の普及促進に努め、今年の東京五輪・パラリンピックに向けて1000万台を目標としてきた放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は、8月末で視聴可能機器台数が1000万台を突破し、本放送開始から2年9カ月での達成となったことを発表している。これは、日本の全世帯数の5分の1まで普及したことを示す規模だ。
達成の背景には、周知広報・普及拡大策の積極的な展開に加え、新チューナー内蔵テレビへの参入メーカーが14社まで増加して商品ラインアップが拡充したことがあると見る。それにより、商品のバリエーションが豊富になる一方で低価格化も進み、選択肢が増えたことや、コロナ禍でのステイホームによる巣ごもり需要、1年延期して開催された東京オリパラ視聴マインドが後押しになったとの見解を示した。
しかし、9月単月の台数は28万1000台となり、累計1031万台にとどまった。内訳は新チューナー内蔵テレビが約718万台、外付け新チューナーが約26万台、新チューナー内蔵録画機器が約116万台、新チューナー内蔵STBが約171万台。
A-PABでは、東京五輪・パラリンピックが閉幕して一息ついたことなどの反動減とみている。今後さらなる4K・8K放送の普及のために、より一層普及促進を図り、24年パリ五輪・パラリンピックまでに2500万台の普及を目指して、普及を推進していく構えだ。