2020.09.30 【電波新聞70周年特集】情報通信 これまでと展望

マスク着用時でも複数の人を同時に本人確認できるNECの「IDゲートレスエントランス」。感染症の水際対策として注目を集める

KDDIは19年9月に5G基地局第1号を設置KDDIは19年9月に5G基地局第1号を設置

18年12月1日「新4K8K衛星放送」開始セレモニー18年12月1日「新4K8K衛星放送」開始セレモニー

産業界とDX 「共創」への本気度が試金石に

 デジタル技術を駆使してビジネス変革を促す「デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)」。このキーワードが国内の産業界で頻繁に飛び交っている。 

 引き金は経済産業省が18年9月に公表した「DXレポート」。既存の情報システムが残存しDXが進まなかった場合、25年以降に毎年最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らした。

 国がレポートに「2025年の崖」と名付けて警告したのは、DXが日本企業の国際競争力を高めるために必要と判断したからだ。

 19年に入ると、デジタル技術を働き方改革や生産性向上につなげる機運が製造や金融など幅広い業種で向上。

 IT各社はこれに呼応、DXのけん引役として名乗りを上げた。

 富士通は同年9月にDX企業へ転換すると宣言し、翌年1月に企業のDXを支援する子会社を設立。NECは7月、生体認証や人工知能(AI)などDXに必要な技術を統合したプラットフォームの世界展開を始めた。

 産業界は、コロナ禍で広がったテレワークなどを入り口にDXの重要性を再認識。野村総合研究所が5月に国内企業69社の最高情報責任者を対象に行った調査によると、約9割の企業がITによるビジネスモデルの見直しや新事業の検討を行う必要性を感じていた。

 DXの果実を最大化する際に鍵を握るのが、組織の垣根を超えた連携。

 12月には、日立製作所や東京大学などの産学官がデータの流通と活用を促す連携組織が立ち上がる見通しだ。「共創」への本気度が日本がデジタル市場で競争優位に立てるかどうかを占う試金石となる。

進む通信革命 5G始動、21年に開花各社

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯電話大手3社は今年3月下旬、相次いで第5世代高速通信規格「5G」の商用サービスを開始した。

 既に米国や韓国は19年4月に商用化。欧州や豪州、中東、中国などでも計画前倒しでサービスが始まっており、日本の出遅れ感は鮮明だ。

 また新型コロナウイルス禍、大々的なサービス開始イベントもなく、端末販売も伸び悩むなどキャリアにとって厳しい状況が続いている。

 しかし、5G普及に向け各社は基地局建設を急ピッチで進めておりドコモは21年末までに2万局を整備。KDDIとソフトバンクは既存の4G網の5G転用を含め21年度末にはそれぞれ5万局の整備を目指す。

 また、4G設備を一部に使用する現在のノンスタンドアローン(NSA)方式の5Gネットワークから、21年には各社、5G設備のみを使用する「スタンドアローン(SA)」方式を導入する計画。

 これにより高速大容量、超低遅延、多数同時接続といった5Gの特性をフルに活用できるようになる。

 今秋以降は、ミッドレンジの5G対応スマートフォンが続々投入され、消費者に幅広い選択肢を提供して普及を促進する。

 第4極として今春、携帯電話事業に参入した楽天モバイルも当初の計画より3カ月遅れながらも5Gサービスを開始。契約獲得競争も激化しそうだ。

 消費者向けだけでなく、法人向けサービスもSAの導入で加速することが期待される。

放送の進化 通信との融合が進む5G時代突入

 放送は技術の進歩とともに発展するメディア。テレビがモノクロからカラーへ、地上波のアナログ放送からデジタル放送「地デジ化」へ、インターネット普及やデジタル技術の進歩によるマルチメディア時代へ、様々な変革をもたらしてきた。

 放送サービスの高度化として18年12月に新4K8K衛星放送が開始され、新しい映像時代を迎えた。キメ細かな超高精細映像とマルチチャンネルによるサラウンドの立体的な音響、HDRによる自然で鮮やかな色彩で圧倒的な臨場感ある映像が楽しめる。

 一方で、放送と通信の融合が進む。

 マルチデバイスの普及とともに、ネットフリックスやアマゾンなどの動画コンテンツ配信サービス事業者(OTT)による動画配信サービスも急速に拡大。

 こうした放送業界を取り巻く環境の大きな変化から、放送業界の価値があらためて見直される。

 テレビ番組の新しい楽しみ方を提供するために、NHKをはじめ、民放各局では有料オンデマンドサービスを行っている。

 一方、無料サービスとして、15年に在京民放5社によるキャッチアップサービス「TVer」や20年4月にNHKの常時同時配信・見逃し配信サービス「NHKプラス」を提供している。

 現在、TVerはアプリダウンロード数が累計3千万を突破。NHKプラスは利用登録申請が100万件を突破し、大きく利用者数が増えている。

 今年3月に通信速度が現在の約100倍になる第5世代高速通信規格「5G」サービスが始まり、本格的に5G時代に突入。超高速・超低遅延・多数同時接続という特徴を持つ5Gの普及で、今後の放送業界の新たな在り方に注目が集まる。