2021.05.19 再エネで都市と地方が新たな連携豊富な再エネ電力を供給 地域活性化にも貢献

再エネ受給開始式であいさつする林横浜市長(右)と山本軽米町長

既に横浜市への電力供給を始めている岩手県一戸町のバイオマス発電所既に横浜市への電力供給を始めている岩手県一戸町のバイオマス発電所

 再生可能エネルギーの全国的な広がりを背景に、都市部と地方部の新たな連携が生まれている。横浜市は再エネ開発が進む東北地方で発電された電力を市内で利用拡大させる協定を13市町村と締結し、供給を開始。電力供給と地域振興が一体となったスキームづくりも進む。

 4月下旬に横浜市役所で開催された「再エネ受給開始式」には、連携する横浜市と岩手県軽米町の関係者らが参加した。林文子横浜市長は「日本最大規模の連携は、電力供給のみならず、互いの地域活性化にもつなげていく。脱炭素社会の構築は新たなイノベーションを生み、企業のビジネスチャンスを創出する」と呼び掛けた。

 県の最北端にある軽米町は人口約8700人で、緑豊かな森林やのどかな農村風景が広がる。横浜市内に供給を始めたのは、民間事業者が営む町内の風力発電設備。1基だが、最大約2MW、一般家庭約1200世帯分を発電できる。

 発電した電気は東北電力に再エネ固定価格買い取り制度(FIT)により売電される。だが、新電力のみんな電力が、発電事業者や東北電力と特定卸供給契約を結ぶことで、横浜市内のNPOが管理する公共施設や事業者など4者は、この電気を購入できる。同社独自のブロックチェーン技術を活用したトラッキングサービスで産地証明も可能だ。「発電量と使う量をマッチングさせ、改ざん不可能なようにブロックチェーン上に書き込む仕組みで、購入履歴を証明する」(みんな電力)。

 受給開始式にオンラインで出席した山本賢一軽米町長は「町では来年12月までに五つの太陽光発電所とバイオマス、風力発電所1カ所ずつが完成予定。630キロメートルの距離を飛び越えて、横浜市に電気を供給できることは喜びだ」と応じた。

 横浜市は19年2月から、軽米町を含む青森、岩手、福島の3県の計12市町村と同様の連携を進めてきた。20年10月には秋田県八峰町が加わった。いずれも再エネ資源を豊富に持ち、各地域で発電された太陽光や風力、バイオマスなどの再エネ電気を横浜市内の市民や事業者、公共施設などへ供給する。

 一方、各地域同士の交流や地域活力の創出につながる取り組みも推進。課題などを共有して政策提言にもつなげる連携だ。

 横浜市温暖化対策統括本部によると、八峰町を除く12自治体の再エネ発電の潜在力は約750億kWhに上る。八峰町が加わったことで、さらに大幅に増加。横浜市の年間電力消費量約160億kWhの「5倍以上」(林市長)とみている。

 横浜市の再エネ発電の潜在力は消費量の約10%程度と試算されており、ゼロカーボンシティーを目指す同市にとって、連携で市域外からの供給を確保することは必要不可欠だ。

 再エネ電力は19年9月以降、青森県横浜町などから順次供給が始まった。「自治体間で大きな枠組みを示してプロモーションをすることで、事業者も利用しやすく、民間同士の契約が具体化しやすい」(同本部)。

地域に資金を還元

 地域の豊富な電力を有効活用しながら利益を地域に還元するスキームの提供も始まっている。再エネ電力のコンサルタントなどを手掛ける、まち未来製作所(横浜市中区)が20年11月に始めたサービスが「グッドアラウンド」だ。

 再エネ発電所の立地自治体からの依頼に基づき、新電力などを介して、発電された電気の地産地消や、余剰分を「都市へ輸出する」(同社)など割り振って活用する。発電所側に地域活性化の賛同も得る。ただ、同社は「需要家に直接売るのではなく、仲介する立場」(同社担当者)という。

 料金の上乗せ分を「地域活性化資金」として地元に還元する仕組みで、地域課題の解決などに投資してもらうモデルを目指す。

 同社は第1弾として茨城県神栖市と協力。市内の発電事業者(バイオマスや風力など計約30MW)を仲介して新電力に卸供給し、主に首都圏の需要家に販売している。活性化の資金については、神栖市と協議中。「自治体の思いを最優先する」(同社)ためだ。

 同社担当者は「都会などへの電力供給を通じ、地域にお金を流入させることができる。広がっていくビジネスであり、成功事例を積み重ねたい」と話す。