2024.11.01 【照明業界 未来予想図】〈3〉LED照明ブームがもたらした“混沌”と“狂熱”①

LED照明は東日本大震災が契機となり急速に普及(出所:富士経済)

 LED照明は、2010年代初頭の時点で、あくまで「将来的」と前置きがつく格好で普及が見込まれている製品だった。それは、LED光源自体の効率(ルーメン/W)やコスト(円/ルーメン)、照明器具に実装した際の放熱設計や品質管理など、従来照明の性能基準からするとまだ不十分、未整備な点が多かったためだ。

LED大ブーム到来

 ランプメーカーは、照明をいずれLED化するにしても、従来事業を「延命」しつつ、「軟着陸」させたいという目論見も意識される局面だった。そのため、LED照明は、白熱電球を代替する「LED電球」で当初、1個当たり1万円以上の価格で販売されていた。つまり、交換需要の減少を新規需要で補いつつ、製品価格を安易に下げないための、既存メーカーの理に適う選択を行っていた。

 しかし、電機大手のシャープをはじめ、新興企業や異業種企業がコモディティ化されるLED照明市場への参入に意欲的だった。そのため、LED電球は、一般消費者にも購入しやすい価格帯へと瞬く間に下落していった。

 当時のトピックスとしては、09年6月にシャープが家庭用電球事業に参入した際、1個当たり4000円を切るLED電球を発売したことが「シャープ・ショック」と表現されるほどだった。それほど電機大手の積極的な価格攻勢が、世の中に大きく報じられた。

 生活用品大手で同時期に照明市場に参入したアイリスオーヤマは、10年3月に1個当たり約2500円、11月には2000円を切る価格のLED電球を発売。08~10年の短期間で、大幅に製品価格が下がることになった。特に家電量販店などBtoC(消費者向け)ルートが主体の製品は、商流の過程で価格競争が激化しやすいため、こうした値崩れも顕著に見られた。

 一方、電材や電気工事も必要なBtoB(企業向け)ルートでは、値崩れや商流開拓が相対的に起きにくい構図となっていた。そのため、蛍光灯を代替するLED直管ランプやLED照明器具を製造するプレーヤーは増えていたが、販路・顧客開拓に苦戦する新興勢も多数存在していた。

 逆説的に言えば、BtoBへの進出に新興企業が苦戦したことで、価格攻勢によって販路開拓やブランド認知向上を進めやすかったBtoCに傾倒せざるを得ない状況だったとも言える。従来のランプメーカーからすれば、家庭用市場こそ安価なLED電球で「旨み」が奪われたとしても、より膨大なストック(既設照明)市場を持つBtoBのランプ・照明器具市場さえ荒らされなければ良し、とする見方があった。

 それらの趨勢が一気に変化したのが、11年の春から夏にかけて、東日本大震災に端を発する省エネ・節電ニーズの高まりだった。発電所の稼働停止によって首都圏の電力不足の懸念が急速に高まり、特に夏季には計画停電を実施する事態にも陥った。電力使用量を抑制する「省エネ対策」は喫緊の社会課題となった。

 建築分野の電力使用量の上位は「空調機器」と「照明機器」。こうした中、LED照明は「状況を打開する有力な省エネルギー製品」として世間に広く認知されるとともに、その普及による社会課題解決の期待値も高まった。

 ところが、多くの古参照明メーカーにとってLED照明器具のラインアップ拡充や商品開発、その普及促進には当時、それほど積極的ではなかった上、体制も十分に整っていなかった。そのような状況下で、ユーザーニーズが急激に高まることになったわけだ。

間隙を突く新興

 「LED化できるならとにかく欲しい」

 こうした考えの先進ユーザーと、LED照明で攻勢をかけたい新興企業の思惑が合致し、LED照明は急激に拡大することになる。中でも11年から急成長したのは、従来のランプ製品から簡単に交換できるLED電球やLED直管ランプといった「LEDランプ市場」だった。

LED直管ランプは当初、新規参入企業が存在感を発揮(出所:富士経済)

 LEDランプ市場が急成長した背景には、①器具ごと交換すると工事費も掛かるため、導入費が高くなる②天井・電気工事の手間が大きく、切り替えスピードが遅い③蛍光灯などの主要照明に代替するLED器具が十分にそろっていない――などの理由が挙げられる。

 特に省エネ・環境対応に敏感な総合スーパー(GMS)やコンビニチェーンなどは、「11年の夏までに」「無理でも11年冬、12年夏にはLED化したい」といったニーズが高く、従来の照明メーカーはそのスピードに対応しきれていない状況が散見された。それを象徴するように、この時期には制御機器メーカーのIDECがローソンにLED照明を導入。京セラもセブンイレブンの店内照明を受注するなど、照明市場への新規参入企業が大口ユーザーに納入する事例が相次いでいた。

 LED直管ランプではサムスンやアイリスオーヤマ、オプティレッド・ジャパン(現オプティプラス)のほか、多数の新興企業がユーザーニーズとチャネルをとらえ、台頭し始めていた。

 特に蛍光灯器具の販売で顧客をつかみ、ランプの交換需要で継続的な利益を稼ぐという光源ビジネスを軸にした既存照明メーカーにとって、この状況は実に悩ましい事態となった。しかし、その後数年で大勢は決着がつくことになる。

<執筆構成=富士経済・石井優>

【次回は11月第3週に掲載予定】