2021.06.28 【ハイテクびと 番外編】東芝の崔明秀さん

LiDARには世の中を変えうるポテンシャル

 エレクトロニクス先端技術の最新情報を紹介する電波新聞別刷り「High Technology」。7月1日号の「ハイテクびと」では、東芝のLiDAR研究の中心役である崔明秀さんを紹介。その番外編として、研究の経緯などについて、デジタルで紹介します。(本編は1日付紙面・電波新聞デジタルをご覧ください)

 ―研究者になったきっかけは。

 崔さん 早大理工学部で、デバイス・集積回路・材料などを研究していました。光の研究も手掛け、当時、フォトニック結晶開発の研究で、経済紙に紹介されたこともあります。そのころから、研究を通じて社会とかかわること、研究成果が世に出ることの喜び、といったものを感じていました。

 就職活動では、研究室からの推薦枠もあって、東芝が有力候補でしたが、ほかにもいわゆる理系だけではなく、さまざまな企業の話を聞きました。SE関連、商社、金融、広告代理店などです。そうした中で、自分はやはり、形あるものを世の中に出したい、多くの方が使ってくれるものを作りたい、社会インフラにかかわる仕事がしたいという気持ちが強まりました。最終的に東芝を選びました。

 ―入社後はどうでしょう。

 崔さん どういうものを作りたいか、というところまでは固まっていなかったのですが、リクルーターをしていた先輩が無線関連のラボにいて、声をかけてくれたので、その方面に進みました。

 ただ、私は学生時代、研究一筋というわけでもなく、バイトにも精を出しましたし、少し異端だったかもしれません(笑)。でも、そんな経験は、たとえば製品をつくるとき、だれがどう広めてくれるのか、売ってくれるのかを考える、といったことに通じています。また、昔から、人をまとめてチーム力で何かを達成するのが好きで、それも仕事に生きています。単なる足し算ではなく、掛け算ですね。

 ―LiDAR研究は志望されたのですか。

 崔さん 社内の別のリーダーが手掛けていて、それがとても先見の明があった。それを引き継ぐ形になりました。当社にはもともと、イメージセンサーの技術の蓄積があり、LiDARとは親和性もある。私は担当になって1年ほどで「これは世の中を変えうるポテンシャルがある」と感じるようになりました。

 ただ、むろんそれに専念するわけではなく、複数のプロジェクトを担当し、その一つでした。その中では、やはり二次元の受光デバイスが肝になると考え、力を入れました。

 ―そこでも、やはりチームの力が必要ですね。

 崔さん 意欲のある部下、後輩にも「考えてみなさい」とけしかけました。当時は、「圧」を相当かけたかもしれません(笑)。ブレイクスルーができたのは、コロンブスの卵的な発想からでした。いわば、時間情報の処理技術を活用するわけです。

 背景には、無線通信で培った技術の蓄積もあります。研究の歴史は、老舗の鰻屋さんの秘伝のタレと同じで、継ぎ足し継ぎ足しの中で、進んでいく。先輩から受け継いだものをもとに、改良をしていける。その強みがあります。

 当社の特長の一つは、「半導体のオリンピック」とも呼ばれる、半導体関連の年1度の国際会議「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」に、毎回参加していることです。そこで得ることもたくさんあります。そうしたアイデアを掛け合わせていくわけです。

(※本編は電波新聞別刷り「High Technology」7月1日号の紙面や、電波新聞デジタルで)
【ハイテクびとInterview】東芝 研究開発センター 上席研究員 崔明秀 氏