2020.07.30 【電子部品技術総合特集】ハイテクフォーカス京セラ 3軸同時検知できる水晶ジャイロセンサーの技術動向

図 ラケットのスイング可視化

3軸水晶ジャイロセンサー素子外観3軸水晶ジャイロセンサー素子外観

 京セラは世界で初めて(※1)、物体の傾きや回転速度を3軸(X・Y・Z軸)同時に検知できる水晶ジャイロセンサー素子を開発した。従来製品比約36倍(※2)となる7万2000dps(200回転/秒)の高速回転検知が可能で、これまで測定不能だった高速回転域での計測を可能にする。

 今後、3軸デジタル出力対応ICの開発、3軸一体パッケージのモジュール化を計画する。水晶の優れた特性を生かし、ノイズ0.002dps/ ■(√に㎐) 、ゼロ点温度特性0.25dps(マイナス30-プラス85度)を世界最小(※3)の5.0×3.2×1.0ミリメートルサイズで実現。

 ドローンやウエアラブル端末向けのほか、工作機械、IoT機器、スポーツ分野への応用など幅広い用途で実用化を目指す。

 ■開発背景

 ジャイロセンサーは、物体の傾きや回転速度を読み取る慣性センサー。デジタルカメラの手ブレ補正機能や自動車の横滑り防止装置などに使用され、最近ではスマートフォンやドローンの姿勢制御に活用されるなど用途が広がっている。

 現在、民生用途向けに生産されるジャイロセンサーは、主にシリコンを使う静電容量方式と、圧電材料を使うピエゾ方式があり、ピエゾ方式の代表的な例が水晶ジャイロセンサーである。

 静電容量方式は、検知速度2千dps(約5.5回転/秒)まで検知でき、単一のセンサー素子で3軸(X・Y・Z軸)の傾きおよび回転の同時検知が可能だ。

 しかしシリコンの特性上、高速回転検出や低ノイズ低ドリフトが求められる用途への適用が困難であった。

 一方、水晶ジャイロセンサーは、検知精度に優れる反面、3軸を同時検知できるセンサー素子がないため、3軸検知には複数のセンサー素子が必要となる。したがって、センサー素子の搭載スペースの確保や設計の簡略化が課題だった。

 ■3軸同時検知が可能な水晶ジャイロセンサー素子について

 当社が有する水晶の加工技術と独自の3軸検知構造設計により、3軸同時検知が可能な水晶ジャイロセンサー素子を開発した。外観写真と目標仕様を表に示す。

 【主な特徴】

 ①3軸同時検知のセンサー素子で機器の小型・低背化に貢献

 従来3軸検知には、1軸対応の水晶ジャイロセンサー素子を複数個、垂直または平面上に配置搭載する必要があるため、高い実装技術とスペースの確保が課題であった。当社が開発した水晶ジャイロセンサーは、同一平面上に配置でき、垂直実装の必要もなく3軸同時検知が可能となるため、機器の小型・低背化に貢献する。

 ②超ワイドレンジで高速回転が測定可能

 圧電材料である水晶は、加わる力と発生電位の関係に高い直線性が見られ、高速回転時に発生する遠心力の影響を低減できる。

 検知速度は、従来品比約36倍となる7万2000dps(200回転/秒)まで計測でき、これまで困難だった超高速回転域を測定可能にした。

 ③低ノイズで高精度測定が可能

 水晶の持つ高いQ値により、通常はノイズに埋もれて検出できない微小な動きも精度良く測定でき、0.002dps/ ■(√に㎐) の低ノイズセンサーを実現した。

 ④低ドリフトにより、基準点の誤検知を低減

 ジャイロセンサーの重要な性能として、ドリフトが挙げられる。ゼロ点と呼ばれる基準点が変動する現象で、主に温度によるゼロ点の変化が原因とされるが、水晶の高い温度安定性によってゼロ点温度特性0.25dps(マイナス30-プラス85度)と低ドリフト性能が実現できる。

 ■3軸水晶ジャイロセンサーのスポーツ分野への適用

 本センサーは、今まで計測できなかった瞬間的な速い動きを計測し、数値化できる。特に、スポーツにおける手首の動きは6000dpsを超える角速度が発生し、汎用のジャイロセンサーでは計測が難しかった。

 慶応義塾大学SFC研究所(研究代表者=政策・メディア研究科教授 仰木裕嗣氏)との共同研究により、高速な動きを伴う卓球向けにスイング解析モジュールを開発した。本モジュールは角速度、加速度、地磁気、温度のデータを取得してブルートゥースでデータを送信する。

サイズは30×20×10ミリメートルと非常に小型だ。

 従来、ラケットの動きを肉眼で捉えることは困難であったが、本モジュールを用いることでスイングの可視化を実現(図)。様々な視点で選手のスイングを解析し、再現性や上級者との比較評価を行うなど、コーチングやトレーニングへの活用が期待できる。

 今後はラケットやシューズなど多様な道具に取り付け、データ計測による活用展開を進める。

 さらに、新型コロナウイルスの影響で、インターネットを活用した講義やレッスンを余儀なくされている今般、画像と音声だけでなく、動きや姿勢も共有する双方向での情報交換が可能なシステムが必要不可欠になる。アスリートの技能向上だけでなく、けが防止や、子どもの運動能力向上、遠隔地での指導など、新たな用途への活用が期待できる。〈筆者=京セラ〉

 ※1 水晶ジャイロセンサー素子として世界で初めて3軸同時検知を実現(5月末時点、京セラ調べ)。

 ※2 生産されている静電容量方式、ピエゾ方式のジャイロセンサーとの比較(5月末時点、京セラ調べ)。

 ※3 生産されている水晶方式ジャイロセンサーとの比較(5月末時点、京セラ調べ)。