2025.05.14 マイコン各社、エッジAIを推進 ソフトからハードまで手掛ける

STマイクロのデモ。「魔法の杖」で画面奥のスマホと連動する。

 電子機器の制御を行うマイクロ・コントローラー(マイコン)で、AI(人工知能)を活用する動きが広がっている。AI処理をクラウド上ではなく端末側で行う「エッジAI」の一種だ。リアルタイム性が求められる処理を担える。画像認識、異常検知、生成AIといった機能を組み込むほか、ソフトウエアをはじめとするAIの開発環境を提供するなど、各社がさまざまな取り組みを進めている。

 東京ビッグサイト(東京都江東区)で先月開かれた「AI・人工知能EXPO」の「小さく始めるAIパビリオン」でも、世界有数のマイコンメーカーが共同出展し、AIを活用した製品やソリューションをアピールしていた。独インフィニオン・テクノロジーズ(インフィニオン)や蘭NXPセミコンダクターズ(NXP)などだ。

音声・画像認識機能を搭載

 インフィニオンは、汎用マイコンシリーズ「PSOC」に画像認識や音声認識機能を搭載。音声認識では、同社のMEMS(微小電子機械システム)マイクと組み合わせ、ノイズを圧縮してクリアな音声を処理できるようにした。

 スイスのSTマイクロエレクトロニクス(STマイクロ)は、MEMSセンサーにAIを組み込むソリューションを提供する。展示していたのは、センサーを搭載した「魔法の杖」の動きを検知し、スマートフォンと連動するというもの。センサーのみでAI処理が行えるため、制御系のデバイスを搭載するよりもコスト面で優れる。

 台湾のヌヴォトンは、「伴奏型」のサポートを打ち出す。「AIを使って何ができるか」という提案から開発支援や実装まで、顧客の課題解決を一貫支援するという視点だ。

AI開発環境も提供

NXPのeIQ GenAIフロー

 NXPは、マイコン用AIの開発環境づくりに注力している。中でも、マイコンに生成AIを組み込む「eIQ GenAIフロー」をアピール。同社のアプリケーションプロセッサー「i.MX95」に、主に音声で入力された情報に適切な回答を出力する機能を付けられるようにした。誤回答を防ぐため、検索拡張生成(RAG)機能によりドメイン固有情報のデータベースを作成できる。

 NXPジャパンでインダストリアル&IoT営業統括本部のソリューション・スペシャリストを務める上釜悠聖氏は、「生成AIによる自然言語処理を、PCやスマートフォンではなく組み込み機器で実現できるという点で、顧客から良いリアクションをもらっている」と自信を見せる。

AIベンチャーのソリューションも

AISingによるベルトコンベアの異常検知

 AIベンチャーのAISing(エイシング、同港区)は、マイコンに組み込む独自のAIを提供。モーターの異常検知など予知保全に活用できる。同社はSTマイクロやNXP、ルネサスエレクトロニクスをパートナーとしている。

 エッジAIはAIを端末内で即時に処理できる利点がある半面、導入コストを抑える必要があり、開発環境の面でも問題も抱えている。そうした課題に対応するためにはハードとソフトを最適に組み合わせる工夫や技術が不可欠で、エッジAIを巡る各社の取り組みが熱を帯びそうだ。

<執筆・構成=半導体ナビ