2025.07.02 「能動的サイバー防御」の司令塔発足 官民一体で脅威への対応強化 

サイバーセキュリティ戦略本部の初会合に臨む石破首相(左から2人目) 出所:首相官邸のホームページより

意見交換した平サイバー安全保障担当相と経団連=東京都千代田区意見交換した平サイバー安全保障担当相と経団連=東京都千代田区

 政府は1日、サイバーセキュリティーの新たな推進体制を立ち上げた。「サイバーセキュリティ戦略本部」を本部長の首相を筆頭に全閣僚が参加する体制に改組し、第1回会合を同日に官邸で開いた。同時に、サイバー攻撃に対処する国の司令塔組織「国家サイバー統括室」も発足させた。国がサイバー防御の要となり、官民一体でセキュリティー対策を促進する狙いだ。

 重大なサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の関連法が一部施行された同日、本部長を官房長官から首相に格上げしたサイバーセキュリティ戦略本部の初会合を開いた。2027年からの全面的な運用に向けて体制整備を本格化させる方針だ。 

 会合で石破茂首相は、サイバー空間をめぐる脅威が国民の暮らしや経済活動、国家安全保障に及ぼす影響に触れ、「政府が対策の要となって、わが国全体をけん引していくことが、今まで以上に求められる」と強調した。 

 石破首相は、「深刻化する脅威に対する防止・抑止の実現」「社会全体のセキュリティーの向上」「人材育成と技術革新のためのエコシステムの形成」に重点を置く考えも表明。さらに、平将明サイバー安全保障担当相を中心に関係閣僚が協力し、年内をめどに新たなセキュリティー戦略を取りまとめるよう指示した。 

 背景には、高度化や巧妙化が進むサイバー攻撃や、国家を背景とした攻撃による被害の深刻化がある。内閣官房によると、政府機関へのサイバー攻撃と疑われる件数は、直近の3年間で約6倍に増加。重要インフラで発生したインシデント(事故)に占めるサイバー攻撃の割合も増え、24年度に初めて50%を超えた。

 こうした動きを踏まえて政府が整備する枠組みが、「官民の連携」「通信情報の利用」「警察や自衛隊が攻撃者のサーバーへ侵入し無害化」という3つを柱とする能動的サイバー防御だ。その実現に必要な関連法が5月16日に成立し、同23日に公布された。

平サイバー相と経団連が意見交換

 同日には、平サイバー安全保障担当相と日本経済団体連合会が意見を交わす懇談会が、東京都千代田区の経団連会館で開かれた。この中で平氏は、企業経営者に対し、能動的サイバー防御の制度化の方向性や官民連携の強化策などについて説明。国家サイバー統括室のトップとなる内閣サイバー官も参加した。

 平氏は冒頭のあいさつで、官民が連携し国全体のセキュリティー対策を強化する必要性を説いた上で、「民間部門を含めた多方面から収集した情報を集約・分析し、民間部門にもタイムリーに有益な情報をフィードバックすることで、効果的な防御策が講じられるよう取り組んでいく」と意欲を示した。

 経団連副会長でサイバーセキュリティ委員長の遠藤信博氏(NEC特別顧問)は「実効性のあるサイバーセキュリティー対策がすべての事業者にとって経営の最優先課題となっている」と強調。5月に同委員長に就任した島田太郎氏(東芝社長)もあいさつし、重要インフラに迫るサイバー攻撃の脅威に言及。その上で「これらを能動的に止めるためには、経団連をはじめとする企業の人間の意識を高めるとともに、さまざまな協力体制をしっかりと築いていくことが必要だ」との認識を示した。