2024.01.04 【家電流通総合特集】わが社の戦略 東芝コンシューママーケティング 鈴木 新吾代表取締役社長

鈴木 社長

テーマ設定で商品提案
実演などで体験価値を上げる

 昨年は、年初から新型コロナが落ち着きを見せ始め、巣ごもり需要から外へとお金を使う動きが盛んになったが、これは想定の範囲だった。

 こうした中、当社は、昨年(1~12月)は前年並みの実績を保った。主要6製品(エアコン、冷蔵庫、洗濯機、オーブンレンジ、掃除機、炊飯器)は、金額ベースで前年比100%前後で推移しているが、マーケット的には炊飯器が苦戦している印象だ。

 夏のエアコンの動きは過去に経験したことがないほど異例だったと思う。猛暑だったが思うほどの売れ行きではなく、肌寒くなった秋口から動きが活発化してきた。エアコン需要が後ろ倒しになった形だ。

 省エネ性への意識の高まりや、共働き世帯の増加などライフスタイルの変化が影響しているのかもしれない。40万円ほどするドラム式洗濯乾燥機の予約販売は直近3年間で一番反響があった。売れる商品はきっちりと売れていることを実感している。

 系列の地域電器店「東芝ストアー」は、6月に個展を開催する店が多い。7月中旬からは個展で販売した商品の納品に追われるというのが例年だが、今年はエアコン販売が後ろ倒しになり、9~10月前半まで落ち着けなかった。

 自治体によっては、省エネ家電について補助金を出している。補助金と併せて提案しているストアーもあり、販売の追い風になっている。

 ストアーの施策として商品価格の見直しも行った。平等性や透明化を担保したものにシフトしたことで、プラスに作用している。

 ベースとなる販促に加えて、商品グループごとの販促にも取り組んでいる。販促のパッケージ化で売り方や提案方法がより明確になっている。

 例えば「ザブーンクラブ」や「大清快プレミアム」などといったカテゴリーに販促を分け、各商品にテーマや目的を設定してプラスの取り組みをしてもらったストアーもある。

 従来の販促に加えてストアーがお客さまに商品を提案しやすくなり、単価アップや買い替えなどの掘り起こしにつながった。ストアーにとっても当社にとっても好影響で、お客さま自身にも気づきがある取り組みだ。

 商品展示数の増加にもつながる。商品を見て納得した上での購入で「良い商品を薦めてもらった」とお客さまに思ってもらいたい。

 ストアーは、お客さまとの距離が近く、生の声を聞きながらやりとりできる。LINEを使ったり、新規のお客さまを開拓したりもしている。従来のように、カタログに書いていることを訴求するのではなく、お客さま一人一人と向き合った提案に注力しており、ストアー自体は前年伸長している。

付加価値を高める

 来店客数が減少している家電量販店も、付加価値を高めたいと考えているだろう。

 リアル店舗だからこその体感提供の取り組みとして、年明けから全国の量販店で「ウルトラファインバブル」の機能を見られる実演展示を展開する予定だ。

 ウルトラファインバブルは、ドラム式洗濯機に搭載している洗浄技術だが、認知度について調査したところほとんど知られていなかった。

 認知度を上げるために、洗濯機の事業部と協力してウルトラファインバブルの機能を見せる実演展示を作成した。お客さまにとって商品のどこがいいのかを示す。

 大切なのは、相手に伝わるかどうかということだ。例えば、オーブンレンジではパンを焼いたりパエリアを作ったりすることが多いが、お客さま目線での深掘りが必要。角皿は「とれちゃうコート」で手入れがしやすいことも伝えると、より納得してもらえる。

 体験型の新商品研修会「東芝体感勉強会(MST)」で見たことを自店でも実践することで、売り上げが伸びた。MSTは、新しい発見と感動を持って帰ってもらう。今年3月にも実施したいと考えており、特に秋口には規模を大きくしたいと思っている。

 当社は、顧客体験価値の向上に軸足を置いている。良い商品を作って購入してもらい、使い続けてもらうことで「東芝の商品は良かった」と実感してもらう。そのためにも、体験価値を上げることに最大限注力したい。

 商品の良さを伝えるために販促を使った営業活動があり、サービスは質と速さを上げないといけない。

 昨年は、猛暑でエアコンや冷蔵庫の故障が増え、修理をお待たせしてしまった。今年はすぐに修理に対応できる体制にしないといけない。応答率を上げる必要もある。

 顧客名簿を持っているストアーは、販促提案も壊れるまで待つのではなく省エネ視点からの提案など、先手でいいのではないか。

 今年は、深掘りをしっかりとし、昨年の課題は改善し、昨年良かったことはさらに良くする心構えだ。台数を販売して売り上げを伸ばす時代ではなく、高付加価値を提供する必要がある。

 良い商品を作ることが前提だが、当社が事業部と連携し、お客さまにとってその商品にどのようなベネフィットがあるのかを訴求していく。

原点に立ち返る

 事実の裏付けとして、原点に立ち返り伝えることが大切だとも考えている。例えば、量販店でのウルトラファインバブルの店頭イベント。量販店の関係者からは「洗濯機売り場での実演は大歓迎」と喜ばれている。

 今年は、50年目など節目を迎えるストアーが多い。個展などは、事前準備を入念に行う作り込みが重要になる。

 個展は、ストアー単体でしっかりと取り組むという意識が高いのではないか。一方で、そうでないところと二極化している傾向もあり、今年はその差が開くと思う。

 四半期ごとに発行している商品カタログも、ストアーがどのタイミングで切り替えを望んでいるのかも含めて、検証しながら作っていきたい。デジタルツールはタイムリーに情報発信できるが、紙のツールを無くさないでほしいという声もある。過去の成功事例が今、当てはまるとは限らない。