2024.09.20 【電子部品メーカー/商社 ASEAN特集】世界拠点として重要性高まる 製造業の脱中国が進む
日本の電子部品業界は、ASEANでの事業活動を一段と活発化させている。市場変化のスピードが増し、製造業の〝脱中国〟機運も高まる中で、グローバル製造供給拠点としてのASEANの位置付けはますます重要性が高まっている。電子部品各社は、ASEANエリアの工場や販売・物流拠点への投資拡大と現地機能拡張を進めることで、さらなるビジネス拡大を目指す。
日本の電子部品メーカー/商社は、グローバル事業拡大のための最重要エリアの一つにASEANを位置付け、同エリアでの事業体制を充実させている。各社にとり、ASEANは製造・販売・技術開発・物流・情報収集などあらゆる面で重要性が高まっている。
日系電子部品メーカーのASEANでの工場進出エリアは、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、シンガポールなど多岐にわたる。営業拠点も、シンガポールやバンコクなどを中核に各国に開設されている。国内外の完成品や完成車メーカー、Tier1などのASEAN開発体制強化の動きに対応し、部品各社の技術サポート体制強化も進んでいる。
近年のASEANエレクトロニクス市場は、中国の人件費高騰や米中摩擦、中国政府による規制強化などさまざまなチャイナリスク回避の受け皿としての側面も含め、重要度が高まっている。特に中国生産一極集中からの脱却のためのASEAN投資拡大は、コロナ明け以降一段と加速し、2024年も継続している。
自動車業界では、地産地消ニーズに対応し、タイを中心としたASEAN生産体制拡充に力が注がれている。半導体業界は、マレーシアを中心にASEANへの巨額投資が実施されている。白物家電や事務機も、ASEANは日系メーカーのグローバル生産供給基地として重要性が高まっている。
米中摩擦に際しては、米政府による中国企業との取引制限や高関税政策などの措置を回避できる第三国としての重要度が高まり、米系や日系、さらには中国系企業も含めたASEAN生産シフトが活発。こうした動きを背景に、ベトナムやタイを軸に部品企業の追加投資が活発化している。
ASEANでは20年から21年にかけ、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を強く受け、大半の国でさまざまな行動制限や移動制限が実施された。
そうした中でも、ASEAN進出の日系電子部品メーカーの生産は、20年春から夏を底に、その後は堅調な回復が継続し、21年から22年にかけて好調な稼働状況が続いた。22年にはコロナ関連の規制もほぼ全廃され、コロナ前の経済活動に復帰している。
23年は、グローバルエレクトロニクス市況鈍化の影響から、ASEAN工場の稼働率はやや停滞したが、直近では回復傾向にあり、24年も生産増強への積極的な投資が実施されている。
ASEAN加盟10カ国の総人口は7億人に近づき、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)を大きく上回るとともに高い人口成長率が続いている。ASEAN10カ国の総GDPは4兆ドルに近づき、1人当たりGDPも含め成長が続いており、世界の消費市場を支える地域としても期待が高まっている。
電子部品生産展開
日系電子部品メーカーのASEAN工場の進出場所は多岐にわたる。中でも早い時期から工場進出が進んだマレーシアやタイの生産拠点では、長年の事業活動を通じたノウハウの蓄積や優秀な人材の育成により、付加価値の高い生産が展開されている。
特に自動車産業の集積が進むタイでは、車載に特化した工場体制構築などが進められている。生産規模の大きいタイの白物家電やエアコン市場に照準を合わせた電子部品の生産増強も進展。マレーシアでは欧米系半導体メーカーの投資拡大に照準を合わせた関連部品の供給体制構築に力が注がれている。
一方、ベトナムやフィリピンは、豊富な労働力を強みに、従来の中国生産を代替する電子部品の輸出型工場として、生産能力増強への投資が活発。
タイやマレーシアの工場をマザー工場とした、メコン地域振興国(ラオス、カンボジアなど)へのサテライト工場展開も進む。
営業体制拡充
日系電子部品メーカー/商社のASEAN営業拠点は、シンガポールやタイを中核にさまざまなエリアに広がっている。特に近年は、自動車産業が集積するタイでの体制拡充が進んでいるほか、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどでの新たな拠点開設や人員増強に力が注がれる。
また、急成長が続くインドでの顧客サポート体制構築も加速しており、ベンガルールやグルグラム周辺などを中心に、新たな現地法人設立や人員増強が進展している。
営業拠点へのFAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)やセールスエンジニアの配置強化やローカルエンジニア育成にも力が注がれる。
技術体制拡充
部品メーカーや部品商社のASEAN技術体制拡充も進展。現地工場での金型や治工具開発、自動機設計などに加え、製品設計機能の拡充も進み、現地で設計した電子部品を一気通貫で立ち上げ、ASEAN市場やグローバル市場に供給する企業もある。現地の設計リソースを活用し、部品単体に加えて基板アセンブリーなどのODMを展開することで、新規ビジネス拡大が志向されている。シンガポールなどに本格的なR&D拠点を開設する企業もある。
エレクトロニクス商社のASEAN技術体制拡充の動きも活発。工場自動化支援のためのエンジニアリング事業を強化する企業も目立っている。
日系電子部品商社のASEANでのEMS事業も展開されている。各社は現地の協力企業などと連携し、技術商社としての強みを生かした転換を推進。自社工場を現地に開設し、基板実装の内製化などを行う企業もある。