2021.03.16 【スイッチ特集】車の高機能化が需要創出へ
車載用タクトスイッチ
スイッチメーカー各社は、市場ニーズに対応するスイッチの新製品開発や製品バラエティ拡充に力を入れている。各社は、自動車/車載電装機器や情報通信端末、産業機器・インフラ関連などの成長分野をターゲットに、小型・高性能で操作性や信頼性に優れた製品開発を強化し、グローバルでの事業拡大を目指す。スイッチ応用製品への展開にも力が注がれる。
スイッチは、ヒューマン・マシン・インターフェイスおよびマシン・マシン・インターフェイスをつかさどるデバイスとして重要視される。
スイッチの用途は広く、スマートフォン/ウエアラブル端末などの携帯端末や白物家電/AV機器、PC/コンピュータ、事務機器、四輪車/二輪車、産業機器/製造装置、計測器、放送機器、医療/ヘルスケア機器、電力機器、通信インフラや社会インフラなど、あらゆる工業製品で使用される。
スイッチのグローバル需要は、世界的な機器需要増大などを背景に、13年から17年にかけて順調に推移した。特に17年のスイッチ市場は、車載関連需要の拡大や、世界的な設備投資増大に伴うFA機器/工作機械/半導体製造装置の需要増大などがけん引し、年間を通じて堅調に推移した。
一方、18年後半以降は、米中貿易摩擦の激化や中国経済減速の影響などにより、ほかの電子部品同様、スイッチの需要も低調に推移。19年も、米中貿易摩擦の長期化や中国自動車市場の低迷といった影響を受け、一進一退の状況が継続した。
20年のスイッチ市場は、調整一段落から緩やかな回復が見込まれていたが、年初からの新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済活動停滞による設備投資需要低迷や自動車需要減退などの影響により、特に年前半のスイッチ市場は大きく落ち込んだ。そうした中でも、コロナ禍での需要減少は20年4-6月に底を打ち、7月以降は徐々に需要が回復。JEITA(電子情報技術産業協会)の電子部品グローバル出荷のスイッチ月次統計では、20年10月には前年同月比で微増ながらプラスに転じ、20年12月まで3カ月連続で前年同月を上回る推移となっている。
JEITAグローバル出荷統計では、20年累計(1-12月)のスイッチ出荷額は前年比18%減の3584億円と3年連続で前年比マイナスとなったが、21年はコロナ禍からの回復により、プラス成長への回帰が見込まれている。特に21年以降は、世界的な自動車生産回復や、コロナ禍を契機とした自動化ニーズの強まりなどが、付加価値の高い車載用スイッチや産業用スイッチ需要を押し上げていくことが期待されている。特に自動車関連では、CASEをキーワードとした車の高機能化が、新たなスイッチ需要を中長期で創出していくことが予想されている。
スイッチの用途別では、自動車/車載電装関連を最大のけん引役に、FA/産業機器関連、日系スイッチメーカーがグローバルで高シェアを持つ携帯端末用などでの成長が見込まれる。このほか、医療機器/ヘルスケア関連や、ロボット、ウエアラブル関連、第5世代高速通信規格5Gの基地局関連、VR端末、セキュリティ関連での需要増、さらには、5Gの普及に伴うソサエティ5.0関連市場の拡がりなどが、新たなスイッチ需要を創出していくものとみられる。
最近の電子機器・装置市場では、メカニカルスイッチからタッチパネルへの移行が進み、メカ式スイッチ市場には逆風となっているが、自動車では、車の進化に向けた新機能の付与が、今後も操作系/検出系スイッチの新用途を創り出していく見通し。
製品動向
車載用スイッチ
自動車には多くの操作/検出系スイッチが使用される。コックピットのフロントパネル回りのほか、ハンドル回りやドアモジュール部にも多くのスイッチが搭載される。ボンネットやトランクの開閉検知などで検出系スイッチも多用される。特に車載用検出スイッチは、車1台当たりの搭載数量が年々増加しており、今後も新車販売台数の伸びを上回るペースでの需要拡大が見込まれる。
車載用スイッチへの技術要求は、小型軽量かつ高信頼性に加え、防水・防じん、耐振動/衝撃性、長寿命、操作感触の向上、静音化など多彩。車室内の操作系スイッチでは、日米欧のプレミアムカーメーカーは独自性のある操作感触や高級感のある操作音を求めている。各社は長年培ってきた操作フィーリングのノウハウや高度なシミュレーション技術を活用し、顧客要求に応じたカスタムスイッチ開発に注力する。
運転者の安全性を考慮し、運転者が前方から目を離さず操作できるスイッチやフィードバック機能付きデバイスの開発も進展している。車の電動化に伴い、冗長性を高める2回路/3回路の検出スイッチ開発も進む。
モバイル機器用スイッチ
携帯端末用スイッチは、小型・薄型化と高強度・高信頼性・長寿命などの技術要件を同時に満足させることが必要となる。加えて、最近のスマートフォンは防水性もトレンド。各社はこうした要求に応えるため、シミュレーション技術などを駆使した高度なR&Dを展開する。
最近は、タッチパネル操作へのシフトで端末1台でのスイッチ使用数は減少傾向だが、米アップルのiPhoneなどの高級スマホでは小型スライドスイッチへの根強い需要がある。スマホ用スライドスイッチは、日系スイッチメーカーが世界シェアの大半を確保している。
産業機器用スイッチ
産業用スイッチ各社は、産業機器・装置の高機能・高性能化や作業性・安全性向上などに向けた新製品開発に力を入れている。
産業用スイッチの用途は、FA機器/製造装置やロボット、工作機械をはじめ、通信・放送用設備、電力設備、建設機械、航空宇宙関連など多彩。産業機器/システムでは誤作動のない極めて正確な動作が求められるため、良好で確実な操作感触や長期信頼性、耐環境性能、優れた防じん・防水性などを備えた産業用スイッチが追求される。鉄道業界向けなど特定業種に照準を合わせた専用スイッチ開発も進む。