2021.02.22 日本の脱炭素技術、世界に二国間クレジット後押し、アフリカで初

自然電力が制度を利用してフィリピンで進める事業。風況観測機器を設置し、風力発電所を開発する準備を始めている

 国内の脱炭素技術を途上国にも広めることを促す国の「二国間クレジット制度」が根付きつつある。民間企業の技術が現地で二酸化炭素(CO₂)排出を削減できれば、貢献度合いに応じてクレジットの一部が日本側にも配分される仕組みだ。企業が進出しづらいアフリカでも事業が稼働し、2月初旬に初めて、クレジットを発行できるまでになった。

 こうしたクレジットを活用した制度は、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」に大枠が規定されており、詳細な制度設計の議論が進んでいるという。日本は、先行的な取り組みとして独自に開始し、スイスなども同様に取り組んでいる。

 日本では、脱炭素に寄与する技術や製品、サービスなどの普及を目指し、13年1月にモンゴルと取り決めを交わしたのを皮切りに、東南アジアを中心に中南米などの国々と結んできた。直近では、フィリピンと17年に結び、計17カ国が「パートナー」になっている。

 エチオピアなどパートナーが2カ国あるアフリカでも制度を利用した事業が動き出している。

 13年6月にパートナーになったケニアの南部、キリフィ県にある製塩工場には、隣接地に設備容量991kWの太陽光発電システムが設置された。建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツ(東京都千代田区)と現地企業のプロジェクトで、発電した電力は工場ですべて自家消費する。

 停電時にはディーゼル発電機に切り替えるが、新たに設置した太陽光発電システムとディーゼルを安定的に運転させるコントローラなども導入。こうした設備で年間630トンのCO₂削減を想定した。

 16年12月から2年間、稼働した工場などで実際にモニタリングを実施。21年2月に日本とケニア両国による会合が開かれ、CO₂を削減できた計974トン分のクレジット発行が決まった。両国や企業などへの配分も決まり、日本政府には488トン分が割り当てられた。明確なルールは未定だが、配分されたクレジットは、日本の削減目標に活用できる可能性があるという。

リスク高い地域にも普及

 この制度では、窓口になっている「地球環境センター」(大阪市鶴見区)が、民間企業などを対象に事業を公募。採択されれば、初期投資費用の上限2分の1を国が補助する。だが、アフリカで採択された事業は、まだ3件にとどまっているという。

 環境省地球温暖化対策課市場メカニズム室は「アフリカは民間にとってリスクが高いとされる。採択事業そのものを増やしていくことも課題だ」と話す。

 一方、新電力の自然電力(福岡市中央区)は、フィリピン・ミンダナオ島で約33MWの風力発電所を開発する事業が19年度に採択されたほか、タイで工業団地内の貯水池の水上に出力30MWの太陽光パネルを設置する事業も21年2月に採択された。フィリピンではCO₂削減量を年間約3万5000トン、タイでは同約1万4000トンと想定している。同社は「日本の技術で、現地の二酸化炭素を減らしつつ、日本にもクレジットとして寄与できるのが、このスキームの魅力だ」と話す。

 同省によると、制度の利用を望む企業は増えつつあるといい、20年度だけで25件の事業を採択。これまでに採択は計180事業に達し、30年度までに累計で計約1700万トン以上のCO₂排出量削減が想定されている。このうちの一部が、クレジットとして日本に配分される見込みだ。

 同室は「途上国への環境インフラの輸出などにも、制度を活用してもらいたい」と話している。