2020.10.01 【自動車用部品および関連技術特集】ニチコン自動車用アルミ電解コンデンサの最新技術動向

【写真1】チップ形アルミ電解コンデンサ「UCMシリーズ」【写真1】チップ形アルミ電解コンデンサ「UCMシリーズ」

【写真2】チップ形アルミ電解コンデンサ「UCHシリーズ」【写真2】チップ形アルミ電解コンデンサ「UCHシリーズ」

【写真3】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCZシリーズ」【写真3】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCZシリーズ」

【写真4】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCHシリーズ」【写真4】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCHシリーズ」

【写真5】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCMシリーズ」【写真5】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCMシリーズ」

【写真6】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYCシリーズ」【写真6】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYCシリーズ」

【写真7】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYDシリーズ」【写真7】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYDシリーズ」

■はじめに

 近年、環境負荷低減や燃費向上を目的として、産学官連携による電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)の普及に向けた取り組みが強化されている。また、安全関連技術や自動運転機能を搭載した自動車の開発が加速しており、それらの機能に不可欠な自動ブレーキ、画像認識、センサー関連機器の開発も進んでいる。また、車内環境の快適性向上に伴い、エンジンルームへの電子回路設置や搭載部品の省スペース化、高性能化が進んでおり、車載用途で使用されるコンデンサに対しては高温過酷環境への対応に加え、小形・高容量化、低ESR化が求められている。これらは車載関連分野以外においても同様であり、今後一般に浸透していく5G関連機器や5G基地局などの情報通信関連分野、産業機器関連分野においても高密度実装や高性能化が進行している。

 今回、これらの要求に対応するアルミ電解コンデンサ、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサおよび導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサの最新技術動向について解説する。

■105℃小形・高容量品「UCMシリーズ」および125℃低温ESR規定品「UCHシリーズ」の定格拡充

 車載関連分野に限らず情報通信分野や産業機器分野でも搭載部品の小形化、高機能化のニーズが高まっている。高機能化として高耐電圧化、高容量化、低抵抗化、高信頼性化が挙げられ、当社でも様々なシリーズをラインアップし対応してきた。ここで車載用途に注目すると、燃費性能の向上を目的として48Vシステムの開発が欧州メーカーを主体に進んでいる。これらECU全般の入力用やDC/DCコンバータでは50-80V定格が主な選定対象となっており、搭載部品に対しては50-80V定格品の高容量化、高性能化に対する需要が増加している。そこで、当社は高容量化に注力して開発を進め、「UCMシリーズ」(写真1)および「UCHシリーズ」(写真2)の定格拡充を行った。

 本製品は、これまで当社が培ってきた高容量化技術を駆使しており、構成部材の薄手化や電極箔の高倍率化により電極箔の収容面積を拡大することで、現行の「UCDシリーズ」および「UCZシリーズ」から1ランク高容量化を達成するとともに、新規電解液を採用することで安定した特性を実現している。「UCMシリーズ」および「UCHシリーズ」の定格拡充により用途を問わず要望が多いセット機器の小型化、軽量化、員数削減、高性能化に貢献できる。製品寸法はφ6.3×7.7L、φ8×10L、φ10×10Lの3サイズであり、定格電圧および定格静電容量について「UCMシリーズ」は63V、80V、33-220μF、「UCHシリーズ」は50V、63V、33-220μFである。同一サイズでの最大収容容量について表1に示す。現行シリーズに比べて1.4-3.3倍の定格静電容量を収容でき、搭載製品の省スペース、高性能化に寄与することが可能である。

■導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCZ・PCH・PCMシリーズ」

 高温度条件下でも動作する高信頼性が要求される車載用途向けに、業界最高温度となる150℃2000時間保証を可能とした「PCZシリーズ」(写真3)を定格拡大し、今年10月から市場投入した。これにより導電性高分子アルミ固体電解コンデンサがこれまで搭載できなかった超高温度領域でも低ESR化を図ることが可能となる。導電性高分子をはじめとする構成部材の最適化、アルミ酸化皮膜に対する自己修復能力の改善および封止技術を改良することで、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの特長である低ESR、高許容リプル電流は維持したまま、150℃2000時間保証を可能とした。定格電圧および定格静電容量は16-63V、12-1000μF、製品寸法はφ8×7L~φ10×12.7Lをラインアップしている。

 また、パワートレイン系ECUがエンジンルーム内に搭載されることが多くなるなか、耐熱性を有したコンデンサにも、小サイズ化や定格電圧の拡充などの要求が増えている。これに応えるため車載用として業界最高レベルの135℃4000時間保証「PCHシリーズ」(写真4)のラインアップを拡充している。開発の際に採用した新技術を、定格電圧16V、20V、80Vおよびφ6.3のサイズに展開し、さらに最適化を図ることで、これまで未対応の領域にも135℃品のラインアップを可能とした。これにより、低ESRや高許容リプル電流を損なうことなく、高温度環境下においても、用途に合わせた製品を選択できるようになった。

 車載用途および情報通信用途などにおける長寿命化要求に対応すべく、業界最高レベルの125℃ 8000時間保証「PCMシリーズ」(写真5)のラインアップを拡充している。定格電圧および定格静電容量は16-80V、12-1000μF、製品寸法はφ6.3×6L-φ10×12.7Lである。さらに最適化を図ることで、これまで未対応の領域である8000時間保証を具現化することが可能である。これにより高温度環境下においても、長寿命を必要とする用途に合わせた製品を選択できるようになった。

■135℃対応導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYCシリーズ」

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用することで、アルミ電解コンデンサに比べて低ESR化、高許容リプル電流化、長寿命化が可能であることを特長としており、エンジンルーム付近など過酷環境で使用される電子機器を中心に採用が増加している。

 今回、さらなる高温環境への対応として135℃保証「GYCシリーズ」(写真6)を開発した。

 本製品は低蒸散性電解液の適用により、電解液のドライアップによる特性劣化を抑制することで実現した。また、本シリーズは125℃と135℃の両温度にて定格リプル電流値を設定することで、顧客の使用用途に応じて保証を選択できる。例えば、「GYCシリーズ」を125℃環境で使用する場合、135℃環境に比べて1.3-1.8倍の定格リプル電流値を許容でき、性能アップに寄与することが可能である。同一サイズでの許容リプルについて表2に示す。定格電圧および定格静電容量については25V-63V、10~330μF、製品寸法はφ6.3×5.8L-φ10×10Lである。

■150℃対応導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYDシリーズ」

 車載用電子回路は、車室内の快適性確保を目的としてエンジンルーム内へ移行されてきているが、今後はエンジンへの直接搭載、さらにはエンジンと統合していく機電一体化が主流となっていくため、電子部品の耐熱性向上が必須となっている。当社では、このような超高温環境下での使用に対応可能な「GYDシリーズ」(写真7)を開発した。

 本製品は、これまで培ってきた導電性高分子形成プロセスの最適化や、超高温環境下でも低蒸散かつ導電性高分子との親和性が高い新規電解液の採用により、150℃1000時間を保証している。

 「GYDシリーズ」のラインアップにより、超高温環境下で使用される電子機器の高性能化、長寿命化に寄与できる。また、いずれのシリーズにおいても耐振動構造対応(30G保証)が可能であり、エンジン自体の振動や走行時の振動に対しても高い耐性を有している。定格電圧および定格静電容量については25-35V、100-270μF、製品寸法はφ8×10L~φ10×10Lである。

■今後の展望

 日常生活をより快適かつ豊かなものとするべく、エレクトロニクス技術は日々革新されているが、それを支えているのは電子部品の小形化・高性能化と言っても過言ではない。車載用途に注目すると、自動車の電動化が進行するにつれて、コンデンサの搭載点数は増加し、高出力用途の電動化も進行することが予想される。それに伴って、コンデンサの性能に対する要求もより高度になっていくことが想定され、高耐熱化、高許容リプル電流化、小形・高容量化、長寿命化など、さらなる高性能化が必要である。当社は今後もお客さまの期待に応えるため、これまで培ってきた技術を結集し、期待以上の製品を提供できるように開発を進めていく。

      <ニチコン(株)>