2024.07.12 【電子部品技術総合特集】 ハイテクフォーカス ニチコン 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの最新技術動向について

【写真1】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GYCシリーズ」

【写真2】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GXCシリーズ」【写真2】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GXCシリーズ」

■はじめに

 近年、SDGsの達成を目指して、自動車・車載関連分野ではさまざまな取り組みが行われており、特にカーボンニュートラルを実現するために電気自動車(EV)やハイブリッド車の開発が進んでいる。また、安全性能の向上を目指して、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転機能を搭載した自動車の開発も進んでいる。

 これらの機能を実現するために自動ブレーキや画像認識、センサー関連機器、EPS(電動パワーステアリング)、EOP(電動オイルポンプ)などの電動化ユニットが採用され、必然的に自動車に搭載される電子部品数が増えている。車載用途で使用されるコンデンサーには高信頼性に加えて、小形化や高容量化、高許容リプル電流化、低ESR化といった性能向上が継続的に求められている。

 情報通信分野では、5G基地局が展開されているが、4Gと比較してカバーエリアが狭く、多くの基地局設置が必要となる。また、メンテナンスの難しい場所や厳しい環境への設置も必要となる。そのため、電子部品には小形化や高温度化、長寿命化要求がある。

 さらに生成AI(人工知能)の登場により、生成AIサーバー市場も急成長している。生成AIサーバーは、膨大なデータによる学習や推論を行うために、サーバー本体、ストレージ、電力インフラの増強が進んでいる。そのためサーバー全体の電源ラインで、高い信頼性と低ESR性能を持つコンデンサーが求められている。

 これらの背景から、今回は自動車・車載関連分野、情報通信分野、生成AIサーバー分野の技術ニーズに対応できる導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの最新技術動向を解説する。

■導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの構造

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、アルミ電解コンデンサーと同様に素子、封口ゴム、アルミケースで構成。素子は誘電体であるアルミ酸化皮膜を有する陽極箔(はく)と陰極箔の間にセパレーターを介して巻き取られ、それぞれの箔にリード端子が接続されている。この素子に電解質(真の陰極)を含浸・形成させ、封口ゴムおよびアルミケースで封止することで完成する。

■導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの特長

 ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用している。一般的に使用されている導電性高分子PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)は電子伝導を導電機構としており、イオン伝導を導電機構としている電解液に比べて電導度は約1万倍も高い。そのためハイブリッドアルミ電解コンデンサーは低ESR化が可能であり、低温領域下でもESR変化が小さく、寒冷地や高地などの環境下でも安定した性能を維持することができる。

 また、ワット損失(W=ⅰ2R W:発熱 I:リプル電流 R:ESR)の考え方により、リプル電流による製品の自己発熱を低減することができるため、アルミ電解コンデンサーに比べて許容リプル電流を大きくすることが可能となる。

 アルミ酸化皮膜の修復性、低蒸散性、高温環境下での導電性高分子との安定性に重点をおいた電解液を開発し、製品へ適用している。これにより、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流が低く、高温環境下で長時間使用しても電気的性能が維持できる高信頼性の製品を達成している。

■導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーのシリーズ紹介

 135度または125度4000時間保証 高温度・高リプル品「GYCシリーズ」、135度または125度4000時間保証 高温度・超高リプル品「GXCシリーズ」

 当社は125度4000時間保証の導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーGYAシリーズと、105度1万時間保証のGYBシリーズを上市し、車載・民生・産業機械市場を中心に幅広く採用されている。続いて市場の要求に応えるため、高温度や高リプルに対応した製品として2019年に135度4000時間保証(φ6.3は2000時間)の「GYCシリーズ」を追加した。

 GYCシリーズは125度と135度の両方で定格リプル電流値を設定しており、顧客の設計ニーズに応じて保証条件を選択できる。例えば125度で使用する場合、135度に比べて1.3~1.8倍の定格リプル電流値を許容することができる。サイズはφ6.3×5.8L、φ6.3×7.7L、φ8×10L、φ10×10L、φ10×12.5Lの5種類に加えて新たにφ10×16.5L(写真1)も追加して高容量、高リプル化を達成した(表1)

 また、機器の高性能化と小形化に貢献するために、GYCシリーズから定格リプル電流値を上げた「GXCシリーズ」(写真2)を開発し、24年4月から量産を開始。GXCシリーズは電極箔の最適化と高耐熱性の封口ゴムを採用することで、GYCシリーズと同様の保証寿命を維持しながらGYCシリーズより1.3~2.1倍の高リプル化を実現した(表2)

■今後の展望

 ADASや自動運転システムなどの安全関連技術や自動運転機能の分野では、今後も拡大が予想される。AIサーバーや5G基地局などの市場も拡大傾向にある。これらの分野においては小形かつ高性能な電子部品の需要が高まっている。このため、コンデンサーのさらなる高性能化が求められており、小形化や高容量化だけではなく、高温度や大電流にも対応する必要がある。当社は、今後も顧客の要求に迅速かつ最適なコンデンサーを提供できるように、開発を進めていく。〈筆者=ニチコン〉