2020.08.31 【ソリューションプロバイダ特集】新型コロナ ICT各社の対応

コンタクトセンターなどはソーシャルディスタンスと密を防ぐ施策として仕切りを立てるなどして対応(写真は富士通コミュニケーションサービス)

テレワークを推進 出社率7-8割減の実現も

 今年に入り世界で猛威を振るう新型コロナウイルスはICT業界にも大きな影響を与えた。情報サービス産業は不況など外的環境に変化が生じた場合、他産業に比べ半年程度遅れて影響が出ると言われているが、今回のコロナは経済自体が停滞するという今までに経験のない事態になり、ICT業界も対応に追われている。電波新聞社がこのほど実施した主要ソリューションプロバイダ各社トップインタビューでの見解を見ても、4月以降影響が顕在化した企業が多い。その中で各社はどのような対応をしてきたのだろうか。各社の動向を追った。

 ICT業界は19年まで、景気回復に伴う堅調な投資に後押しされて多くの企業の業績が好調だった。システム更新案件をはじめ、ウインドウズ10の更新需要などもあり、過去最高業績を記録した企業が多く見られた。数年来提唱しているクラウドやAI(人工知能)、IoTといったデジタル技術を使って、新たな価値を生み出していくデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革、DX)への取り組みも進展し、この領域の投資が旺盛だった。

 こうした中で迎えた20年は、よりDXを進め、さらなる成長を目指す年にしようと各社がもくろんでいた。電波新聞社の新年情報通信総合特集でも、DXでさらなる成長をさせる方向で紙面が作られていた。ところが1月ごろから拡大が始まった新型コロナは市場環境を一変させた。外出自粛や海外での都市封鎖などは製造業を中心に打撃を与え、飲食や交通、旅行などの業界は経営自体がままならない状況に。企業自体も在宅勤務を徹底するなど、全く違う働き方が求められるようになった。

 各社インタビューから分かったことは3月までは持ちこたえ、4月から一気に影響が出たということだ。3月決算の企業は、19年度は前半戦の勢いと受注で好業績を出したところが多かった。

 ソリューションプロバイダ首脳は「前年度までは第4四半期で陰りが見えたが好業績のまま締められた」と口をそろえる。

 半面で4月からは市場が止まってしまったこともあり、影響が出ているところが目立つ。ある首脳は「ICT業界はコンピュータを使うから業務には支障が出ないという声もあるが、営業活動は対面が多い上、販促なども展示会などを活用しているため、ビジネスには大きな影響が出ている」と話す。

 それでもソリューションプロバイダ各社は、ICTノウハウを駆使しテレワークやニューノーマル(新しい日常)への対応を加速。今年予定されていた東京オリンピック・パラリンピックに合わせてテレワークを推進する取り組みを進めていたところが多かった背景もあり、5月の緊急事態宣言発令時なども主要各社の出社率は7-8割減を実現できた企業が多くを占めた。

 事業環境を見ると「6月以降は動きだしている」(各社)という見方が強いほか、特にニューノーマルに対応できるDX関連サービスへの引き合いが増えているようだ。これまで応急的にテレワークを実施した企業が、本格的にテレワークを定常化させる動きも出ており、効率良くテレワークを実現する案件や、AIやチャットボットなどを使った省力化、密を防ぐための仕組みづくりの案件は増えてきている。

サポート/コンタクトセンター、受付分散し密を防ぐ

 主要各社の動きを見ると保守サポートなど現場を持つ企業のテレワークには難しさはあるが、品質を下げずに対応するところが目立った。コンタクトセンターなどを持つNECフィールディングはセンターの密を防ぐため、受付を複数のセンターで分散化しソーシャルディスタンスと品質維持を両立。シェアオフィスなどを借りての対応もしている。コンタクトセンター事業を手がける富士通コミュニケーションサービスもセンター内に仕切り板を付けるとともに、分散化を図り品質維持に努めた。現在は在宅コンタクトセンターの運用も検討する。

 昨年から首都圏地域のオフィス分散化を図ったNECネッツエスアイは、コロナ禍でもテレワークを効果的に推進。全てを在宅勤務にせずサテライトオフィスの設置により業務効率を下げない工夫もしている。テレワークに積極的に取り組んできた日立ソリューションズもいち早く7割以上の在宅率を実現。心のケアにも取り組み相談室を設けながら在宅勤務者らの支援を行ったほか、在宅勤務時でもコミュニケーションが円滑にできる仮想オフィスの仕組みを検証している。

 「働き方変革」を提唱してきた内田洋行は、在宅勤務の実施だけでなくビデオ会議を有効に使うための会議室予約システムの提案を進めている。テレワークによりビデオ会議の頻度が高まる半面、オフィス内でビデオ会議ができる環境が少ないなどの課題もある。既存の会議室の利用状況だけでなく、会議室の構成の見直しなどについても検討する動きが出てきているという。

 営業や販促などの切り替えに取り組むところも増えている。これまでのような面談での営業活動ができないため、ビデオ通話によるオンラインでの提案やWeb展示会の実施などを進める動きが出ている。大塚商会やグループのOSKはオンラインを軸にした情報収集や情報提供を本格化。オンライン上で提案できる仕組みや提案商材などもつくって展開。Webセミナー(ウェビナー)の回数を大幅に増やしているところも多くなってきた。

 一方、システム開発などの領域では課題も浮き彫りになってきた。プログラマなどはPC上で業務ができるため、在宅勤務でも生産性が落ちないとの見方もあった。ところが、実際はプロジェクトチームで動くことからチーム内でのコミュニケーションが重要になり、在宅になったことで生産性が落ちている事例も出ている。

 複数の企業トップから開発面での生産性低下についても指摘が出ていた。今後はコミュニケーションツールの活用や、在宅時でも生産性を高める施策や制度などが必要になることも見えてきた。

 各社とも後半戦に向けてニューノーマルに対応したサービスを拡充する考えで、社内実践の成果なども出てきそうだ。