2025.08.11 キリンHDが経営会議に「AI役員」導入、大手各社がツール活用高度化
「CoreMate」の使用イメージ。AIが抽出した論点や意見が画面上に提示される 提供:キリンホールディングス
人工知能(AI)を企業活動を支えるパートナーとして生かす機運が高まってきた。キリンホールディングス(HD)は今夏から、経営層の意思決定を支える右腕として、「AI(人工知能)役員」と名付けた独自開発のツールを導入。三井住友フィナンシャルグループ(FG)は、グループCEO(最高経営責任者)の中島達氏を模した生成AIを開発し、傘下の三井住友銀行で展開を開始したと発表した。
キリンHDは、7月以降のキリングループ経営戦略会議から、AI役員「 CoreMate(コアメイト)」を本格的に導入したと発表した。コアメイトの開発では、過去に蓄積した取締役会やグループ経営戦略会議の議事録に加えて、外部情報なども読み込ませ、各分野に詳しい12人の「人格」を構築。複数の人格同士による議論から抽出された論点や意見を、実際の経営戦略会議で経営層に提示する。
本格導入後は、年30回以上のグループ経営戦略会議でコアメイトが活用される見込み。経営戦略会議に多様な専門性や意見を持ち込み、意思決定の質とスピードを高めることで、キリングループのイノベーションを加速させたいとしている。将来的には、コアメイトを取締役会に加えて、グループの事業会社の経営戦略会議にも順次展開。会話型のコアメイトを開発するなど、機能の拡張も視野に入れている。
三井住友FGはグループCEОの分身
一方、三井住友FGが三井住友銀で活用を始めたのは「AI-CEO」で、米オープンAIのAIモデル「GPT-4o(フォーオー)」を用いて開発した。行員がチャットボットで質問すると、「RAG(検索拡張生成)」と呼ぶ技術に投入した過去の発言や考え方などのデータを参照し、中島氏らしい回答を生成してくれる。行員がAI-CEOとの対話を通じて経営的な視座を得たり、顧客への提案や社内企画をブラッシュアップしたりする効果が見込まれるという。
AI-CEOについては今後、行員からのフィードバックを踏まえて、投入データや各種機能を追加。継続的に行員のパートナーとしての役割を追求し、AIを業務で利用するシーンの拡大を狙う。また、顧客ニーズの推定や提案するソリューションの検討を行う「AI上司」の開発も進めており、25年度内に同行で試行を始めることを予定している。
AIが目覚ましい発展を見せる中で三井住友FGは、生成AIに特化した投資枠を生かし、各種業務へのAIの導入に取り組んでいる。AI-CEOと気軽に相談する機会を設けることで、行員にAIの業務上の有用性を自然な形で認知させ、「AIとともに働くことが当たり前」という組織風土を醸成することを目指す。
企業を取り巻く経営環境が激変する中、難しい判断を迫られる局面が増加。AIを業務効率化の支援ツールにとどまらず、経営や業務で高度に利用する動きも広がりつつある。こうした中、人間とAIが協働する組織づくりで先行する大手各社の展開に注目が集まりそうだ。