2025.02.06 【コンデンサー技術特集】リード線形アルミ電解コンデンサーの最新技術動向 ニチコン

【写真1】UTFシリーズ

はじめに

 アルミ電解コンデンサーの電極は、粗面化したアルミニウム箔(はく)表面に形成した酸化アルミを誘電体として使用しているため、フィルムよりも比誘電率が高く高容量であること、原材料のアルミニウムはタンタルと比較して入手性が良いこと、2~600Vの広範囲な電圧に対応可能なことなどから、家電や産業機器などあらゆる機器に広く採用されている。

 さらに、今後の成長分野として期待される自動車、情報通信分野は技術ニーズが高度化しており、これまでの電極箔や電解液を主体とした開発に加え、封口ゴムや電解紙といった部材や巻回技術なども含めた開発強化が不可欠である。

 本稿ではリード線形アルミ電解コンデンサーの最新技術動向として、当社の成長分野に向けた製品開発について紹介する。

許容リプル電流が最大51.1%アップ

高リプル電流化ニーズへの対応

 昨今、さまざまな分野でカーボンニュートラルをはじめとする社会課題解決に向けた取り組みが進められ、自動車は走行中の二酸化炭素排出量を削減可能なEVやHV、PHVといった電動車両の普及が加速している。

 EVとPHVにはオンボードチャージャー(OBC)が搭載され、充電スタンドなどから供給される交流電圧を走行用バッテリーに必要な直流電圧へ変換するが、バッテリー容量増加に伴い、充電時間短縮を目的にOBCの高出力化が進んでいる。特に三相電源に接続される11kW以上の高出力OBCでは非常に大きな電流が流れるため、入力側基板に多並列で搭載されているリード線形アルミ電解コンデンサーには、高リプル電流に対応した製品が必要になる。当社はこの技術ニーズに対し、105℃5000時間保証の現行品「UTHシリーズ」からリプル電流性能を大幅に強化して、業界ナンバーワンの高許容リプル電流を実現したリード線形アルミ電解コンデンサー「UTFシリーズ」を開発した(写真1)。

◇UTFシリーズの特長

 本製品は新たに開発した高容量電極箔、低比抵抗電解液の採用により、製品の高容量化、高許容リプル電流化を実現した。これにより、現行の「UTHシリーズ」と同電圧・同サイズ品で比較して最大51.1%の許容リプル電流アップを実現した。

 高容量かつ高リプル電流品の開発には、最新のエッチング技術による電極箔の高容量化や、熱安定性の高い低比抵抗電解液の採用が重要ポイントとなるが、加えて「UTFシリーズ」では、薄手化電解紙による収容面積拡大(高容量化)、高信頼性ゴム(特性安定化)を適用することで、一層の高容量化、高許容リプル電流化を実現している。

 本製品を使用することで、OBCの高出力化や小形化の実現に貢献する。以下に「UTFシリーズ」による小形化事例を示す(図1)。

図1 UTFシリーズによる小形化例

 リプル電流10Arms@120㎐に対応する場合、従来品の「UTHシリーズ」ではφ18×40L品11個(許容リプル電流値980mArms×11個=10.78Arms)が必要であるが、「UTFシリーズ」ではφ18×40L品8個(許容リプル電流値1410mArms×8個=11.28Arms)で対応可能になる。基板上のコンデンサー体積を約23%削減でき、機器の小形化・軽量化に貢献できる。

◇UTFシリーズの仕様

 「UTFシリーズ」の主な仕様は以下の通りである。

 ケースサイズφ18×31.5L~φ18×50Lの5サイズ、カテゴリー温度範囲-40~105℃、耐久性5000時間、定格電圧450V、定格静電容量範囲100~170μF。許容リプルは従来比最大+51.1%で業界ナンバーワンの許容リプル値を実現した。

表1 UTFシリーズの仕様一覧

既存品に比べ2.5倍の長寿命を実現

高温度化・長寿命化ニーズへの対応

 通信基地局用電源では、部品実装の高密度化およびデータ通信量増加に対応した高出力化に伴い電源内部の高温度化が進んでおり、より高温度に対応できるコンデンサーが必要とされている。また、次世代通信では使用する電波の直進性が強く、大気中で減衰しやすいため、サービスエリア確保のためには、スモールセル基地局を多く設置する必要がある。基地局設置場所の制約による小形化、冷却ファンレス化に伴う高温度設計への対応、基地局増加に伴うメンテナンスフリーを考慮した長寿命化がコンデンサーにも求められていることから、アルミ電解コンデンサーには高容量化と同時にさらなる高信頼性化が要求される。

 このような市場ニーズに対して、当社では125℃5000時間保証の「UBRシリーズ」を開発した(写真2)。

【写真2】UBRシリーズ

◇UBRシリーズの特長

 前述の通り、コンデンサーの高容量化には最新のエッチング技術による電極箔の高容量化が重要であるが、高度に掘り深めた電極箔はアルミ溶出量が増加し、そのトレードオフとして電極箔の機械強度低下、酸化皮膜欠陥増加に対する電解液の修復反応に起因したガス発生とケース内圧の上昇がある。これらの課題に対して、これまで当社が培ってきた素子巻回技術の改良、配合比を調整することで適度なガス透過性を実現した新規封口材の適用により、高容量かつ長寿命な製品の実現に成功した。

 「UBRシリーズ」は、上記の技術をベースに、耐久性に優れる電解液を適用することで、高温度品の長寿命化を実現した。既存の「UBTシリーズ(450V定格)」の2.5倍の長寿命化を達成しており、これは業界最高水準の高温度・長寿命品である。

 以下に「UBRシリーズ」における小形化事例を示す(図2)。450V100μFが必要な場合、従来品「UBTシリーズ」では450V33μF品(φ16×30.5L品)の3個使いが必要であったところ、「UBRシリーズ」では450V100μF品(φ18×31.5L品)1個で対応可能になる。基板上のコンデンサー底面積を約60%削減、また重量比約-50%となっており、機器の小形化・軽量化に貢献できる。

図2 UBRシリーズによる小形化例

◇UBRシリーズの仕様

 「UBRシリーズ」の主な仕様は以下の通りである。

 ケースサイズφ12.5×31.5L~φ18×50Lの8サイズ、カテゴリー温度範囲-40~125℃、耐久性5000時間、定格電圧450V、定格静電容量範囲39~180μF。

表2 UBRシリーズの仕様一覧

小形・高信頼性化と環境問題など対応

今後の展望について

 成長分野に向けたリード線形アルミ電解コンデンサーの当社最新技術動向を述べた。本稿で紹介した新シリーズは、今後の成長分野である自動車・情報通信における技術ニーズに対応しており、最終製品の市場拡大に貢献することが期待できると考える。両市場のアプリケーションは異なってはいるが、さらなる小形化や高信頼性化に対する技術ニーズは共通しており、今後もより高度化して継続していく。小形化については性能面からの要求だけではなく、環境負荷低減を目的とした使用部材削減、軽量化による輸送時の環境負荷軽減といった側面からも強まることが予想される。当社は引き続き成長分野におけるお客さまのニーズに応える製品開発を進め、環境問題など社会課題の解決に貢献していく。〈筆者=ニチコン(株)〉