2020.11.02 【NHK技研90周年に寄せて】東京大学教授 相澤清晴氏 高付加価値コンテンツ制作・アーカイブ

 デジタル化による技術革新により、放送メディアの環境が激変してきた。今やコンテンツ制作が簡単になり、誰もがコンテンツを作れる時代となり、コンテンツが爆発的に増えている。

 さらに、スマートフォンやタブレットなどのメディア端末の多様化・進歩により、いつでも、どこでも、好きな端末で視聴できる環境が整い、まさに放送と通信の融合による時空を超えたメディア時代になったとも言える。

 放送は電波を通して見るのが昔の放送スタイルだったが、今は電波とネットの両方で見られる環境になっている。

 しかし、放送がネット配信のサービスとなると放送局の存在や位置付けが問われるが、今や放送も、ネットの世界の中に位置付けていかないといけないと思う。

 近年ネットフリックスやユーチューブなどの登場で新たなメディアが作り出され、マスメディア時代となり、ユーザーの選択の幅が広がっている。

 NHKではNHKプラス、民放では「TVer」で、モバイル向けに地上放送を常時同時配信や見逃し番組を無料で配信している。ユーザーの選択肢に合わせた放送の適用化が進んでいると思う。

 一方、誰もがコンテンツを制作できる時代ではコンテンツの品質問題もある。放送メディアとして、プロが作った高品質のコンテンツが最も重要で、これが放送の果たす役割であり、使命ではないかと思う。

 独自の放送の視点でのコンテンツ制作と、そのコンテンツに関わる技術のバランスを取るのが放送の世界だ。一般向けの商品とハイエンド向けの商品が存在するように、放送も品質に対してのバリエーションをきちんと保つ意味での放送の役割は大きい。

 その意味でも8K映像や立体映像などの高付加価値のコンテンツ制作は重要だ。

 時代を刻むようなプロのコンテンツ制作など、画像のみならず、番組の中身を含めた番組内容の観点から、放送の多様性が必要となる。

 国会図書館に保存されている本のように、高品質な映像コンテンツのアーカイブも重要だ。品質があるものを映像資産として残すのは、価値が極めて高い。

 一方、視聴スタイルの多様化に応じて、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)の世界に、どう関わっていくかも放送の一つの課題だ。

 VR/AR技術を活用し、遠隔地の人とあたかも同じ空間でコンテンツを視聴することも可能になる。これからは、コンテンツもコミュニケーションの主役になるだろう。

 さらに、ユーザーがキャラクタ(アバター)を使うか、直接リアルタイムに参加できるインタラクティブな番組も出ている。こうした映像を使ったコミュニケーションの一つの形態になると思う。

 NHK技研は、基礎的な研究から実用化に至るまでの研究を幅広くやっている唯一の研究所だ。

 10-20年先を見据え、着実に成果を出しながら、基礎的なものを長く積み重ねて研究していくことができる貴重な研究所として、大切にしてもらいたいと思う。