2021.01.13 電力小売り、全国展開への戦略東ガス、デジタル強みの英国企業と連携

 東京ガスは、英国の新興エネルギー企業、オクトパスエナジー(オクトパス社)と共同で、21年秋にも国内で電力小売り事業を始める。2月に合弁会社を設立する。東ガスは単独で首都圏で家庭向けを中心とした電力小売りを始めているが、新会社では、別ブランドでほぼ全国向けに展開する。東ガスグループが総合エネルギー企業として、全国販売に乗りだすのは初めてになる。

 同グループは1月、英国・ロンドンに、欧州各国でエネルギー関連事業に投資する東京ガスユナイテッドキングダムを新設。この会社を通じて、オクトパス社に約200億円出資することで、「戦略的提携」を結んだ。

 新設する合弁会社は「TGオクトパスエナジー」。出資比率は東ガス70%、オクトパス社30%で、東ガス側が約10億円を出資する。

 オクトパス社は15年にロンドンで設立。二酸化炭素(CO₂)の排出分を一部、相殺したガスの販売や、電気自動車(EV)関連事業などを手掛ける。

 主力は、急成長を続ける電力小売り事業だ。再生可能エネルギー100%の電力などを提供し、競争の激しい英国市場で、約4年間で180万件超の顧客を獲得した実績があり、豪州、ドイツ、米国に事業エリアを拡大した。「欧州で成長するエネルギー企業の中でも伸び率が大きい。急速にシェアを拡大し、勢いがある」(東ガス)という。

 急拡大する武器の一つがデジタル技術。オクトパス社は、顧客管理から料金請求などを一括したシステム「統合ITプラットフォーム」で展開し、効率的な顧客対応ノウハウを組み合わせて、維持管理コストを下げ、安価な電力を提供する。再エネやEV使用に特化した電力プランなど、顧客ニーズに合わせて充実させ、迅速に普及させるノウハウがあるのも強みだ。システムを他のエネルギー事業者にライセンス提供することも手掛けている。

新たな顧客層にリーチ

 一方、東ガスは、企業向けなどでは、NTTグループの新電力エネットに一部出資してきたが、16年4月に電力小売りが全面自由化されると同時に家庭向けにも参入した。

 首都圏のガス顧客を中心に、ガスと電気のセット販売などで大きく伸ばし、20年10月末で電力小売りは約256万件に及ぶ。多くが、従来のガス販売の代理店などを通じて、顧客と対面で切り替えを訴求し、積み上げてきた結果だという。

 次のステップとして、東ガス広報部は「ネット上で完結できる新たな顧客層にリーチしていくことが必要だと認識している。新たな電力プランを、ネットでいち早く届けることを志向している」と話す。

 既に全国展開への足掛かりとして、東ガス単体の電力小売りでも、20年10月、通販サイト「アマゾン」と協力し、中部や北海道にも広げる取り組みを始めた。

数百万件の獲得目指す

 全国展開するには、主に首都圏に限られてきた顧客システムなどの大掛かり改修が必要になるため、新たな事業者と組む方が「スピーディーに事業対応できる」(同)。そこで浮上したのが、オクトパス社だ。

 新会社では、沖縄県を除く全国を対象に、オクトパス社の技術やノウハウを活用し、再エネなどを切り口にプランを充実させ、迅速に顧客にプラン提案していく手法を取る。21年秋までに詳細を詰めていく。

 新会社では30年までに全国で数百万件の顧客獲得を目指す。グループの経営ビジョンでは、30年にガスや電気の顧客総数を2000万件に広げる目標を掲げる中、「(新会社の)占める割合は大きく、位置づけも重要」(同)という。

 東ガスの内田高史社長は「デジタル技術を用いて料金やサービスの多様化を安価に実現するオクトパスエナジー社は、リアル・デジタル融合による価値共創を目指す東京ガスにとって最適なパートナーだ」とのコメントを公表している。