2025.01.21 【半導体/エレクトロニクス商社特集】半導体用材料
EUVペリクル
次世代材料の開発加速
生産能力の増強投資に注力
電子材料メーカー各社の半導体用材料の新製品・新技術開発が活発化している。生成AI(人工知能)の普及や自動運転技術の高度化などを背景にした半導体デバイスの高速・大容量化や高集積化などに照準を合わせ、半導体のイノベーションを促進する次世代のプロセス材料やメモリー材料などの開発を加速させている。将来の需要増に備えた生産能力増強投資にも力を注ぐ。
高い競争力を維持
世界の半導体材料市場における日系材料メーカーのシェアは約5割に達し、ワールドワイドで高い競争力を維持している。特に先端半導体分野で使用されるキーマテリアルでは、日本企業が極めて高いプレゼンスを発揮している。
半導体製造の前/後工程で使用される電子材料には、シリコンなどの半導体ウエハー原料をはじめ、半導体フォトレジスト、エッチング剤、リードフレーム材料、封止材、ボンディングワイヤー、モールディング樹脂、半導体製造用高純度ガスなどさまざまな種類があるが、多くの分野で日本企業の世界シェアは5割を超え、製品によっては9割超の圧倒的なシェアを有するものもある。
次のニーズに対応
電子材料メーカーは、スマートフォンやウエアラブル機器などの高性能モバイル端末や、次世代自動車、産業機器、サーバー/データセンター、新エネルギー関連などのアプリケーションの技術進化が促進する半導体の技術革新に照準を定め、次世代のニーズに対応する材料開発を推進する。
特に、AIが促進するサーバー/データセンターの高速・大容量化や、ADAS/自動運転技術の高度化、次世代情報通信端末、次世代インフラなどに対応する半導体の微細化や高性能化をサポートする技術開発に注力。機器の高性能化や脱炭素/カーボンニュートラルのニーズに対応した次世代パワーデバイス用材料開発も進展している。
パワー半導体向けでは、車載・産機市場での省エネ・高効率化ニーズに対応する次世代半導体素材として、SiC(炭化ケイ素)材料やGaN(窒化ガリウム)材料などの化合物半導体材料の開発や生産能力増強の動きが活発化。さらに、SiCやGaNよりもコスト性に優れるワイドバンドギャップ材料として、酸化ガリウム(Ga₂O₃)の技術開発も進んでいる。
酸化ガリウム半導体はSi半導体に比べて消費電力の低減が図れるほか、SiC材料などに比較して結晶の成長速度が速いため製造コストの削減が見込まれている。パワー半導体用材料メーカーは、これらの次世代パワーデバイス用素材の欠陥低減に向けた技術開発に力を入れる。
半導体露光プロセスでは、半導体チップの微細化を支える次世代露光技術「EUV(極端紫外線)」の技術開発が盛んだ。EUVリソグラフィーでは、波長13・5ナノメートルのEUVを光源とすることで、数ナノメートルの回路パターンをシリコンウエハーに形成できる。EUVリソグラフィーは、7ナノメートルプロセス世代以降のロジック半導体やメモリー半導体に不可欠な技術として一部の半導体メーカーで実用化が始まり、今後、飛躍的な市場拡大が見込まれている。
このため、半導体フォトレジスト(感光材料)メーカーは、先端露光技術であるEUVやArF(フッ化アルゴン)、KrF(フッ化クリプトン)レジストなどの技術開発や生産設備増強への投資を活発化させている。
EUVペリクル(フォトマスク防じんカバー)では、過酷な露光環境への対応や高透過率へのニーズに対応する次世代EUVペリクル開発が進展している。従来のシリコン系膜ペリクルに加え、過酷な露光環境への対応や高透過率のニーズに対応する次世代露光用CNT(カーボンナノチューブ)ペリクルなどの技術開発も進められている。
最近は、データセンターの高性能化と設置台数急増に伴い、データセンターで消費される電力量の増大が社会問題化しており、データセンターの電力負荷低減に寄与する光通信技術(シリコンフォトニクス)の拡大が期待されている。こうした動きに対応して光半導体用材料の技術開発も活発になっており、InP(インジウムリン)などの光半導体をシリコン基板上に実装するための転写材料やキャッチ材料などの開発も進んでいる。
最近の半導体市場では、5Gや生成AI、自動運転、遠隔医療などの技術革新が進む中で、前工程のウエハープロセスのナノ超微細化だけでなく、後工程の半導体パッケージングプロセスにも注目が集まっている。パッケージングプロセスのモールド工程用として、独自の材料技術によって金型汚れを大幅に抑制し、最先端の半導体製造の稼働率向上に寄与する先端半導体向けモールド離型フィルムなどが開発されている。
半導体市場の中長期の拡大に対応するため、材料メーカー各社の新工場建設や既存工場増強などの投資戦略も活発化。
最近では、半導体デバイスメーカーの投資が活発な九州・熊本地区での新工場建設や新倉庫建設、ラピダスの最先端半導体工場の建設が進む北海道地区において新拠点開設などに乗り出す企業も増加している。
MIなど活用しDX
電子材料各社の、AIやMI(マテリアルインフォマティクス)などを活用した業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みも加速している。これにより、研究開発の効率化や新素材の迅速な市場投入などが追求されている。
さらに、複数のAIを用いて複雑な構造を持つ材料のデータを処理し、高速・高精度にさまざまな機能を予測するマルチモーダルAI技術により、従来はAIを適用できなかった複雑材料系の開発でもAIの適用が進む。製造面では、AIを活用した革新的な生産技術開発による、設備故障予防や品質異常の原因究明分析なども行われている。
半導体材料を手掛けるメーカーには、総合化学メーカーや電子材料専門メーカーをはじめ、鉄鋼メーカーや非鉄金属メーカー、セラミックスメーカー、繊維系メーカー、ガラスメーカーなど、多彩なバックボーンを持つ企業がある。