2020.10.23 Let’s スタートアップ! ゴーリスト求人ビッグデータで人材会社を支援人材業界のニーズに応え飛躍

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。

 今回は、求人情報のビッグデータビジネスを手がけるゴーリスト。2011年1月に設立。独自の手法で求人情報を収集・分析し、求人媒体や求人広告代理店など顧客のニーズに合わせ提供している。

 2008年のリーマンショックで挫折を経験した加藤龍社長が会社を設立した経緯や設立2年目の経営危機、今後の展開について、広報の岳田亜実さんに聞いた。

プロフィール 岳田亜実(おかだ・あみ)・広報
2017年、山口大学卒業後、大手航空会社の内定を辞退し、ゴーリストに入社。同社HR事業部で営業を経験した後、2019年1月から外国人採用支援事業の立ち上げを担当。2020年4月から広報を担当する。

ネット上の求人情報を使って多様なサービスを展開

 あなたが、求人情報メディアの営業担当者だとしよう。

 あなたの仕事は「求人広告を出しませんか」といろいろな企業に営業をかけることだ。そのときに必要なのが、自社の媒体以外に求人広告を出している企業の情報、つまり営業対象となる企業の情報だ。

 この情報を基に、アポイントを取ったり、求人広告を出してもらうための戦略を練ったりする。

 この人材業界の会社が求める企業の人材募集の情報データを、ニーズに合わせた様々な形で提供するのがゴーリストだ。

 同社が情報源とするのは、インターネット上で様々な求人媒体に掲載されている膨大な求人情報。これを、専門チームが独自のシステムで収集し、分析しやすいようデータの形を整えている。システムによる情報収集は7年前から開始。現在のデータ量は20億件以上にも上るという。

 同社が求人情報のビッグデータを使って提供するサービスには、求人媒体に求人情報を載せている企業のリストを提供する「HRogリスト」、求人情報の分析結果を提供する「HRogチャート」、最新の求人情報を地図上にマッピングする「HRogマップ」などがある。

求人ビッグデータを基にゴーリストが展開しているサービスの一つ「HRogリスト」。求人媒体に求人広告を掲載している企業のリストを提供。初期費用は10万円、月額費用3万円から (画像提供:ゴーリスト)
求人市場の動向などを紹介する人材業界向けメディア「HRog(フロッグ)」も運営 (画像提供:ゴーリスト)

リーマンショックの挫折を糧に会社を設立

 ゴーリストの設立は、加藤社長が2008年のリーマンショックで経験した挫折が出発点と岳田さんはいう。

 代表の加藤はもともと人材業界にいました。リーマンショックが起きた時には、新卒で入った人材派遣会社の子会社の代表で、一目置かれる存在でした。しかし、リーマンショックの影響で、その会社は解散してしまったのです。

 その後、加藤は親会社に戻り別事業に携わっていました。半年ほどたった時に、解散した子会社に新卒で入社しかわいがっていた社員から電話がありました。

 加藤が電話に出ると、元社員は開口一番に「あなたのせいで人生が狂ってしまった。どうしてくれるんだ!」と非難されたそうです。

 この電話に加藤は非常にショックを受けました。そこで、「リーマンショックのようなことが起きても続けられる事業とは何か」「強い組織とはどのようものか」を真剣に考えるようになったといいます。

 その頃、ネット上の求人媒体からデータを集めてくる米国のサービス「Indeed(インディード)」が日本でも始まっていました。

 また、売りたい相手に商品を売り込む従来の営業方法ではなく、ブログやメディアを通して見込み客を集める「インバウンドマーケティング」が、はやり始めていました。

 加藤は、インディードやインバウンドマーケティングを知る一方で、いろいろな専門家のブログなどを読みながら「これからの人材業界は求人情報のビッグデータが重要になる」と考えました。

 そこで、10年勤めた人材派遣会社を辞め、2011年1月に当社を立ち上げることになったのです。

ゴーリストの設立経緯を説明する岳田さん

設立2年目でやって来たテレビドラマさながらのトラブル

ゴーリストは設立から2年後に会社の存続に関わる大きな危機に見舞われることになる。

 当時、会社は加藤と営業担当者、エンジニアの3人で運営していました。その頃、加藤は2年間も営業をかけた大手人材会社から、ようやく受注を獲得しました。

 そして、会社として飛躍にもつながりそうだと、3人で決起会を催したりして大いに盛り上がったそうです。

 一方で、加藤には“移住癖”があり、決起会を終えた後、残る2人にその案件を任せ、フィリピンのセブ島に家族とともに移住してしまったのです(笑)。

 もちろん案件の進ちょくは電話で常に確認していました。すると、日本にいる2人からは毎回「大丈夫」という返答だったので安心していました。

 ところが、実際はそうではなかったのです。加藤が営業データを納品する1週間前に、電話で進ちょくを尋ねると、アルバイトスタッフから「2人とも会社に来ていません」と言われたのです。

 加藤がセブから慌てて日本のオフィスに飛んで来ると本当に2人の姿はありませんでした。いちるの望みをかけて、2人のパソコンも調べたのですが、作りかけのデータすらなかったのです。

 その時、残されたのは、当時の会社の預金高6万円とアルバイト2人だけ。加藤はオフィスでがくぜんとしたそうです。

 発注した大手人材会社は、それまで依頼していた会社との契約を解除し、加藤の会社から届く300人分の営業リストを心待ちにしている状態でした。

 加藤は、気持ちを奮い立たせ、納品先の会社に謝罪に向かいました。そして、会議室で8人の役員から、「あんなに人が怒ったのを見たことがない」と振り返るくらい、ものすごいけんまくで怒られたそうです。

 そんな状況で、加藤はお金も人もいないことを正直に話しました。そして、「今自分たちにできること(納品)をするために300万円を振り込んでください」と土下座をして頼んだそうです。

 このあり得ない行動に対して役員たちからは、当然、「何をふざけたこと言っているんだ!」と怒号が飛びました。

 しかし、社長だけが笑いながら「面白いね、加藤君。分かった。振り込もう」と、本当にお金を振り込んでくれたのです。そして、加藤は「2週間以内に納品します」と約束したそうです。

設立2年目の危機について、身振り手振りで説明する岳田さん

エンジニア集団と運命の出会い! 最大の危機を回避

 テレビドラマさながらにピンチを切り抜けた加藤社長。一方で、営業データの納品は、是が非でもやらなくてはならなくなった。

 加藤は受注先の社長からの信頼を失うわけにはいかないと必死で人を探しました。

 すると、知り合いから腕の良いエンジニアの会社があることを教えてもらいます。しかし、その会社は、経営力と営業力が弱いため経営危機に陥っていたのです。

 加藤は彼らにすぐに会うことにしました。お互いの状況を包み隠さず話したところ、加藤の会社とその会社を掛け合わせると、それぞれの弱みを補い合えることが分かったのです。

 また、会ってみると、お互いの相性も良かったといいます。そこで加藤は思い切って合併を持ちかけました。これが当社の礎になったのです。

 その結果、加藤は彼らの力を借りて、依頼されていたデータを2週間以内に何とか納品することができたのです。その大手人材会社とは今でも良い付き合いをさせてもらっています。

 合併したエンジニア会社のメンバーは、求人媒体に掲載されている求人情報を自動で集めるシステムを開発してくれました。そのシステムはアップデートを重ねながら今でも使っています。

訪れた危機が会社の礎になったと話す岳田さん

多様なバックグラウンドの人が集まる会社を目指す

 ゴーリストでは今後、どのような展開を見据えているのだろうか。

 これから新卒の人も中途採用の人も、シニアもフリーターも、日本人も外国人も、いろいろな立場やバックグラウンドを持つ人がギュッと集まっているような組織にしていきたいと加藤とは話しています。

 実は、当社の社員の3分の1は外国人なのです。もしかすると3年後には、日本人が20%、外国人が80%という割合の会社になっているかもしれません。また、海外8カ所、日本2カ所と海外の拠点が多い会社になっているかもしれません。そんなことを考えています。

 社員の働きやすさや福利厚生についても、例えば農業や漁業と社員のワーケーションを絡めながら、地方創生にもつながるような、新しい働き方を模索していければとも話しています。

様々な人が集まる会社にしていきたいと話す岳田さん

「今ゴーリストにいない人」を求めています

 最後に今ゴーリストが求めているものを聞いた。

 私たちの考えとして、ゴーリストという会社自体を面白く変化させていきたいという思いがあります。

 そのためには、今まで出会ったことがないバックグラウンドを持つ人が入社して、新しいことを始めてもらう必要があります。

 そういう意味で、「今ゴーリストにいない人」を私たちは求めています。そういう人たちが集まって新しい事業がスタートできる会社だと思っています。

(取材・写真:庄司健一)
社名
ゴーリスト
URL
https://goalist.co.jp
代表者
加藤龍
本社所在地
東京都千代田区神田須田町1-18アーバンスクエア神田ビル7F
設立
2011年1月5日
資本金
1000万円(2020年10月時点)
従業員数
43人(2020年10月時点)
売上高
非公開
事業内容
HRビッグデータ事業、グローバルHR事業、ITソリューション事業