2026.08.31 【ソリューションプロバイダー特集】量子技術展望 量子計算機、国産開発が多方式化 光・シリコン・中性原子が始動
AI活用とPQC移行も加速
量子コンピューターは、試作機から実用化を見据えたシステム構築へ進み始めた。国内では超電導、光、シリコン、中性原子の各方式で国産開発が具体化。競争軸は量子ビット数から誤り訂正、スーパーコンピューター・AI(人工知能)との連携、外部利用基盤へ広がる。既存暗号の解読リスクを見据え、耐量子計算機暗号(PQC)への移行も待ったなしとなった。
国産機、多方式で競う
量子コンピューターは「重ね合わせ」「量子もつれ」を使って膨大な組み合わせを解く。量子状態はノイズに弱く、物理量子ビットから誤り訂正した論理量子ビットを構成できるかが実用化の鍵だ。
超電導方式は、富士通と理化学研究所(理研)が2025年4月、256量子ビット機を発表し、26年度に1000量子ビット超級の公開を目指す。IBMと理研は25年6月、156量子ビットの「IBM Quantum System Two」を稼働し、「富岳」と接続。大阪大では同年7月、主要部品・ソフトウエアが日本製の純国産機が稼働した。理研と大阪大は26年3月、144量子ビットの「叡-II」をクラウド公開。IBMは29年の大規模誤り耐性機を掲げ、米Googleも「Willow」で誤り訂正の成果を示した。
分子科学研究所(分子研)は8月、日本初のフルスタック中性原子量子コンピューター「春海」を稼働。室温動作で冷凍機が要らず、大規模化しやすい。分子研を中心に、ソフトは日立製作所、量子処理装置(QPU)は米Infleqtion(インフレクション)と共同開発。約50から約500量子ビットへ拡大し、一部を外部公開。Yaqumoと社会実装で連携し、30年度までに誤り検出・訂正機能を備えた1万物理量子ビットを目指す。
光方式では、NTTがOptQCに出資し、30年度までに誤り耐性を備えた100万物理量子ビット級を目指す。25年11月から連携し、NTTは厚木に拠点、OptQCは産業技術総合研究所(産総研)で1号機「MoQuren(モクレン)」を稼働させた。世界最高品質の量子光源を実現。波長多重で大規模化し、27年度に1万量子ビット級、28年度にPoC(概念実証)、29年度に従来計算機との統合ソフト・アプリを検証。26年度にユーザー共創、27年度にサプライチェーン構築を始める。
シリコン方式は、日立がインテル、産総研と量産基盤を開発。半導体製造技術「18A」を生かし、100量子ビット超チップの設計、性能ばらつき低減、極低温での高密度実装、プロセスデザインキットを開発する。27年度までのクラウド公開を狙い、28年に100量子ビット、30年に誤り訂正符号を実装した1000量子ビット級試作機を目指す。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も26~28年度、国産次世代機・部素材の開発、大型実証、人材育成を「つくる」「つかう」「そだてる」の3本柱で支援し、国内サプライチェーン形成を促す。
量子×AI、双方向に
当面はCPU、GPU、QPUを組み合わせ、量子が一部を担うハイブリッド活用が現実的だ。金融、製造・物流、創薬・材料、エネルギー、交通で用途開拓。量子はAI学習や高次元探索も補完する。
米IBMは6月、大規模言語モデル(LLM)で量子誤り訂正コードの新候補465件の発見を発表。追加検証は必要だが、AIが誤り訂正開発を速め、量子がAIの探索能力を広げる循環が生まれつつある。
PQC移行、待ったなし
RSAや楕円(だえん)曲線暗号は量子計算機で解読される恐れがある。「Harvest Now, Decrypt Later(今収集して後で解読)」型攻撃に備え長期保存の機密情報ほど早期対応が必要。米国立標準技術研究所(NIST)は24年、PQC主要3規格を標準化。量子攻撃に弱い暗号を35年までに標準から外し、高リスクシステムには早期移行を求める。
国内では、日立ソリューションズ・クリエイトがPQC対応「DoMobile Ver.5」を提供し、「DoMobile ASP」にも順次適用。TOPPANホールディングスなどは4月、PQC移行技術を実証した。
移行は暗号交換だけでは済まない。暗号を棚卸しし、証明書、鍵管理、端末、通信経路、保管データを計画更新する。長期保存データを扱う医療、金融、製造などは優先度が高い。標準・脅威に応じ暗号を切り替える「暗号アジリティー」も重要だ。
26年は各方式が競い、量子計算機が研究設備から産業基盤へ踏み出す。誤り訂正、従来計算機・AIとの連携、PQC移行を進め、国産技術を用途・事業につなぐ力が日本の競争力を左右する。







