2025.01.16 【計測器総合特集】効率化が促す計測技術の新時代 横河計測、大電流と高電圧に対応
CT1000S AC/DCスプリットコア電流センサー
近年、持続可能な社会の実現を目指す動きが強まる中、計測器業界においても省エネルギーと効率化への対応が強く求められている。特に電力機器やエネルギー変換装置の計測現場では、次世代パワーデバイスの採用が進む中、大電流および高電圧に対応する計測技術が必要とされている。これらのデバイスは、環境負荷低減と省電力化の要となるため、その性能を正確に評価できる計測器の役割がますます重要性を増している。
大電流測定のニーズと課題
省エネ化やカーボンニュートラル推進による電動化の拡大に伴い、大電流測定への需要が高まっている。特に、自動車・運輸機器分野でのxEV(電動車)化や再生可能エネルギー分野では、インバーターやモーターの効率向上を目指し、より高精度で広帯域な計測が求められている。しかし、いくつかの課題がある。
まず、測定精度と利便性の両立が挙げられる。以前から用いられている貫通型電流センサーは高精度であるものの、使用時にはケーブルの切断ないしは付け替えが必要な場合が多く、設置や取り外しに手間がかかる問題があった。一方で、スプリットコアタイプのセンサーは設置が容易だが、測定精度が劣る傾向があった。
また、性能評価のための大電流の広帯域測定では、ノイズ環境下でも高精度を維持することが重要である。特にxEV開発では、基本波の高調波成分とともにキャリア周波数の測定が必要であり、センサーには優れた周波数特性や同相電圧除去比(以降、CMRR)が求められる。
次世代の課題を解決 CT1000S AC/DCスプリットコア電流センサー
これらの課題に応えるべく、横河計測は「CT1000S AC/DCスプリットコア電流センサー」を発売した。CT1000Sは高精度かつ、従来の貫通型電流センサーでは難しかった設置の手軽さを実現した次世代の測定ニーズに応える製品となる。
CT1000Sは、スプリットコア構造により測定対象ケーブルの切断や付け替えが不要となり、取り付け・取り外しが容易だ。これにより、試験や保守作業の効率が飛躍的に向上する。
また、DCから300キロヘルツまでの広帯域測定に対応し、CMRRの高い性能により、厳しいノイズ環境下でも安定した測定が可能であり、一般的なスプリットコア型センサーに対して、周波数特性、位相特性、ノイズ耐性などで優位性を持っている。特に100キロヘルツまでのフラットな特性や小振幅信号でも安定した測定が可能な点は、それら製品群との大きく異なる優位点となる。
さらに専用アクセサリーの導体位置アジャスターを用いることで、測定対象ケーブルの位置による測定値への影響を最小限に抑える。センサー本体はねじ止めによる固定が可能で、位置ずれ防止によって安定性が向上している。
CT1000Sは、電力計と波形測定器(例:DL950、WT5000)のどちらにも使用できる電流センサーのため、従来のように各測定器に合わせて複数の電流センサーを用意する必要がなくなり、コストと設置の場所と手間を削減するメリットが得られる。
さまざまな測定器と組み合わせて使うことにより、xEVや再生可能エネルギー分野を中心に、大電流測定が必要とされるアプリケーションでその性能を発揮する。例えば、xEVのインバーターやモーターの効率評価、太陽光発電システムのパワーコンディショナーの特性評価などに最適である。また、船舶や建機などの電動化が進む大電流測定が必要な分野でも、重要な役割を果たすことが期待されている。
パワーデバイスの高精度測定
近年、次世代パワーデバイスとして注目されているSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)は、高耐圧、高速動作、低損失といった優れた特性を備えており、インバーターやコンバーターなどの電力変換機器への導入が進んでいる。これにより、高効率なエネルギー変換が実現し、脱炭素社会の実現に向けて重要な役割を果たすと期待されている。
これらの新しいデバイスやアプリケーションの設計、開発、評価を行うには、高速かつ高電圧の信号を正確に測定できる測定器の活用が不可欠となる。
PBDH0400シリーズ差動プローブ
高分解能オシロスコープDLM3000HD/DLM5000HD
横河計測の「PBDH0400シリーズ差動プローブ」(702921/702922)と「高分解能オシロスコープDLM3000HD/DLM5000HD」は、これらの要件を満たし、次世代パワーデバイス向けに最適化された測定ソリューションを提供する。
DLM3000HD/DLM5000HDは、垂直軸分解能12ビットという高分解能を備え、従来製品と比較して16倍の測定分解能を実現している。さらに、PBDH0400シリーズと組み合わせることで、最大2000Vの高電圧および広いダイナミックレンジでの測定に対応し、400メガヘルツの広帯域測定も可能となる。
この特長を生かすことで、高速スイッチングに伴うサージやリンギング、さらにはさまざまな要因で発生するノイズを正確に観測できるだけでなく、スイッチング損失を高精度で求めることが可能となる。また、2カ所同時ズーム機能をはじめとする多彩な解析機能を活用することで、開発および評価の効率を大幅に向上させることができる。
PBDH0400シリーズは、最大電圧1000V対応のモデル(702921)と、2000Vまで対応するモデル(702922)の2種類を用意しており、用途に応じて選択が可能だ。優れた周波数特性フラットネスや高いCMRRにより、ノイズの多い環境下でも正確な測定が可能となる。
加えてPBDH0400シリーズは、横河計測独自のプローブインタフェースにより電源が供給されるため、外部電源を必要とせず、減衰比などの設定が自動で行われるので設定の手間やミスを削減する。この機能は、測定効率の向上とともに、装置全体の省スペース化にも貢献する。
電気自動車や再生可能エネルギー市場だけでなく、産業用機器や家電市場など幅広い分野での活用が期待されており、特に、次世代のインバーター装置やスイッチング電源の評価において、その性能は開発効率を大幅に向上させることが見込まれている。
脱炭素社会実現に貢献
当社が提供するCT1000SやPBDH0400シリーズ、DLM3000HDといった革新的な製品は、高精度かつ効率的な測定を実現し、多くの産業で活用されている。これらの製品は、エネルギー効率の改善を通じて次世代の技術開発を支え、最終的には脱炭素社会の実現に貢献する。
この目標を達成するため、横河計測は今後も測定精度の向上や使いやすさの追求に取り組み、顧客の期待を超えるソリューションを提供し続けていく。〈筆者=横河計測〉