2021.06.01 【電波の日特集】 6月1日は〝電波の日〟今年のテーマ〝デジタル変革がもたらす「社会」と「地域」の新時代〟

写真1 今年の情報通信月間のポスター

 1950年に施行された電波法、放送法、電波監理委員会設置法によって、電波利用が広く国民に開放されたことを記念して、6月1日は〝電波の日〟に制定されている。総務省と情報通信月間推進協議会は、情報通信の普及・振興を図ることを目的に、5月15日から6月15日を〝情報通信月間〟とした。今年のテーマは〝デジタル変革がもたらす「社会」と「地域」の新時代〟。〝電波の日・情報通信月間記念中央式典〟は中止となったが、全国各地で行われるオンラインなどを活用した〝情報通信月間参加行事〟は実施されている。

❖身近になってきた情報通信活用

 今年の情報月間のポスター(写真1)は、テーマの〝デジタル変革がもたらす「社会」と「地域」の新時代〟のコピーを中央に配し、身近になってきた「テレワーク」「多言語翻訳」「遠隔医療」「4K・8K放送」「キャッシュレスでのお買物」「スマート農業」「海外との連携・協力」「遠隔教育」のイラストで囲んでいる。

■「新たな日常」を支える情報基盤

 コロナ禍により誰もが体験している「新たな日常」に関連した取り組みについても、ポスターは次の3項目を強調している。

 ◇テレワークや遠隔教育、遠隔医療を支える情報通信基盤の整備

 ◇Beyond 5Gをはじめとした先端技術への戦略的投資

 ◇デジタル化の進展に合わせたサイバーセキュリティの確保

■社会全体の生活様式の変革を支えるプラットフォーム

 さらに、生活様式を変革するプラットフォームについては次の3項目を挙げている。

 ◇新しい働き方・暮らし方の定着、デジタル格差対策の推進

 ◇デジタル市場のルール整備

 ◇総務省の政策資源を総動員した海外展開の推進

 「新しい日常」は、デジタル社会のバロメーターでもある、情報通信の啓蒙(けいもう)普及の追い風になっているようだ。

❖電波は人類共有の財産

 電波は人々の暮らしのあらゆるところで利用活用されている。

 20世紀の半ばまでは中波(MF=ミドル・フレケンシー)や、短波(HF=ハイ・フレケンシー)と呼ばれる周波数帯の電波を利用して無線通信やラジオ放送が行われていた。

 無線技術の進歩とともに超短波(VHF=ベリー・ハイ・フレケンシー)や、極超短波(UHF=ウルトラ・ハイ・フレケンシー)の電波を使うテレビ放送や通信も実用化された。

 第5世代高速通信規格の5Gでは、マイクロ波(スーパー・ハイ・フレケンシー)に分類されている28ギガヘルツ帯の電波を利用している。

 第1図は、超長波からサブミリ波まで、使用目的別の電波の利用割り当てと特性をまとめている。

 電波は周波数によって届き方や距離などが異なる。低いほど振幅の波長は長く、高いほど波長は短くなる。

 長波は地球の地表に沿って伝わりやすく安定しており、水中にも届くため潜水艦との通信にも利用されている。

 中波は昼間の到達距離が限定されているため、主にラジオ放送に利用されていて、都道府県単位に異なった放送局がある。夜間は到達距離が延びるため、最近は近隣各国の大電力出力の放送局の混信が激しい地域もあり、FM放送への移行が検討されている。

 短波は、地球を取り巻く電離層と地表との反射を繰り返し、地球の裏側まで届く性質があり、国際通信や外国向けラジオ放送に利用されてきた。

 超短波より高い周波数の電波は直進性があり、高くなるほど光と同じような性質になっていく。

 ミリ波(EHF=エクストリームリー・ハイ・フレケンシー)や、サブミリ波(THF=テラヘルツ/トリメンダスリィー・ハイ・フレケンシー)は直進や反射をし、光とほとんど変わらない。

 電波は、極めて周波数の低い領域に属する光でもあり、人類共有の財産なのだ。

❖増え続けている無線局数

 無線局数は増加を続けている。けん引しているのが「陸上移動局」に分類されている携帯電話で、無線局全体の99%弱を占める。これを除くと「基地局」「簡易無線局」「アマチュア無線局」が大きなシェアを持つ。無線のアナログからデジタルへの移行期限となる2022年11月30日が迫ってきているが、デジタル化率はほぼ半分で、駆け込みの大需要が期待されている。

 IP通信や衛星無線用機種も開発され、簡易無線局を含む業務用無線機の評価は高くなり、需要は拡大している。

■増える簡易無線局

 グラフ1は基地局、簡易無線局、アマチュア無線局数の推移。

 簡易無線局の伸びは他を圧していることがよく分かる。

■無線通信への信頼度高まる

 超大型台風、豪雨、豪雪、竜巻、地震、噴火など〝かつてない規模〟の自然災害や遭難事故が多発している。

 平時はスマートフォンや携帯電話は生活に欠かせないモノで、手放せないが、緊急事態が起きると通話が増加して回線がパンクすると、情報ライフラインとしての機能が発揮できないことも周知されている。

 無線機は、電源が確保できれば、通信網が維持できることも認知されている。11年の東日本大震災以降、業務用無線機器への関心が高まり需要が伸びていることは、グラフ1の簡易無線局の伸びが証明している。

 通信方式も、従来のアナログ方式からデジタル通信方式への移行が進んでおり、より安定した音声通話だけでなく、さまざまな情報伝達ができるようになりデータ通信や、ネット、電話網との連動も可能になったことも需要を押し上げている。

 第1表は、用途別に分類した無線局数の一覧。さまざまな分野で使われている。

■業務用無線とは

 主要業務用無線には「特定小電力無線」「簡易無線」「小エリア通信システム」「一般業務用無線」「MCA無線」の5種類がある(第2表参照)。

写真2 機種も増えて周辺機器も多彩になった特定小電力トランシーバー

 特定小電力無線は、無線従事者免許も無線局の免許も要らない簡便なもので製品価格も安い。家電量販店のラジオ売り場などにコーナーが常設されるようになっていて利用者は多い(写真2)。

 伸びが著しい簡易無線は、デジタル化製品の発売が追い風になっている。電波の出力は5W以下に強化されて実用性が高くなった。従来使われていたアナログ方式の簡易無線機器の利用停止時期が迫って買い替え需要が起きている。デジタルとアナログ兼用機種でも買い替えが始まった。

 利用面では無線従事者の免許が不要。高所や上空でも使えデータ通信もできる。イベント用などに随時使用が可能なレンタルも認可されている。

 IP網を使って電波到達範囲外とも通信でき、GPSによる位置確認やセンサーデータ転送も可能。仕事にもレジャーにも使えるのも好評(第3表参照)。

 小エリア通信システムは、特定小電力無線と簡易無線の中間の通信性能がある。

 一般業務用無線は、公共的な無線通信用に許可される。

 MCA無線は、全国11の移動無線センターが配置している通信制御局を利用して通信ができる方式で、中継局には発電機が備えられ、災害に強い通信ネットワークと評価されている。ドコモのLTEと3Gとの連動サービスを大幅に拡大し、超広域カバーの無線として注目されている。

■デジタル簡易無線活用のメリット

 人気のデジタル簡易無線のメリットを第3表にまとめた。

 専門店では、企業や自治体などに、安全・安心のコミュニケーションインフラとして申請手続きの支援なども行い、積極的に拡販している。

 無線従事者のライセンスが不要で、通信が楽しめることから「ライセンスフリー無線」という趣味にも利用されるようになった。業務用無線機市場拡大への期待は大きい。

■新業務用無線方式の〝IP無線(IPトランシーバー)〟登場

 業務用無線機は、従来独自の無線網を持っており、互いの電波が到達する範囲がサービスエリアだった。

 〝MCA〟のように基地局を介して別エリアとの交信を可能にするものもあるが、IPトランシーバーは直接携帯電話網にアクセスして通話ができる。

第2図 携帯電話網を活用できるIPトランシーバー

 第2図は、左側に配置されている、アイコム発売のIPトランシーバー〝IP502H〟〝IP501H〟〝IP500H〟がそれぞれ携帯電話網と接続して相互の通信を行い、右側のように、位置情報をスマートフォンやパソコン(PC)に表示する様子を示している。

 図の下側は、同社の無線LAN用トランシーバー〝IP100H〟、〝IP電話〟や〝放送設備〟〝特定小電力トランシーバー〟との連動を示している。

 IPトランシーバーを活用すると、日本全体規模の無線通信網を、ピンポイントの業務現場と連動した、斬新な通信インフラ構築が可能になる。

■4G LTE全国通話圏で同時通話・多重通話可能

 携帯電話網は、人口カバー率99%のauの4G LTE(800メガヘルツ帯)を使っている。

 IPトランシーバーの形状は、〝IP500H〟(写真3)のように手のひらに収まる小型の製品で、同機を使ったシステムでは、携帯電話のような相互通話のほか、会議のような多重通話も可能で、割り込み通話もできる。車載用装置や端末位置情報サービス、従来の業務用無線との連動用オプションも用意する。

 近年、大災害が頻発し、無線機を活用した通信網への関心が高まっている。IPトランシーバーは既に、山形県鶴岡市のデジタル移動系防災行政無線へ採用。Osaka Metroの133駅への導入。空港内を全カバーする低コスト同報通信システムとして日本航空での採用など、実績を上げている。レンタルも可能で、通信機専門各社の取り扱いも増加している、無線業界期待の新無線機だ。

■5G Edge Gateway登場

 携帯電話や、ネットワークとの連動が進む無線機に、新たなプラットフォームが加わった。アイコムは〝5G Edge Gateway〟を開発した。

 情報通信の世界は、「新しい日常」を支え続けている。

写真3 アイコムのIP500H