2021.03.11 きょう東日本大震災から10年電機業界は何を学びどう生かす

被災した工場は速やかに復旧に向けて動きだした(写真はアルプス電気=当時=古川工場)

 11年3月11日に東北地方を襲った巨大地震と津波は、この地に工場や拠点を持つエレクトロニクス関連企業の活動を一瞬にして止めた。生産設備や建屋の損傷、電気・水道・ガスといったライフラインの寸断、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う計画停電も復旧の足かせになった。さらに復旧を遅らせる想定外の要因がサプライチェーンの分断だった。震災以降、各社はBCP(事業継続計画)を見直し、事業や生産を止めない施策を打ってきている。それでも、いつ、どこで起こるか分からない災害とどう向き合うのか、課題は多い。きょう3月11日、東日本大震災から10年を迎えた。

通信の遮断や計画停電が足かせ

 地震は金曜日の午後2時46分18秒に発生した。影響は東日本全域に広がり、首都圏でも全ての鉄道が運転を見合わせ、携帯電話も非常につながりにくい状況に陥った。金曜日午後であったことや通信の遮断などもあり、電機各社では安否確認や被害状況の詳細把握に手間取った。

 被害の詳細が明らかになってきたのは翌週14日からで、主要総合電機各社の関係工場は操業を停止し被害を確認している状況だった。同日から東京電力管内で計画停電が始まったことも逆風となり、操業再開への障害が立ちはだかった。

被災当時の三菱電機郡山工場内部

 生産拠点の被災は多岐にわたり、日立製作所は家電関連の多賀事業所、電力関連の日立事業所、情報制御関連の大みか事業所などが被害を受けた。三菱電機は監視システムなどの郡山工場が甚大な被害に遭った。NECは東北の生産4拠点で操業を停止。富士通はPC生産を行う富士通アイソテックの生産ラインが損傷を受けた。

サプライチェーン寸断

 デバイス関連ではアルプスアルパインが福島、宮城の生産拠点で設備に損傷があり、TDKやSMKなど多くの企業が被害を被った。中でも半導体のルネサスエレクトロニクスの那珂工場の被災は業界内外に大きな影響を及ぼした。自動車や部品各社が那珂工場の半導体を使っていたことからグローバルで自動車メーカーのサプライチェーンを寸断。工場再稼働までに3カ月を要した。

被災企業、生産継続の難しさ実感

 震災で浮き彫りになった問題は、ラインを止めずに生産し続けることの難しさだ。生産設備の耐震性は当然のこと、万が一生産が止まった場合に代替生産へ速やかに移行できる体制と、部材調達などサプライチェーンを止めない体制の構築が不可欠になる。BCPへの取り組みを行ってきた企業も多かったが、震災を機にガイドラインを再度見直したところも目立つ。

 宮城や福島に生産拠点を持ち設備に損害を受けたパナソニックは、災害時に想定できる様々な課題をガイドラインに織り込んだという。

 ダイキン工業は、生産拠点での被害はなかったものの、サプライチェーンの寸断などからサプライヤの見直し、設備の耐震補強、関西に集中する生産拠点への対策を施した。

 この10年でICT化が一段と加速し、デジタル技術を使って調達から生産まで最適に管理し効率化を図るスマートファクトリー化も進展した。東日本大震災で東北エリアの工場が被災したNECは、同じ年の夏に発生したタイの洪水でタイ工場も被災。国内外の主要工場が同時期に被害を受けた。このとき特に苦労したのがサプライチェーンの問題だった。自社の生産ラインが正常化しても部材調達ができず、最終製品の出荷ができなかったのだ。

代替生産できる体制に

 こうした経験もあり、NECのモノづくり全体を支えるNECプラットフォームズではワンファクトリー化を推進。国内外事業所間で代替生産ができる体制を構築し、日々改善を図っている。

三菱電機郡山工場は震災で四つあった生産棟が全壊した。12年5月、被災した4生産棟の機能を集約した生産棟を新設
震災の教訓を生かし耐震性や省エネなどに配慮した工場建設も進んだ(写真はTDK本荘工場=秋田県由利本荘市)

 調達の最適化も進め、IoTなどを活用したスマートファクトリー化も加速させている。日立も大みか事業所などを中心にスマートファクトリー化。三菱電機は被災した郡山工場を建て替え、BCP対応に加え生産効率なども高めた。

BCP見直しの契機に

 課題も多い。あるBCP担当者は「災害対応やBCPは、どこまで想定範囲を広げ、どこまで対策していくかの線引きが難しい。起こるか分からない災害のために大きな投資をしていくことも簡単ではない」と話す。

分散発注など問題に

 部材調達の際に複数企業へ部材を分散発注できるのか、調達価格は最適化できるのか、といった問題が発生するほか、代替生産時の設備投資費用、人材教育、調達先の変更などをどのレベルまで行うか、調整も必要となる。想定を超える災害が発生した場合は再び事業が停滞する可能性もあり、常に監視が必要というのが各社の見解だ。

 帝国データバンクが行ったBCPに対する意識調査(全国1万1979社から回答)によると、20年5月時点でBCP策定企業は16.6%(前年比1.6ポイント増)と、依然として低水準だった。策定意向のある企業からは「自然災害」が最も高い想定リスクとして挙がり、「感染症」が急増していることも分かった。

 企業規模別では大企業の3割がBCPを策定しているが、小規模企業は7.9%と大きな差がある。業界別では金融が4割超と最も多く、製造は約2割だった。地域別に見ると策定意向のある企業の割合は、大地震の発生が予想される地域で高いことも示された。

 今年2月13日、東日本大震災の余震とみられる地震が再び福島県沖を震源に東日本まで幅広い地域で起こり、津波は発生しなかったものの住宅や店舗などで被害が出た。このときルネサスエレクトロニクスは再び那珂工場で工場を停止したが、クリーンルームの確認などを行い、21日には復旧にこぎつけた。一方、日立の自動車部品を手がける日立アステモの福島工場は復旧に時間を要した。そのほか各社の生産拠点では大きな被害はなかった。

省エネ化の動きも

 震災を契機に省エネ化の動きも広がった。国内の原子力発電所が全て停止して電力の有効活用が大きなテーマになるとともに、太陽光や風力など再生可能エネルギーへの取り組みも加速。特に太陽光発電システムの設置は住宅や工場で進んだ。工場の屋根へのソーラーパネル設置が活発化したほか、蓄電システムと連携したBCP対応を施すところも出てきている。省電力化ではLED照明の導入も加速した。

台風や豪雨に新型コロナも…幅広い視野での対策必要に

 この10年、地震に限らず台風や豪雨などに伴う災害が全国で多く起こった。14年には豪雨による広島土砂災害、16年には熊本地震、大分県中部地震、台風被害、17年には九州北部豪雨、18年には大阪北部地震、北海道胆振東部地震が発生。北海道地震ではブラックアウトも経験した。熊本地震の際はデジタルカメラなどのイメージセンサーで高いシェアを持つソニーの工場が被災しサプライチェーンに影響が出た。

 そして昨年、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るい、サプライチェーンが分断された。国内だけでなくグローバルでのサプライチェーンの分断となり、いっそう広い視野での対応が必要となった。感染拡大防止を目的に緊急事態宣言も発令され、今まで想定していなかった事業運営が求められるようになった。

 昨年から、時間や場所にとらわれずに業務を行うテレワークの導入が本格化している。テレワークは10年前の東日本大震災の計画停電の際にも検討された。在宅勤務は日立が99年から、日本IBMが00年から、日本ヒューレット・パッカード(当時)が07年から、NECが08年から、富士通が10年から導入していた。しかし各社とも限定的で、震災を機に導入の幅を広げる動きにつながった。実際は東日本地域が中心だったが、10年後の現在、テレワークが全国規模で当たり前に採用されるようになった。なかなか浸透しなかったテレワークが今、一般化しつつある。

 東日本大震災で電機業界は何を学び、これからどう生かそうとしているのか―。あすから連載で電機や部品、流通、ICT、放送などの分野別に追う。