2023.01.17 【半導体/エレクトロニクス商社特集】世界の注目を集める半導体産業 米欧などで大型投資が活発化

世界の注目を集める半導体産業

米アリゾナ州チャンドラーにあるインテルのプロセッサー工場米アリゾナ州チャンドラーにあるインテルのプロセッサー工場

 半導体産業が世界の注目を集めている。背景には半導体が不可欠な5G、IoT、EV(電気自動車)、脱炭素、DXなど時代の潮流が加速し、一方では経済安全保障の観点から半導体が世界の覇権争いの舞台になっていることがある。中長期的に市場の拡大が期待される半導体に、米欧などで大型投資が活発になっている。

米国

 米国では、2021年9月に中国との技術競争に備えた総額約2800億ドルの法律「CHIPS法」が成立した。半導体の国内生産や研究開発に対して527億ドルの補助金を投じることが盛り込まれている。

 同法成立を受けてインテルは、アリゾナ州で半導体2工場、ニューメキシコ州で先端パッケージング工場の増設を進める。既にオハイオ州リッキング郡で先端半導体工場の建設に着手した。25年に生産開始の予定。また今後10年で計1000億ドル規模の投資を行い、計8棟のファブを擁する巨大半導体製造拠点を整備する。

 半導体メモリー世界3位のマイクロン・テクノロジーは国内の製造能力強化に今後10年で400億ドルを投じる方針を表明。本社のあるアイダホ州ボイシで150億ドルを投じて先端メモリー工場の建設に着工した。

 韓国サムスン電子はテキサス州タイラーに170億ドルを投資し、ファウンドリー工場を建設。台湾TSMCはアリゾナ州で進める半導体工場で第2工場を同地に建設する。総投資額は約400億ドルを見込む。

 TIはテキサス州で300ミリウエハーの生産とユタ州リーハイの最新300ミリウエハーファブ(LFAB)を昨年稼働させた。

 一方で米商務省は、半導体製造装置などの輸出を制限したのに続き、昨年10月に主要なウエハー製造装置や最先端のSoC、メモリーチップの製造に使われるソフト、最先端のスーパーコンピューターなどを対象にした貿易制限措置を発表した。25年までに半導体の70%国産化を目指す中国の計画を頓挫させ、軍事力向上を阻む狙いがある。

欧州

 欧州では22年2月、欧州委員会(EC)がEU域内での最先端半導体の研究開発と生産強化、設計から生産までのエコシステム確立を目指す欧州半導体法案を公表した。30年までに半導体の世界生産シェアを現状の10%から20%へ高めることを目標に掲げて、官民合わせて430億ユーロを投入する。

 インテルは170億ユーロを投じてドイツ中北部ザクセン州とアンハルト州に先端2工場を新設する。23年上半期着工、27年の生産開始を目指す。またアイルランド・リークスリップの既存工場(ファブ34)に120億ユーロを追加投資して製造スペースを2倍に拡張。イタリアでもパッケージングなど後工程工場の建設を計画する。

 欧州企業ではアナログ半導体大手のSTマイクロが米グローバルファウンドリーズと共同でフランスに300ミリファブを新設。新工場はグルノーブル近郊にSTが所有するクロル工場に隣接して建設され、26年から量産を開始する。

 独ボッシュは、ドイツ東部のドレスデンに同社初の300ミリウエハー対応半導体工場を21年に開設したのに続き、半導体事業を一層強化するとして26年までに30億ユーロを投じてロイトリンゲン、ドレスデンの2カ所に半導体開発センターを建設する。これまで欧州進出に難色を示していたTSMCも欧州初の工場をドレスデンに建設する方向で調整しているもようだ。

韓国

 韓国は21年5月に韓国半導体産業の競争力強化を目指す国家戦略「K-半導体戦略」を発表した。30年に世界最高の半導体供給網を構築するというビジョンの下、サムスン電子など民間企業が合計510兆ウォン以上(約49兆円)を投資する。

 サムスン電子は、30年までに半導体の研究開発と平沢市の半導体工場に171兆ウォン(約16兆6000億円)を投資する。

 SKハイニックスは、30年までに半導体関連で約230兆ウォン(約22兆5000億円)以上を投資。チョンジュ市にメモリー工場を新設する。22年10月に着工しており、25年完成の予定で合計15兆ウォン(約1兆5500億円)を投じる。

中国

 「半導体強国」を目指す中国は、国家戦略で半導体産業の育成を図っている。中国政府は現在の5カ年計画で25年までに、「第3世代半導体」と位置付けるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)をはじめとしたパワー系半導体の研究開発と生産に10兆元(約169兆円)の投資を行う。

 しかし、米国政府の制裁により、昨年末から回路線幅14ナノメートル以降の先端プロセス技術に必要な、米などの先端半導体製造装置を入手できず、プロジェクトの投資計画を見直す中国半導体企業の動きも表面化。このため中国政府は、21年からの5カ年計画で半導体を戦略的な重点科学分野に位置付け、外国からの制裁に影響されない独自サプライチェーン(供給網)の構築を目指している。

 中国のファウンドリー最大手で、TSMC、サムスン電子、台湾UMC、グローバルファウンドリーズに次ぐ5位のファウンドリー企業であるSMICは、75億ドルを投じて天津市に半導体工場を新設を計画するが、着工時期、量産開始時期など詳細については明らかにしていない。