2022.05.12 【センサー技術特集】手をかざすことで操作できるエレベーター フジテック「エアータップ」の展開
一体型のイメージ
フジテックはエレベーター・エスカレーター・動く歩道の専業メーカーとして、“安全・安心”な昇降機の提供に取り組んでいる。1948年に創業し、現在は国内に120以上の拠点を持つほか、23の国と地域で事業を展開する。
滋賀県彦根市の本社“ビッグウィング”に、フジテック・グループにおけるモノづくりのコア拠点として、エレベーターの研究開発施設を構える。地上約170mの研究塔など最新の実験施設を用いて、日夜、一歩先の時代を見据えたエレベーターの開発に取り組んでいる。
また、研究・開発、販売、生産、据え付け、保守、リニューアルに至る一貫体制の強みを生かし、お客さまのニーズを取り込んだ独創的な新技術・新商品の開発に努めている。
はじめに
2019年末ごろに発生した新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に猛威を振るい、私たちの生活に大きな変化をもたらしている。例えば、公共の場における「3密(密集、密接、密閉)」の回避やリモートワーク・時差出勤といった働き方の見直しが行われるなど、感染防止を目的とした衛生意識の変革により、人々の行動スタイルが短期間で大きく変わった。
エレベーターにおいても同様の理由から、操作時にボタンに直接触れることを避ける傾向が出てきている。かご内に綿棒を常設したり、指の代わりに押すグッズが販売されたりと、さまざまなニュースを目にする。このほかにも、ICカードによるカードリーダーで呼び登録を行うことなども、有効な対策として存在する。
ただし、これらは綿棒やグッズ、カードを所持していることが前提であり、それがない場合は効果を得られない。
このような背景から、特別な道具の所持を不要とし、かつ非接触での操作を可能とする、タッチレスエレベーターの開発を行った。具体的には、操作盤に光電センサーを組み込むことで、誰もが簡単に、非接触で呼び登録などを可能とするものである。
装置名称は「エアータップ」(以下、タッチレスセンサー)で、そのロゴマークを図1に示す。以降にその機器構造やシステム構成について解説する。
1.基本仕様
タッチレスエレベーターの開発に当たり、使用状況や使い勝手を考察し、基本となる仕様を定めた。以降にその概要を示す。
1.1 タッチレスセンサー仕様
タッチレスセンサーの構造および動作仕様について解説する。
1.1.1 適用センサー
センサーは拡散反射形光電形近接スイッチとする(※1)。このセンサーは、検出体自体の表面反射により動作するもので、図2に示すように検出体に光を照射する投光部(投光回路、投光素子)と、検出体からの拡散反射光を受光する受光部(受光素子、受光回路)が、一つのケースに収納された一体形の光電形近接スイッチである。投・受光器や反射板の対向設置を必要とせず、物体からの反射光を一方向から検出することができる。
1.1.2 動作仕様
タッチレスセンサーの動作について次の通り定める。
1)検出範囲
センサー部の装置表面から、1~5cm以内を検出範囲とする。(図3)
これは、エレベーター内の人が行先階登録など操作を行わない場合の立ち位置と、操作を行う場合の手の位置について検証し、その結果に基づき設定している。
装置表面から5cm以内は、操作を行わない場合に体の一部が接近する可能性が低く、また操作時は自然に手をかざす範囲として適切との見解によるものである。
また、視覚障がい者が利用する際の誤検出を抑制するため、非検出エリアを設定した。ボタン表面から約1cm以内を、センサーが無効になる非検出エリアとすることで、視覚障がい者が点字やボタンに直接触れて操作する場合に、センサーが誤検出しないよう配慮している。
2)誤登録防止対策
無意識のうちに呼び登録してしまうことを防ぐべく、上述の検出範囲の設定以外にも以下の機能を用意している。
a)二つ以上のセンサー検出での呼び登録無効
登録装置の近傍に人や物が存在し、複数のセンサーが同時に物体検出した際は、呼び登録を行わない。
b)センサー検出の時間設定
センサーによる登録において、ある一定時間センサーに手指をかざさなければ登録されないよう、設定する。これは、意図せず利用者の手や荷物がセンサーに一瞬接近して登録されることを防ぐためである。
なお、b)においては、使用環境や顧客要求によりセンサーの即応性を重視する場合、検出から登録までの時間を短く設定する。この時間が0またはそれに近ければ、複数のセンサーが同時に物体検出したのか、時間差で物体検出したのかの判別が難しくなり、a)の機能を付加できないケースがある。
3)センサー登録時の報知
センサーによる登録の際、以下にて利用者に知らせる。
a)応答灯:登録状態を表示。
点灯=登録状態、消灯=未登録状態
b)応答ブザー:登録操作に連動して鳴動。
1.2 押ボタンとの併設
タッチレスエレベーターの乗場操作盤と、かご内操作盤は、タッチレスセンサーと押ボタンの併設を前提とした。これは視覚障がい者の利用を想定したことによる。
視覚障がい者がエレベーターを利用する際、点字などの触知によりボタンを認識し操作するが、タッチレスセンサーのみの操作盤の場合、点字などを認識できたとしてもセンサーの位置が分からず、操作が困難である。従ってタッチレスセンサーだけでなく、視覚障がい者が利用可能な押ボタンも設置する。
2.操作盤概要
タッチレスセンサー搭載の機器はタイプⅠとタイプⅡに分類される。以下、各タイプの概要・特徴について解説する。
2.1 タイプⅠ:タッチレスセンサー組込押ボタン
タッチレスセンサーを押ボタンに内蔵したものである。(図4)
このボタンでは、プッシュ操作とタッチレス操作いずれの場合も登録可能となる。登録の際、押ボタンの文字またはマークが応答灯として点灯し、かつ操作盤に組み込みの応答ブザーが鳴動することで、利用者に登録完了を報知する。
従来のエレベーター用押ボタンと同様のスイッチ機構、点灯機能を有しながら、タッチレスセンサーの機能追加を実現した。またこの押ボタンは従来押ボタンと全体外形を同一としており、操作盤への組み込みについては、それと同様の配置(最小ボタン間隔45ミリメートル)が可能となる。なお、タッチレスセンサーの操作については、手のひらをかざす動作では複数のセンサーが検出するため、指差しによる登録動作となる。
2.2 タイプⅡ:タッチレスセンサー・押ボタンハイブリッド型操作盤
操作盤上に押ボタンとタッチレスセンサーを並列配置したものである。
タッチレスセンサーは、ホテルや商業施設など、エレベーターのデザインに高級感やオリジナリティーを求める建物への設置要求が増加している。このような背景から、さまざまなボタンデザインを組み込む設計の柔軟性とタッチレス機能の両立を目的として開発した。標準型エレベーター「エクシオール」のボタンデザイン6種類に対応する。
これによりエクシオールでラインアップするデザイン性の高いボタンを選択できるようになったことに加え、施設に合わせてオリジナルでデザインされたボタンも取り入れやすくなる。対応可能なフロア数は最大14フロア。
3.車いす用操作盤への適用
かご内の側面パネルなどに設置する車いす用操作盤は、利用者が乗車時に立つ位置に近接するため、センサーの誤検出が発生する場合があり、タッチレスセンサーの設置が難しいと考えられていた。
センサーの誤検出を防止するために、操作する意思のある行動と偶発的に近づいた行動の違いを人間工学的に分析。センサーが所定時間継続して反応した場合に操作登録しない機能を新たに開発した。これにより、車いす用操作盤に人がもたれたときなどの不要な検出を抑制でき、車いす用操作盤向けのタッチレスセンサーの商品化にこぎ着けた。
4.今後の展望と課題
タッチレスエレベーターは当初食品工場や病院など、衛生面が重視される建物や施設の需要を想定していた。しかしCOVID-19の感染拡大による公衆衛生意識の高まりから、マンション、オフィスビル、駅、商業施設など、その需要は広がりつつある。そして現在の感染予防意識が一般常識として定着すれば、タッチレスエレベーターは一過性のものではなく、新生活様式の重要な空間移動システムとして高い需要が見込まれる。
その先には、タッチレスエレベーターに対する動作仕様やデザインなど、さまざまなニーズの増加が予想される。今後はそのような仕様要求に柔軟に対応すべく、さらに開発を進めていく必要がある。
おわりに
タッチレスエレベーターは、当初は特定用途の建物向けに開発を始めた商品であり、COVID-19発生以前から研究開発を推進していた。その後、同ウイルスの急速な感染拡大に伴い、当初は想定していなかった建物向けの問い合わせや設置要求が急激に増えた。
世間を取り巻く状況は急激に変化し、人々の行動様式も変わった。こうした中、当社では、問題点や改善案を各タイプで検証し、結果としてタイムリーに商品展開できた。このタッチレスエレベーターを一つの成功例として、今後の商品開発においても社会の要請、市場ニーズの変化に即時に対応し、新しい時代にふさわしい社会インフラの構築に貢献していきたい。
また、これまでも多様な利用者に配慮したエアータップのセンサーを設定するなど機能向上に努めてきたところであり、今後もエレベーター・エスカレーターを通じて、子どもや高齢者など、全ての利用者に“安全・安心”で快適なエレベーターの提供を目指す。
〈資料提供:フジテック(株)〉
〈参考文献〉
※1 一般社団法人 日本電気制御機器工業会、「制御機器の基礎知識(使い方・選び方) センサ編 近接スイッチ」、pp.59-63、2014
https://www.neca.or.jp/wp-content/uploads/2_4_sensor_neighbor.pdf