2020.08.05 【インダクタ特集】 自動車、スマホ向け中心に需要増期待 ECU搭載増加や5G関連などけん引
インダクタ市場は、米中問題に加えて、新型コロナウイルスの影響を強く受け、低調に推移している。その中で、自動車、スマホ向けを中心に需要増が期待されている。自動車向けはCASEの進展が部品の搭載点数を増加させる。中でもADASから自動運転に向けた安全系の拡充、省エネ、環境保全を背景にしたxEV化の動きが新しい用途を巻き込みながら需要を伸ばす。スマートフォンは伸びが鈍化しているものの、第5世代高速通信規格(5G)のサービスインで生産台数増加に転じる。加えて、5Gに絡んだIoT関連分野での市場拡大が見込まれる。
JEITAのグローバル出荷統計によると、インダクタは15年までに順調な伸びを示してきたが、16年は北米スマホメーカーが低調だったこと、産業機器分野が設備投資過剰、在庫調整などが重なり微増となった。
17年度は再び成長軌道に乗り、前年度実績を上回った。18年度も前半は好調に推移。しかし、後半には中国をはじめとする世界経済の減速によって、主要電子機器、産業機器が低調に推移した。
19年度については、米中貿易摩擦の問題が長期化しており、世界経済の行方も不透明な要素が多い。インダクタの需要も前年度に比べてマイナス成長を余儀なくされた。
20年になると、米中問題で世界経済が減速しているのに加え、新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、経済活動を直撃。インダクタ市場にとっても厳しい状況に直面している。
そうした中、5Gの基地局への設備投資が緩やかに始まり、5G対応スマホの生産も規模が拡大している。また、自動車は、販売、生産台数の伸びは低調ながらもADASおよびxEV関連に関しては、デザインインに活発なものがある。20年度のインダクタのグローバル出荷は、月を追って需要が増加し、前年度実績を上回るとの観測が強まっている。
車載用インダクタは、電装化率の高まりから搭載点数が増加。電源系のパワーインダクタをはじめ、無線通信系の高周波インダクタやカーナビなどに使われる信号系インダクタなどを含め、ECUの搭載点数がさらに増加して、需要規模が拡大すると期待される。
車載用インダクタが使用されるECUは、セーフティ系からパワートレイン系まで高機能化の進展に伴い、搭載点数が増える。しかも従来は車室での設置が多かったが、エンジンルームに設置される機電一体化などで耐環境を重視した高信頼性のECU用部品が強く求められるようになってきた。
基本的には自動車の信頼性試験であるAEC-Q200を満足した製品の開発が進展する。信頼性が強く求められることから、ECU用インダクタは、125度対応から150度対応へと高温度保証が要求されるようになってきた。最近では180度対応の製品も開発されている。しかも、自動車特有の耐振動・衝撃に対する信頼性確保も合わせて満足している。
最近では、特に将来の実用化に向けた自動運転を踏まえ、ADASなどの安全系の開発、採用が活発化している。ミリ波レーダーやカメラなどによる画像などのデータ伝送の高速化、高精度化を推進するために、3225サイズのイーサネット用コモンモードフィルタを開発。さらに広帯域での高いインピーダンスを実現した車載カメラ向けインターフェイス用の信号伝送と電源供給を1本の同軸ケーブルで実現する車載PoC用インダクタも商品化されている。
さらに定格電圧40Vを実現し、車載12Vバッテリから直接入力接続される電源回路での使用が可能となるメタル系パワーインダクタも開発された。
スマホで、マルチバンド化、高機能化とバッテリ容量の拡大に伴い、スマホ内部のバッテリの占める面積が増えていることから、限られたスペースの中で各機能の回路を形成する必要性が出てきている。IoT端末や機能モジュールではさらに高密度化が進展し、超小型インダクタの必要性が高まる。
用途別に最適製品
各社では高周波用、電源用、フィルタ用など用途に最適な小型、薄型品を相次いで市場に投入している。
高Q化や小型・薄型化進む
高周波用インダクタは、RF回路における高性能化のための高Q化、高精度化と高密度実装化への対応のための小型、薄型化を両立させることが要求されている。現在では、0402サイズにおける高Q化技術が進展している。
フィルタ用インダクタは、信号回路において一般的にコンデンサと組み合わせてLCフィルタとして使用される。特定の周波数の信号だけを通し、不要な周波数の信号をカットする目的で使用される。LCノイズフィルタとして、ノイズ対策用途が広がっている。
スマホにおけるノイズ対策は、高密度実装化の進展で、隣接する部品間が狭臨化することで複雑化している。その中で、0402サイズのフェライトビーズの採用が進む。
また、信号伝達の高周波化、高速化によって、高速差動ノイズの対策の必要性が高まっている。その対策としてはLCノイズフィルタを用いるようになった。積層LCタイプに加え、薄膜LCタイプも開発されている。
電源用インダクタは、小型、薄型、大電流対応の技術が進展している。スマホでは様々な半導体デバイスを駆動するための超小型、低背のDC-DCコンバータが数多く搭載される。機能強化によりコンバータの搭載点数が増えることからパワーインダクタの需要を押し上げている。
パワーインダクタは、フェライト巻線型、フェライト積層型のほか、ここ数年、メタル系パワーインダクタでの巻線、積層、さらには薄膜の3種があり、サイズは1608サイズまで小型化した。しかも厚みは1ミリメートル以下に抑えられ、電源回路の薄型設計を可能にしている。
メタル積層チップパワーインダクタでは、これまで最小だった1608サイズをさらに小型化し、1005サイズが世界最小となった。