2025.01.09 【電子部品総合特集】ハイテクフォーカス ニチコン、大型アルミ電解コンデンサーの最新技術動向
アルミ電解コンデンサーは、アルミニウムを電極として使用することでいくつかの特長を持つ。まず、アルミニウムの陽極酸化皮膜は高い比誘電率を持っているため、大きな静電容量を得ることができる。さらに、アルミニウムは弁金属の中でも比較的入手しやすく、価格も安価であるため、ほかのコンデンサーに比べて低コストで製品をつくることができる。これらの特長から、大型アルミ電解コンデンサーは、電気自動車の車載充電器などの自動車分野、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー分野、通信基地局やデータサーバーなどの情報分野、工業用ロボットやFA機器などの産業機器分野といった成長が期待される分野で広く使用されている。
大型アルミ電解コンデンサーは主に電源の入力電圧の平滑に使われ、スイッチング電源回路やインバーター回路で安定した電気を供給する重要な部品である。今後もさらなる性能向上が期待されている。本稿では、大型アルミ電解コンデンサーの最新技術や市場のニーズに応じた当社の開発取り組みと製品ラインアップを紹介する。
高容量高リプル電流対応
アルミ電解コンデンサーでは、大きな静電容量と高リプル電流に対応することが常に求められている。近年では、電気自動車に搭載されるオンボードチャージャーの小型化が進んでおり、それに伴ってアルミ電解コンデンサーも高リプル電流に対応する必要がある。高容量かつ高リプル電流の開発においては、最新のエッチング技術による電極箔(はく)の高容量化や、高温でも信頼性と安定性を保てる電極箔や電解液を採用することが重要なポイントとなる。
基板自立形高容量高リプル電流対応品 105度 5000時間保証「LGAシリーズ」
新たに市場に投入した105度 5000時間保証の「LGAシリーズ」(写真1)は、現在ラインアップしている小型の「LGLシリーズ」と同等のサイズと静電容量を持ちながら、高リプル電流対応の「LGWシリーズ」と同等以上のリプル電流を実現している。さらに、長寿命の小型品「LGXシリーズ」と同等の耐久性も備えている。「LGAシリーズ」は、新しく開発した高容量の電極箔や、高容量に適した部材を使用し、熱安定性に優れた高信頼性の電解液を採用することで、高温に対応することを実現した。さらに、単位体積当たりの定格リプル電流は、業界で最高レベルを達成している。
高温度125度対応
5Gなどの情報通信機器や環境・再生可能エネルギーの分野では、厳しい環境での設置が進んでいる。そのため、防じん対策として電源のファンレス化や密閉化、部品の高集積化が進められているが、これにより機器内の温度が上昇し、高い耐熱性が求められている。また、メンテナンスが難しい無人の遠隔地での使用を考慮して、長寿命の必要性も高まっている。これらの要求に対応するためには、熱安定性に優れた電解質や添加材を使用した電解液、高温環境でも漏れ電流を抑制できる誘電体技術や電解紙、そして製品の構造設計が開発の重要なポイントとなる。
基板自立形高温度対応品 125度 5000時間保証「LHXシリーズ」
新たに市場に投入した「LHXシリーズ」(写真2)は、現在ラインアップしている125度 3000時間保証の「LHTシリーズ」と同じ定格、サイズ、許容リプル電流を持ちながら、長寿命の125度 5000時間の保証を実現している。「LHXシリーズ」は、高信頼性の電極箔と、電解液を多く保持できる電解紙、さらに高温でも安定した耐久性を持つ高信頼性の電解液を組み合わせている。これらにより、従来の「LHTシリーズ」と同等の性能を維持しながら、業界最高水準の高温度・長寿命を実現した。
今後の技術ニーズ
大型アルミ電解コンデンサーは、電源の入力電圧を平滑化するための選択肢として今後も候補になると考えられる。しかし、使用条件が厳しくなるにつれて、小型で高リプル、高温度、長寿命といったニーズが強まり、フィルムコンデンサーなどほかの種類のコンデンサーが選ばれる可能性もある。このため、さらなる性能向上が求められている。
例えば、環境問題への取り組みや地域の環境整備が進む中、電気自動車の普及が進んでいる。これにより、電気自動車に搭載されるオンボードチャージャーユニットは、さらなる小型化や部品の高密度実装が要求されている。このため、パワーデバイスにはSiCやGaNが使用され、アルミ電解コンデンサーには高リプル電流への対応が求められている。また、通信基地局はこれまで設置されていなかった山岳地域や海上などの厳しい環境にも設置が進むと予想される。これに伴い、125度の高温度に対応することに加え、設備のメンテナンスの頻度を減らすために長寿命の製品の需要も高まっている。当社は、電極箔や電解液などの主要材料の開発と製品設計を一つの組織に集約した技術センターを中心に、今後の市場ニーズに応じた新製品の開発に取り組んでいく。〈筆者=ニチコン〉