2022.01.12 【計測器総合特集】アンリツ 車載向け5G試験ソリューション 自動車業界は100年に一度の変革期

■自動車における通信(コネクテッド)の重要性

 自動車業界は100年に一度の変革期にあり、いわゆるCASE(Connected/Autonomous/Shared/Electric)と呼ばれる四つの軸での進化にフォーカスが当てられている。

 コネクテッドについては、従来、サービスを提供しているラジオ/デジタルテレビ放送や、セルラー通信を使った音楽/映像配信などのインフォテインメント、各種交通/安全情報などの配信のほか、V2Xという車車間/路車間通信により、車両周辺情報のやり取りを行う通信サービスが、DSRC(Dedicated Short Range Communication)の技術をベースとして提供されている。

 今後は、自動運転(Autonomous)を実現するために、秒単位で更新される動的情報を含むダイナミックマップ情報をダウンリンク信号として車両で受信するほか、このダイナミックマップの情報ソースとして、各車両のセンサー情報をアップリンク信号として通信を経由して共有することから、コネクテッドの持つ役割は非常に大きい(図1)。

 またCASEで自動車が進化を遂げると、自動車は所有から共有の側面が強くなり、自動車業界におけるビジネスモデルも大きな転換を迎える。いわゆるMaaS(Mobility as a Service)として、移動に付加価値を加え、さまざまなサービス提供が行われる。

 これらが社会を構成するサービス要素となり、スマートシティーを実現する。MaaSビジネスの実現には車両が持つ走行データや、目的地情報といったデータ収集と解析が必要となる。これらのデータの取り扱いはデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)の技術を活用してクラウド、またはエッジサーバーで行われるため、車両とネットワークを接続する無線通信環境が重要な要素となる。

■5Gの拡大期との重なり

 先進の自動車メーカーでは自動運転レベル3の対応車両がリリースされ、今後さらに高度化を目指し、自動運転の技術開発は各社で取り組まれていく。一方で、セルラーネットワークは各国の通信事業者で5G化が進められ、現在拡大期にある。

 こうした背景から、自動車メーカーにおけるコネクテッド技術は5Gの利用を前提として要件定義が進められている。

 5Gは高速大容量、超低遅延/高信頼性、多数接続を特長として規格化されネットワーク構築が進んでいる。これらの特長が高度化された自動車アプリケーション、すなわち自動運転システムのインフラとして活用される。

法規試験化で車両安全性を確保

■ソフトウエアの大規模化と課題

 現在の自動車におけるソフトウエア実装規模は、既に大規模化しており、その量はITアプリツールやスマートフォンOSを超え、ソースコードの行数で2億行である(図2、3)。さらにこれらは自動運転機能が実装され、高機能化が進めばさらにソフトウエア規模は膨らみ、車両を上市する前にソフトウエアバグを取り切るのは困難になってくる。こうした背景から、車両の市場投入後にソフトウエア機能を改善した新しいバージョンのソフトウエアを、セルラーネットワーク経由でアップデートを行う機能を車両に実装する。また、コネクテッドカーとして自動車がネットワークに通信接続されることはセキュリティーリスクにさらされる。

 悪意のあるクラッカーがセキュリティーホールを見つけ出し、車両制御システムに侵入することで車両制御を奪ってしまう場合、その被害の甚大さは計り知れない。

■大規模化したソフトウエアに対する安全施策

 こうした自動車の安全性に対して通信も深く関わっていく背景により、国際連合/国連欧州経済委員会(UNECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)に属する作業部会で、車両のサイバーセキュリティー、およびソフトウエアアップデートに関する規則が制定され、日本においても国土交通省の定める型式認証制度で、新型車および継続生産車それぞれで法規試験適用開始時期が定められている(図4)。

 このような法規試験化の取り組みにより、自動車のサイバーセキュリティー対策、ソフトウエアアップデートによる車両安全性が確保される。

審査適合でSUMS適合証明書

■型式認証制度の実際

 CSMS(Cyber Security Management System、規則番号UN-R155)認証には、プロセスとプロダクトの二つの側面で評定が要求される。

 プロセス面では、認証当局(日本では、国土交通省が所管する自動車技術総合機構の交通安全環境研究所)により、自動車メーカーのサイバーセキュリティー体制や、仕組みの認証と監査が3年ごとに行われる。

 プロダクト面では、認証されたプロセスに従って車両が開発/生産されていることの実証が求められる。これらの審査に適合することでCSMS適合証明書を得ることができる。

 また、SUMS(Software Update Management System、規則番号UN-R156)は、自動車のソフトウエアアップデートを管理する仕組みであり、これもプロセスとプロダクトの二つの側面での認証が行われる。

 プロセス面では認証当局により、セキュリティーを考慮したソフトウエアアップデートの仕組みや、ソフトウエアのバージョン管理の識別子であるRXSWIN(Rx Software Identification Number)を要求される。プロダクト面では、認証されたプロセスに従い、車両が開発・生産されていることの実証が求められ、審査に適合することでSUMS適合証明書を得ることできる。

事前評価でプレテスト環境提供

■法規試験におけるアンリツの貢献

 法規試験を円滑に進め、適合証明書を遅滞なく入手することが、自動車メーカーにとって大切な取り組みとなる。

 このため、アンリツは自動車メーカー、またはサプライヤーで事前に評価を行うプレテスト環境を提供することで、認証試験のスムーズな受験と問題発生時の対処/解決に導くアプローチを提供している。

 セキュリティーテストソリューションの例として、ファジングやポートスキャンといったセキュリティーアタックテスト信号をパソコンで発生させ、これを4G/5G通信メッセージのIPレベルで車載器に入力することで車載器/車載ECUのビヘイビアテストを行う(図5)。

 また、ソフトウエアアップデートの試験として、実環境で発生するさまざまなOTA(Over The Air)接続環境をエミュレートし、試験対象の車両が正しくソフトウエア更新されているかを検証する。ここで、OTA接続環境とは図で示すようにセルラー通信の電波状態をエミュレートしたテストケースで評価を行う(図6)。

■高次化される5G無線信号のアンテナ特性評価

 前述したダイナミックマップや、車両センサー情報を基にした車両周辺情報の共有といったアプリケーションの使用が想定されるため、大容量の通信が要求される。これより、ダウンリンク/アップリンク共に複数のアンテナから異なるデータを同時に送信し、高速化を図るMIMO技術が車載用途で採用される。また、高次MIMO化したセルラー通信だけではなく、FM/AMやWi-Fiなど多くの無線デバイスのアンテナも同時に実装されるため、アンテナ間のクロストークの影響も評価する必要がある。

 こういった評価ニーズに応えるために、OTAテストシステムを開発するMVG社と協業し、被試験車両を丸ごと電波暗室に配置し試験を行うフルビークル評価環境を構築、トヨタ自動車など自動車メーカーに納入を始めている(図7)。

■車両高度化に向けたアンリツの取り組み

 5Gではアンテナの高次化だけではなく、キャリアアグリゲーション(CA)と呼ばれるデータ搬送波を束ねる技術も、4Gと比較して高次化され活用される。

 5Gの特長の一つである高速大容量の通信性能を定量的に評価するニーズは高いが、その組み合わせ試験数は、MIMOやCAのパターン数のほか、車載通信機がサポートする通信バンド種類、帯域幅など全てのパラメーターの掛け算の数分が存在する。これだけを評価するだけでも多大な評価コストが発生してしまう(図8)。

 そこでアンリツは、SmartStudio Automotive Suiteと呼ぶターンキーツールを提供している。このツールは自動で評価対象のDUTである車載通信機のパラメーター情報を把握し、全ての試験組み合わせを自動で行うことで、車載評価エンジニアの負担を軽減、評価コストを飛躍的に低減することに貢献している。

〈筆者=アンリツ〉