2023.08.25 【九州・沖縄版】ケーブルテレビ九州番組コンクールグランプリ受賞作紹介 ドキュメンタリー部門 グランプリ 長崎ケーブルメディア(長崎市)放送部 鴨川仁乃さん  

「戦地からの手紙」

鴨川 さん鴨川 さん

なんでんカフェ「戦地からの手紙~家族へ宛てた386通~」  

 長崎ケーブルメディアでは毎年8月9日に向けて、平和に関する特集を1時間番組で制作している。戦後70年以上が過ぎて被爆者や戦争体験者が減り、当時を語れる人が少なくなってきたことは課題の一つだ。

 これに対して何かできないかと考えていた鴨川仁乃さんは、長崎新聞で戦死した父親から届いた葉書を寄贈して企画展を開いたという記事を読んで、原爆とは異なるが「絵や文があり息子さんのお話も聞けることで、戦争を知らない若い世代にも見やすくできれば」と制作に着手した。

 手紙は諫早市美術・歴史館へ全て寄贈され、触れるのは館側のみと制限もあり、実際に見たのは2回だけ。館の担当者からも386通のどこにフォーカスを当てるか決めた方がいいとアドバイスがあり、選ぶだけでも時間がかかったという。

 子ども向けの絵葉書はカタカナなどが主だったので、若い鴨川さんにも読めたが、妻への手紙は旧仮名、旧漢字で崩し字などもあるため、現代文へ解読するのが大変だった。

 書き起こした文面はテロップで表示しているが、それだけでは若い世代には伝わりにくいと、同社の番組にも出演しているチンドンかわち家の河内隆太郎さんをナレーションに起用。普通のお父さんの声にしたいというイメージにはまった。

 番組放送後、同じようにニューギニアで亡くなった父親を持つ人から「自分の父もこんな風に思ってくれていたのかと」と感想が寄せられたほか、子育て世代からは戦争が遠い世界のことではないと感じたという声もあった。

 「当時を知らない今の人にどう伝えていけばと思っていたが、今のメールのやり取りに近い手紙なら伝わるのでは。若い人に見てほしい。長崎で制作に携わるディレクターとして、番組で引き続き平和へのお手伝いができれば」と話す鴨川さんは、別の業界から元々やりたかったという放送業界へ転職。入社して5年目になる。

 同社は九州だけでなく、全国のアワードやギャラクシー賞など数々の受賞歴がある。今回の受賞は思いもよらなかったが、背中を押してくれたそうそうたる先輩たちに早く追いつきたいと、「自己研さんと切磋琢磨(せっさたくま)の繰り返しです」と話している。