2023.03.01 【防災・備災/減災特集】

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から今年で12年を迎える。地震や大雨などの自然災害は後を絶たず、防災や備災、減災に対する意識は高まるばかりだ。家電量販店では防災コーナーが年間を通して大きく展開されるようになったほか、災害時にも欠かせないツールとなっているスマートフォンの電源確保を含めて、ポータブル電源の需要も高まっている。生活の中で防災意識を高めるために、ローリングストックの実践も重要。仮想空間「メタバース」で防災訓練を行うことを目指したコンテンツ開発の動きも出てきている。

非常時に生活用品を供給

 ■BtoC動向

防災意識の高まりもあってポータブル電源の市場が活況だ

 非常時の備えには、日頃からの心掛けが大切だ。代表的な備えの手段であるローリングストックは、非常食などは定期的に食べ、食べた分を補充するもので、内閣府の防災情報ページでは、広範囲に被害が及ぶ可能性のある巨大地震では「1週間以上の備蓄が望ましい」としている。備蓄は3日分で十分と以前は言われていたが、大災害を経験し、防災意識と備えについての考えや方針は大きく変化した。

 防災意識の高まりは、ポータブル電源といった新しい商材の存在感を高めている。中国メーカーが市場で強みを発揮しているが、防災だけでなく、コロナ禍で人気が高まったアウトドアブームも需要を下支えしている。昨年12月にはブルーティが日本初の直営店を東京・神田にオープンするなど、今後も需要の拡大をにらんだメーカーの動きが活発だ。社会的な防災意識の高まりは、企業の新たな取り組みにもつながっている。

 ビックカメラグループのコジマは2月2日、千葉県流山市と災害時に家電品などを優先供給する「災害時における物資応援協力に関する協定」を結んだ。ビックは自治体との連携を重視しており、それが防災関連にまで及んだ形だ。

 量販店は、ポータブル電源やランタン、電池などのほか、非家電品も多く取り扱っている。非常時に生活用品を供給するインフラとして地域で重視されるようになっており、地域密着を目指す上で、コジマは一歩踏み込んで対応したことになる。

 ほかにも最新技術を活用して、防災意識を醸成しようとする動きも出てきている。東京海上日動火災保険とNTTコノキューは、メタバースを活用した社会課題解決の一環として、メタバース上で防災訓練や、防災教育を行うためのコンテンツを開発する方針をこのほど発表した。メタバース上で体験することで、よりリアリティーのある訓練や教育につなげようとする取り組みだ。防災でも、リアルとバーチャルの境界を越えた活動が進み始めている。

インフラは予防保全型へ

 ■BtoB動向

橋や道路などの老朽インフラには予防保全型メンテナンスが求められている

 建設後50年が寿命とされる道路や橋などのインフラ。高度経済成長期以降にその多くが整備され、国土交通省によると全国の道路、橋は2033年に全体の約63%が築50年以上を迎える見込みだ。

 少子高齢化を背景にした生産年齢人口の減少で技術者の不足は深刻。今後、インフラの適切な維持管理が行われない場合、災害に対する危険性は高まる。

 国が力を入れるのは「予防保全型インフラメンテナンス」への転換だ。設備や施設に不具合が生じる前に対策することで、不具合が生じてから行う「事後保全型」に比べ、維持管理などの費用は約3割以上削減できるとの試算もある。

 予防保全型のメンテナンスとして、例えばドローンの活用がある。機体に搭載した赤外線サーモグラフィーカメラで撮影した熱分布画像で、橋や構造物の異常な発熱箇所を効率的に検出して劣化を診断する。高所など人の手が届かない場所でも撮影できる。

 高速カメラを使った遠隔・非接触モニタリングも有効だ。高層ビルや鉄塔、プラントなどの微小な変位を捉えることで、設備の安全性を確認できる。

 防災向けに適した新材料の開発も進む。日本ゼオンのカーボンナノチューブ(CNT)を用いた素子は、振動を熱・電気に変換。地震や火災などを瞬時にセンシングして無線で知らせるシステムに応用できる。地震発生時の振動で発電するので、電気の供給が途絶えても稼働可能だ。

 災害時の設備が適切に稼働するには、平時の点検が欠かせない。

 東日本大震災の発生を契機に普及した非常用電源。産業用ヒーターの坂口電熱が取り扱う試験装置は、データセンターや病院などに設置された非常用発電機の性能確認を行う。法令で義務付けられた定期点検時にレンタルで提供。防災用設備が正常に作動するか定期的に確認することが災害への備えにもなる。

 予防保全型メンテナンスでは、リアルタイムに異常を検知して、インフラの安全性を判断する必要がある。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展で、防災向けモニタリングは高度化している。インフラに設置したセンサー、カメラで取得した構造物の振動や河川の水位など、現場の情報をクラウド経由で収集・分析。インフラ構造物の劣化進行や災害状況を予測できるサービスも始まっている。

 事後から予防へ―。各社は予防的保全に資する防災・備災ソリューションの提案に力を入れる。