2021.02.19 【インバータ特集】世界的な「脱炭素社会」実現へ ますます重要な役割
「脱炭素社会」の実現に重要な役割を担う汎用インバータ
世界的に「脱炭素社会」の実現が叫ばれる中で、日本でも菅政権が50年に温室効果ガスの排出ゼロ化を表明するなど、省エネの取り組みが加速する。産業界でも省エネは重要な経営課題となり、その活動がさらに活発になる。誘導電動機(ACモーター)と組み合わせて、大幅な省エネを実現するインバータの役割がますます重要になってきた。
日本の電力消費量は資源エネルギー庁のエネルギー白書によると最新のデータ(17年度)で9639億kWhで、部門別には産業36%、業務他34%、家庭28%、運輸2%の割合になっている。消費電力量の多いのは産業用を中心に使われている誘導電動機で、日本国内では約1億台普及しており、全消費電力量の約55%を占めると推計されている。
産業用モーター自体も高効率化が進み、世界各国が国際電気標準会議(IEC)の規準を採用するなど高効率化規制を進め、日本は15年から「トップランナー方式」を導入。
インバータは、エアコン等の家電機器などに組み込まれる電子回路と、産業用途で産業用モーターと組み合わせるコンポーネント機器としての「汎用インバータ」がある。
汎用インバータは、ビル、工場などの空調機器、輸送機器、工作機械、製造装置、建機、昇降機など、様々な産業機器の動力源として使われる誘導電動機と組み合わせ、需要は着実に広がりを見せる。
商用電源の周波数一定の交流を、スイッチングや平滑コンデンサなどで直流に変え、その直流を再びON/OFFのスイッチングと変調回路によって滑らかな交流に変える。スイッチングの回数によって周波数が可変でき、直流にすることで電圧も変えられる。
スイッチング素子は、現在はIGBTが一般的だが、より高速にスイッチングしてさらなる省エネを可能にする次世代パワー半導体デバイスと呼ばれるSiCやGaNを採用した製品も登場してきた。
産業用途で用いられるモーターは誘導電動機のほかに、回転子(ローター)に永久磁石を使用した同期モーター(PMモーター=永久磁石モーター)が用いられるケースが増えている。最近はネオジム磁石を使った同期モーターが開発されHV、EV用に使用されるようになってきた。しかし同期モーターは構造上、商用電源をそのまま使うことができず、インバータが不可欠になる。
汎用インバータはIoT化が進む。スマホでパラメータを設定したり、パラメータ情報をクラウドでバックアップするなど、使い勝手が向上している。
また、省エネの追求だけではなく、例えば安川電機の場合、同社汎用インバータの高速・高応答化という性能向上に加え、モーター制御を通じて機械の稼働状況を高速でモニタリングし、これらの情報から高い生産効率、高い品質、故障予知による止まらない生産を実現するCBM(コンディション・ベースド・モニタリング)を導入し、提案を始めている。
インバータ用部品、省エネニーズの高まりで需要増
電子部品メーカー各社は、省エネニーズの高まりに伴い需要が拡大するインバータ向けの取り組みを強化している。各社は産業機器、自動車、再生可能エネルギー関連、エアコンなどの家電製品など幅広い分野に照準を合わせ、高信頼性、高性能なパワー部品の新製品開発や拡販活動に注力する。
電子部品メーカーにとってインバータ市場は、機器のインバータ化進展に伴い生産台数の伸びが期待できることに加え、単価の高い高付加価値部品が搭載されることもメリットとなっている。このため、性能、信頼性を重視した製品戦略でインバータ向けの事業拡大に取り組むメーカーが目立っている。
抵抗器では、インバータ用に電流検出用途向けのシャント抵抗器の提案に力が注がれている。十分な定格電力を持ち、低抵抗を実現し、大電流に対応する。抵抗素子には厚膜、薄膜、巻線、金属板などが用いられ、特に金属板のシャント抵抗器の需要が伸びている。
インバータ回路では容量負荷や誘電負荷が多数存在し、回路内でサージやパルスが発生するが、こうした用途に適した抵抗器として、サージ・パルス負荷への耐性を高めた製品も展開されている。インバータ回路の電圧監視用途として、高電圧対応の薄膜分圧抵抗も用意されている。
コンデンサでは、大型アルミ電解コンデンサは、定格電圧400-450Vクラスを中心に、各種電源向けの高信頼性製品が開発されている。
二次側平滑用としては、電解液を使用したコンデンサに加えて、電解液を使用せず、電極材料に導電性高分子を採用した導電性高分子アルミ固体電界コンデンサ、電解質に導電性高分子と電解液を複合使用した導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(ハイブリッドコンデンサ)も新製品開発が加速している。
フィルムコンデンサは、誘電体フィルムにメタライズド(蒸着)ポリプロピレンフィルムを使用したものが開発されている。
コイル関係では、リアクタや電流センサーなど多くの巻線部品が使用される。
リアクタは、飽和磁束密度が高く、鉄損の小さいコア材料が求められる。ケイ素鋼板に加えて、ダスト(鉄粉)コアやアモルファスコア、フェライトコアの採用も用途別に使い分けられるようになっている。
コネクタでは、車載インバータや充電器などでの小型・高性能ニーズに対応し、耐振・防水性能を高めた高電圧対応の小型電源インターフェイスコネクタなどが開発されている。
モーターでは、屋外に設置されるインバータ向けの防水冷却ファンなどの開発も進んでいる。