2022.02.03 【コンデンサー技術特集】ニチコン小形リチウムイオン二次電池の最新技術動向
【写真1】小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」
小形リチウムイオン二次電池の概要
2019年、小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」(写真1)を市場投入した。「SLBシリーズ」は、負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用することによって、電気二重層キャパシタ(EDLC)に迫る高い入出力密度を実現しており、20Cレート(※1)での急速充放電を可能にしている。
また、高レートで数万サイクルもの充放電を繰り返しても容量劣化が小さいという耐久性を備え、-30℃環境下においても動作可能な優れた低温特性を持つ。さらに、短絡や劣化の原因となるリチウム金属の析出が発生しにくく、発火・発煙の危険性が極めて低い安全な蓄電デバイスである。
※1 Cレートは電池容量(公称容量)に対する充電または放電電流値の比率のこと。
例)1C:1時間で充放電できる電流値。0.5C:2時間で充放電できる電流値。
ラインアップの拡充
現行のラインアップを拡充するべく、今年4月から新製品の量産出荷を開始する。直径3.3mm、長さ9mmで公称容量0.8mAhの製品と、直径4mm、長さ25.5mmで公称容量4mAhの2製品である。現行ラインアップの最小サイズである直径3mm、長さ7mmの公称容量0.35mAh品と直径8mm、長さ11.5mmの公称容量14mAh品の中間サイズを補完することで、容量が不足気味であった面とサイズが大きく収容が困難であるという両側面に対応できるようになる。主にIoT向けの主電源およびバックアップ電源用途に最適であり、現行のラインアップ品と同様に高レートでの充放電が可能なデバイスとなる。
新ラインアップである2定格のCレート特性を以下に紹介する。一般的なリチウムイオン二次電池の場合、低レート充電(例:0.5Cレート)、中レート放電(例:1Cレート)での使用例があるが、ニチコンの小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」は充電/放電ともに20Cレートに達する高レートでの電気の出し入れが可能で、急速充放電を行えることが特長である(図1)。
環境発電との組み合わせに最適な極低レート充電特性
また、SLBは前記の高レート充放電特性のほかに極低レートでの充電においても効率よく蓄電できる特長を有する。図2は直径3mm、長さ7mmで公称容量0.35mAh品において極低レート充電した際の充電カーブである。25℃環境、1/90 Cレート(4μA)という極低レート充電においても高効率で蓄電が可能であり、例えば環境発電(太陽光発電や振動発電など)のような微弱電流を蓄電するのに最適である。
IoTエッジデバイスの通信モジュールに最適な大電流パルス放電特性
さらに、SLBシリーズは瞬時に大電流を放出するパルス放電特性にも優れる。直径3mm、長さ7mmで公称容量0.35mAh品を用い、ピーク電流20mA、パルス幅6ms、周期3s、温度0℃および25℃環境での大電流パルス放電カーブを図3に示す。約60C相当の大電流パルス放電であるが0℃においても25℃比で約80%のエネルギーを取り出すことが可能である。
下に示すように各サイズの最大充電電流は20Cレートと規定しているが、短時間であれば、それ以上の高レートでの放電が可能であり、瞬間的に大電流が要求されるIoTエッジデバイスの通信モジュール用途や、電源バックアップ用途などにも使用可能である。
※本結果は、性能保証をするものではなく、20Cレートを超える放電用途での使用検討をされる場合は別途、問い合わせをお願いします。
SLB電池パックの開発
これまで述べてきたような優れた電池特性を有するSLBシリーズの応用法の提案として、SLBセルを用いた電池パックを第14回オートモーティブ ワールドに参考出品した(写真2)。産業機器や車載関連などの市場を見据え、セルを直列接続して電圧を上げた構成の電池パックである。用途に合わせた電圧仕様にカスタマイズ可能であり、過充電、過放電などに対する保護機能やセルバランス機能など、SLBの長所を生かして安全に使用できる機能を搭載している。
今後について
ニチコンの小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」は上記のような優れた入出力密度特性と耐久性に優れたデバイスであり、ラインアップを拡充したことでより幅広い用途への展開が可能である。
具体的には①環境発電を活用したメンテナンスフリーなワイヤレスIoTエッジデバイスの実現②ハイレート放電特性と繰り返し充放電に強いサイクル特性を生かしたデータ通信用途などに適用が可能であり、インフラモニタリングや電子棚札、環境センシングといった分野での活躍が期待できる。
さらなる市場拡大のため、現在のカテゴリ温度範囲-30~60℃の拡大として85℃対応品の開発を進めており、2022年春以降にサンプル対応予定である。民生用途のみならず自動車関連や産業機器関連でも使用できるデバイス特性を目指しており、単セル使用だけでなく、多セルでの使用も視野に入れ市場を開拓していく。〈ニチコン(株)〉