2024.09.20 【電子部品メーカー/商社 ASEAN特集】ASEAN法定最低賃金、上昇続く

外資系企業の工場進出増など背景

 ASEANでは、経済成長とインフレ進展、外資系企業の工場進出増加などを背景に、各国の法定最低賃金上昇が続いている。2024年も既に多くの国が最低賃金引き上げを実施した。

 ASEANの工場ワーカーの法定最低賃金は、「チャイナ+1」としてASEAN再投資の機運が高まってきた10年ごろから上昇が加速。10年代後半はやや上昇率が鈍化したが、それでも国によっては毎年1割近い金額の改定が実施された。

 新型コロナ感染症拡大が深刻化した20年と21年は大半の国がコロナ禍による経済へのダメージを考慮して改定を見送ったが、コロナが落ち着いてきた22年以降は、再び各国が一斉に法定最低賃金の引き上げを実施または発表している。

 加えて、最近は業界の「脱中国」志向から、中国系企業を含む外資系製造業のASEAN生産シフトが一層加速していることもあり、法定最低賃金と実際の初任給の乖離(かいり)も拡大している。

 ASEANの中でも外資系企業の投資が活発なベトナムでは、24年7月に2年ぶりの最低賃金引き上げが実施され、最も高額な第1地域(ハノイ、ホーチミンなど)では月額が従来比約5.98%上昇した。フィリピンでは24年7月に3年連続の引き上げが実施され、マニラ首都圏では日給が従来比5.7%上昇した。インドネシアでは、24年1月の改定で西ジャワ州ブカシ市の法定最低賃金が534万3430ルピアに引き上げられ、それまでの西ジャワ州カラワン県を抜いて国内最高額となっている。

 多くの日系企業が工場を展開するタイでは、24年4月の改定で法定最低賃金(日給)が従来比2.83%増の363バーツに引き上げられた。マレーシアは、23年は最低賃金が全国一律月額1500リンギットで据え置かれたが、24年は年内に見直しの実施が予想されている。

 最近のASEAN主要国では、法定最低賃金改定が隔年などで実施されるケースも多いが、実際の日系進出企業の現地法人では、毎年、安定的な初任給引き上げを実施している。

 国によって最低賃金の定義は異なり、また、実際の給与水準と法定最低額との乖離が激しい地域もあるため、単純比較はできない。それでも、ASEAN工場ワーカーの賃金は、シンガポールを除けば、中国沿岸部との比較では割安。ただし、数年前との比較では、ASEANのワーカー賃金も着実に上昇している。

 最低賃金引き上げは、国民の消費力向上により経済発展につながるが、急激すぎる人件費上昇は現地進出企業には負担となる。このため、現地進出の日系電子部品メーカーは、継続的な生産性改善や生産ラインの自動化・省力化推進、徹底した無駄の排除、業務の高付加価値化を進めることで、収益性の向上を追求する。