2025.09.08 デジタル庁が設立5年目 「AIフレンドリーな国家」を目指し組織強化
デジタル庁の活動報告会に臨む浅沼尚デジタル監=東京都千代田区
デジタル庁は、AIを社会実装しやすい「AIフレンドリーな国家」の実現に向けた取り組みを、関係府省庁と連携して加速する方針を打ち出した。浅沼尚デジタル監が、同庁の活動報告会で表明した。発足から9月に5年目を迎えた同庁は、自らもAIやデータを積極活用する行政組織「デジタル庁2.0」への進化を目指す。
「社会全体のデジタル改革を実現、加速していくために、AI技術を最大限に活用したAIフレンドリーな国家を目指していく」。5日に同庁で開いた報告会で浅沼氏は、積み上げた行政のデジタル改革の成果を足がかりに、「社会全体のデジタル改革」へとステップを踏み出す決意を述べた。
デジタル社会の実現に向けた司令塔として2021年9月に発足した同庁。浅沼氏はこれまでに進めた行政のデジタル改革を振り返り、「この4年間で確かな変化を生み出してきた」と手応えを強調した。とはいえ国内には、人口減少や労働力不足、自然災害への備えなど、デジタルの力で解決すべき課題が山積する。浅沼氏は取り巻く世界情勢にも触れ、「生成AIといった新しい技術が想像以上に速いスピードで社会実装されてきた」との認識も示した。
世界情勢の変化に対応
同庁はこうした環境変化も踏まえ、政策の企画・立案段階から制度・業務・システムを一体で捉える「三位一体」のデジタル改革に加えて、5つの重点施策にも注力していく。具体的には、AIやデジタル技術などを社会全体で徹底的に活用するとともに、AI活用の促進に必要な制度・データやインフラの整備にも重点的に取り組む。他には、「競争・成長のための協調」「安全・安心なデジタル社会の形成に向けた取り組み」「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進力の強化(デジタル人材の確保・育成と体制の整備)」といった施策を挙げた。
生成AIの活用促進に向けては、まず行政機関が業務で共通利用できるAI基盤「ガバメントAI」を整備し、26年から本格展開。将来的には、同基盤を自治体に広げていく。さらに、同庁に設ける専門的な助言組織「先進的AI利活用アドバイザリーボード」や「AI相談窓口」を通じて、政府横断で進める安全で効果的なAIプロジェクトを後押し。各府省庁に新設する「AI統括責任者(CAIO)」などと連携し、AI活用とリスク管理を表裏一体で促す方針だ。
政策立案を高速化
浅沼氏は、自身の組織も進化し続ける必要性も説き、「AI・データを最大限に活用する行政組織を目指す」と強調した。ガバメントAIを全職員で徹底活用し生産性の向上や業務の効率化につなげるほか、政策立案にかかわるデータの可視化などにも取り組む。体制面では、政策立案機能に加えて、AIの実装を中心に内部開発機能も強化。政策の立案から実装・分析・改善までのサイクルを高速化することを狙う。浅沼氏は「職員全員が能力を最大限に発揮し、AI・データを活用した政策立案、サービスづくり、組織改革を進めていく」と力を込めた。
同庁は、暮らしを支える準公共分野のデジタル化にも注力。浅沼氏は、医療や教育、交通などの分野でデータ活用の事例づくりを進めることに意欲を示した。多様なバックグラウンドを持つ専門家を積極的に雇用し、組織を約1500人体制に拡大する方針も示した浅沼氏。民間出身者と行政職員による混成チームという強みを生かし、デジタル化の恩恵を実感できる分野をどこまで広げることができるか。同庁の真価が試される場面が増えそうだ。