2025.02.12 「市町村レベルめざす」 スパコン「富岳」で竜巻予測、4時間先をシミュレーション
2024年に発生した台風10号の台風全域のシミュレーション結果(左:雨量、右:風速)。右図の丸は強い渦状の強風が現れた箇所
富士通と横浜国立大学は12日、スーパーコンピューター「富岳」で、これまで難しかった台風時に発生する竜巻の予測を可能にする気象シミュレーションに世界で初めて成功したと発表した。4時間先のシミュレーションを74分で実行。今年度中に研究機関向けに公開し、局所的な突風や大雨を予測し被害を減らす研究を後押ししたい考え。
両者は、2022年11月から、台風の発達予測や台風予測シミュレーションの高速・高精度化に向けた共同研究に取り組んできた。
今回、気象シミュレーター「CReSS」を富岳上で大規模並列処理向けに最適化し、計算時間を大幅に短縮することに成功した。従来のCReSSでは、竜巻を発生させるスーパーセル積乱雲の形成や発達は正確にシミュレートできる半面、台風に伴う竜巻予測に必要な高精度シミュレーションでは計算時間が課題となっていた。
そこで両者は、計算量を大幅に削減した軽量モデルを開発した。24年8月に九州地方で竜巻被害をもたらした台風10号では、富岳の8192ノード上でCReSSを使い予測実験を実施。気温、気圧、湿度、風向き、風速などの3次元空間データを活用し、九州地方に上陸した際の台風全体をシミュレーションした結果、九州東岸で発生した多数の竜巻を再現することに成功した。4時間後の予測のためのシミュレーション時間は、従来の約11時間から約80分に高速化された。
横浜国立大総合学術高等研究院教授で台風科学技術研究センター副センター長の坪木和久氏は「予測計算は富岳のわずか5%の計算資源を用いた結果」と説明した上で、「将来的にはほかの気象データと同化させて台風以外で発生する竜巻などさまざまな予測につなげたい」と意気込みを示した。
ただ、現状では、時間で数十分から1時間程度、場所で数キロメートルから10キロメートル程度の誤差があり、ピンポイントでの予測までには至っていない。
富士通研究所コンピューティング研究所の中島耕太所長は「今回開発した大規模並列処理技術を25年3月までに研究コミュニティー向けに公開して幅広い活用を目指す」と話す。今後、AI(人工知能)技術を使い一層の高速・高精度化を図り、台風に伴う強風や大雨を予測して被害軽減に貢献したい考えだ。
坪木教授は「現状の予測範囲は宮崎県の半分程度だが、市町村レベルの予測までできるようにしていきたい」と強調した。
日本で発生する竜巻の約2割が台風に伴い発生し、全国各地で被害が相次いでいる。08年には竜巻注意情報が発令されるようになったが、狭い範囲で発生し短時間しか持続しない竜巻のような気象現象は予測が困難な状況となっている。