2021.05.18 Let’s スタートアップ! Photoruction建設業向けSaaS×AIで建設の世界を限りなくスマートに

 成長が著しいスタートアップを取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。

 今回は、ソフトウエアで建設業界の働き方を改善する株式会社Photoruction(以下、フォトラクション)。同社の建設業向けクラウドサービス「Photoruction」は、リリース以来順調にユーザー数を伸ばしている。

 「建設の世界を限りなくスマートにする」をミッションに掲げる同社のこれまでの歩みや今後注力する事業、将来像を、広報の野崎さんに聞いた。

プロフィール 野崎華弥(のざき・かや) 株式会社フォトラクション 広報
日本大学工学部建築学科を卒業後、大手ハウスメーカーに入社し、設計を担当。その後、大手ゼネコンに転職し、施工管理を担当。土木系建築会社への転職活動中に、フォトラクション代表の中島氏から誘いを受け、同社に入社する。現在は広報として活動中。

建設技術者が本来の仕事に集中できる環境を提供

 働き方改革が求められる中で、なかなか労働環境改善が進まないのが建設業界だ。コロナ禍の影響は多少あるものの、いまだに長時間労働や休日出勤が常態化している。

 その原因の一つが、現場監督をはじめとする建設技術者が、日々大量の写真データや図面の確認作業、煩雑な事務作業などに追われ、本来注力すべき仕事に集中できないことだ。

 この課題を解決しようと開発されたのが、建設業向けクラウドサービス「フォトラクション」だ。

 「フォトラクション」は、図面や写真など建設現場で必要な情報をクラウド上で一元管理できるSaaS型サービス。情報はリアルタイムに共有されるため、関係者間の情報伝達スピードを向上できる。

 具体的機能として、現場で撮影した写真を自動的に関係者と共有したり、位置情報などから自動で整理してくれる「写真機能」、図面データをモバイル端末で閲覧したり、注釈を付けたりできる「図面機能」など、さまざまな機能がワンプラットフォーム上で利用可能。建設技術者が本来の仕事に集中するための環境が提供される。

 また最近、関連書類作成などをオペレーターが代行する「建設特化のBPO(Business Process Outsourcing:業務の一部を外部委託すること)」機能も加えられた。これは業務代行の回数が増えデータが蓄積されると、AI(人工知能)の学習が進み、その処理に置き換わっていくもの。雑務の自動化とコスト削減を目指している。

 現在、「フォトラクション」は、大手ゼネコンのものを含め、国内外約8万以上もの建設プロジェクトが導入。同社の発表によると、最大10倍を超える業務効率化を実現している。

「フォトラクション」はさまざまなデバイスで利用できる

誕生の場はエンジニア養成学校

 2016年の設立以来、順調に成長を続けるフォトラクション。その誕生のきっかけは、代表の中島貴春氏が「個人の趣味で作ったアプリケーション」にあると野崎氏は説明する。

 代表の中島は、もともと大手ゼネコンの株式会社竹中工務店の情報システム部門に所属していました。

 当社が提供するような建設業関連のICTツールは、10年ほど前から登場していますが、中島はそうした新しいツールをベンダーと一緒に開発したり、導入して現場で利用してもらったり、いわば今の当社のユーザーのような立ち位置にいたのですね。

 そうした中で中島は、自分が求める理想のツールを模索しようと、あるエンジニア養成学校に通いました。その際、彼が開発したツールが、今私たちが提供している「フォトラクション」の原型です。

 実は中島は、母親がパソコンを自作し販売するほど知識がある人だったこともあり、幼少期からパソコンに親しみ、自分でコードを書くこともできました。もともとIT関連の豊富な知識を持っていたのですね。その養成学校も首席で卒業したそうです。

 そうした知見もあり、中島が開発した「フォトラクション」は当初から評価が高く、当時はまだ写真をクラウド上で共有するシンプルな機能のみでしたが、既にワンプラットフォーム上でさまざまな機能を提供する構想は出来上がっていたそうです。

 「フォトラクション」のさまざまな機能の構想を、果たして、このままにしておいて良いのかなど。いろいろ悩んだ末、中島は竹中工務店を辞め、2016年3月に当社を設立するに至りました。

「フォトラクション」の構想は、中島代表のエンジニア養成学校時代に出来上がっていたという

「最初の顧客」を獲得するまでが苦しかった

 大手ゼネコンを含めた多く顧客を持つフォトラクションだが、「最初の顧客」を獲得するまで非常に苦労したという。

 設立時は、「フォトラクション」の最初のお客さまが決まるまでが非常に辛かったですね。

 実は、私は当社におけるビジネス担当の「第一号社員」です。当時は渋谷のマンションをオフィスにしていて、中島とともにあちこち営業電話をかけたり、各地に説明に出向いたりしたのを覚えています。全く相手にされないなど、いろいろと悔しい思いもしました。

 だからこそ、最初のお客さまが決まったときはうれしかったですね。

 中島とそのお客さまとのメールのやりとりを私も共有していたのですが、あるとき契約してもらえる内容のメールが流れてきて、「あ、買ってもらえたんだ!」と(笑)。

 ちなみに中島は最初のお客さまとの商談の場で、最初のお客さまだと思われないよう少しでも会社の規模を大きく見せようとしたほか、当時の「フォトラクション」はまだ写真機能しか付いていなかったので、自分が思い描いている将来像を具体的に話すことに力を入れていたそうです。

 その後、1年ほどかけて機能を増やしていくうちに、「このサービスは使えるぞ」とご理解いただけるお客さまが少しずつ増えていき、今の状況になりました。

最初の顧客を得るまで非常に苦労したと、当時の状況を振り返る野崎さん

これまで表に出てこなかった雑務の負担をAIで軽減

 リリースから4年目を迎え、「フォトラクション」のSaaSサービスはかなり定着したという。今後力を入れていくのは、どういったサービスだろう。

 これからも「フォトラクション」の機能拡張を目指しますが、特に力を入れていきたいのがAIを活用した「建設特化のBPO」という機能です。

 今建設業界で問題となっているのは、建設技術者の長時間労働です。特に現場監督は、現場に出ることが本当に注力すべき業務であるにもかかわらず、事務所での残業時間がなかなか減りません。

 それはなぜか。次の日に使う施工計画書や手順書などの書類を作ったり、職人さんへの作業指示書を書いたり、メーカーへの発注書類を作ったり、さまざまなデスクワークをしているからです。

 「建設特化のBPO」とは、こうした雑務を外注していただくための機能になります。

 最初は、建設業の知見を持つ当社の者が“人手”で対応します。と同時に、当社が開発した建設業に特化したAIに、その作業内容を学習データとして与えていき、最終的にはAIが書類作成などの雑務を担えるようにしていきます。

 大手ゼネコンなどは既に一部の業務を外注していますが、人手によるサービスだと、将来的にもコストは横ばいか増えていくことになります。一方、当社の場合は、AIを導入することで、コストを大きく下げられます。

 こうした「建設特化のBPO」のサービスを、従来のSaaS型のサービスと組み合わせながら、建設業界に広めていければと考えています。

「デジタルゼネコン」というポジションを創る

 フォトラクションではどのようなビジョンを描いているのだろうか。

 当社の将来の姿を語るときに、中島はよく「デジタルゼネコンになる」という言葉を口にします。

 まず「フォトラクション」のSaaS型サービスを普及していくことで、施工の情報が集まるプラットフォームに進化していくことになります。

 さらに今後、「建設特化のBPO」が広まることで、これまで表に出てこなかった書類などの情報も集まり、さらに幅広い建物のデータベースに切り替わっていく。つまり人の情報、お金の情報、書類の情報が集まるようになる。

 これが全て完成したときに「フォトラクション」が新しいゼネコン、「デジタルゼネコン」になっていくと考えています。

 ゼネコンとは、発注者から土木・建築工事を一式で請け負う元請け業者ですから、現場で発生するあらゆる業務を取りまとめる立場になります。

 一方、私たちが提供しているサービスが完成すると、現場のあらゆる業務情報が集まるようになる。

 そうなったときに施工自体はできないけれど、それ以外の部分を全てデジタルで支援する、解決する、「デジタルゼネコン」というものが生まれてくるのではないかと考えているのです。

 それは10年、20年、30年先の話になるかと思いますが、将来的にそういったポジションを創っていければと思っています。

「デジタルゼネコン」というポジションを創ろうとしているという

フォトラクションを技術継承の箱に

 フォトラクションの成長を黎明(れいめい)期から支えてきた野崎さん。実はもともと建設の現場に携わる人間だった。なぜ転身したのだろうか。

 私は新卒でハウスメーカーに就職し、設計を担当しました。その後、大きな建物に挑戦したくなり、大手ゼネコンに転職し、施工管理の仕事をしました。

 その後、土木にも携わりたくなり、土木系建築会社への転職活動をしているときに、中島から転職媒体を通してスカウトメールが届き、興味を持ったのがきっかけです。

 当時、一般にはスマートフォンが普及していたのに、建設現場ではいわゆるガラケーを使っていた。それほどICTツールが出回っていなかったのです。

 そうした中で、建設業界にICTツールを広めたいという中島の話を聞いたときに、「こういうツールがあれば、建設業界の人たちが格好良いと思われ、若い人たちも興味を持つのではないか」と思ったのですね。

 それで、既に土木系会社から内定はもらっていたのですが、それをお断りし、フォトラクションに加わることに決めました。

 建物は、そこで働くいろいろな人たちが一生懸命力を合わせて作り上げるものです。ですから、私自身は建設業界に対して悪いイメージは持っておらず、「力のある技術者たちが腕を振るう場所」という良いイメージを持っています。

 ただ、そのすごい技術者たちのノウハウや技術が、その場でしか活用できない、活用の場が広がらないという歯がゆさをずっと感じていました。いつかフォトラクションがその技術継承の箱になったらいいなと考えています。

「フォトラクションが建設技術継承の箱になればうれしい」と野崎さん

「起業家」ではなく「事業家」を求めています

 最後に今必要としているものを聞いた。

 私たちが今必要としているのは、「第2創成期を楽しめる方」です。

 今SaaSとBPOを掛け合わせるという新しいプロダクトも増えたところで、それを一緒に広めてくれる人を求めています。

 また当社はIPO(新規公開株)の準備も始めているので、そういったことも含めこの言葉を選びました。

 建設業界の知識が豊かな人というよりは、どちらかというとビジネススキルに長けている人。「起業家」よりも、「事業家」を当社では強く求めています。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社Photoruction(フォトラクション)
URL
https://corporate.photoruction.com
代表者
代表取締役 中島貴春
所在地
東京都中央区築地5丁目4-18 汐留イーストサイドビル6階
設立
2016年3月
資本金
485,012,250円(資本準備金含む)
従業員数
役員2人、正社員54人、業務委託(アルバイト含む)67人
事業内容
建設業の生産性と品質の向上を目的とするクラウドサービス「Photoruction(フォトラクション)」の開発・運営