2021.07.09 【家電流通総合特集】量販店の動向各社、今年度は厳しめの予想

ヤマダHDは今年度、出店攻勢をかけるなど、量販店の動きが活発になってきた

 新型コロナウイルスの流行による巣ごもりで、2020年度の家電市場はさまざまな商品の需要が押し上げられた。こうした需要は続いているものの昨年に比べると弱含みで、家電量販店各社は今年度、厳しめの予想となっている。ただ、エアコンや調理家電など在宅時間を豊かにする家電の需要は底堅い。大型テレビへの買い替えも本格化してきた。ニューノーマル(新しい日常)で家電の位置付けがこれまで以上に重要になり、また、ネット通販の普及で市場環境は急速に変化している。

 上場している大手量販店5社の21年3月期は、巣ごもりやテレワーク、ウイルス抑制・除菌、快適性の向上など在宅時間の増加が家電市場を押し上げ、各社とも大幅に利益を伸ばした。4社が営業利益と当期純利益で過去最高を更新する好決算。生活インフラに欠かせない商品を扱う小売業としての力強さを見せつける内容となった。

 好決算に沸いた20年度だが、今年度はノジマを除く4社が減収を計画する。ただ、消極的な減収予想ではなく、コロナ特需の影響が想定以上に大きかったことを受けたもの。22年度からは上向くと各社は見る。

 市場環境が変化する中、攻勢に打って出るのがヤマダHDだ。同社は21年度に暮らし丸ごとを提案する新コンセプトの大型店の新規出店を年間30店計画し、下期から出店を加速していく。

 6月には新コンセプトの第1号店「Tecc LIFE SELECT熊本春日店」(熊本市西区)をリニューアルオープンした。改装を含めて、新コンセプト店を全国各地に展開する方向性を打ち出す。

 山田昇会長兼CEOは「家電だけでなく、家具やインテリアなどの品ぞろえが豊富になっており、大塚家具の商品を加えて、ハイクオリティーな家具も提案できるようになっている」と述べ、既存店がリニューアルするタイミングを生かして新コンセプト店への転換を進めていく方針を示した。

 ヤマダのように、ここに来て積極的な出店戦略を進めているのがノジマだ。今年度は年間30店の新規出店を計画。「ミッテン府中」(東京都府中市)への出店など、商業施設の運営と出店戦略を連携させ、家電にとどまらない収益源の確保を進める。

 ただ、足元の販売状況は好調とはいいがたい。売り上げの月次速報を開示しているケーズホールディングスとエディオンの状況を見ると、4月は前年同月比で伸長するも、5、6月は前年を割り込んだ。昨年は5月頃から巣ごもり需要が顕著になり始め、6月には特別定額給付金による大型家電の活性化や夏商戦に向けた盛り上がりなども出てきていた。これに対する反動が表面化している。

 一方で、家庭内におけるエンターテインメント機器としての位置付けを新たにした大型テレビは、地上デジタル放送への移行から10年が経過し、買い替え需要が本格化。さらに今年は、コロナ下の開催ではあるものの、東京五輪・パラリンピックが少なからず需要を押し上げるとの期待感が強い。

 除菌への関心から、空気清浄機や除菌装置の需要は高いままだ。炭酸水メーカーといったおうち時間を楽しむ調理家電も、まだ普及率が低く、需要の掘り起こしにつながる。

ネット通販の強化が必須

 こうした商品群で商機をつかむとともに、今後はネット通販の強化が必須だ。上新電機では20年度にネット通販の売り上げが717億円に達するなど、前年から2割以上増えている。

 ビックカメラもコジマ、ソフマップを含むグループのネット通販の売り上げを、21年8月期で803億円とする目標を掲げる。売り上げに占めるネット通販の割合は2割に迫る勢いで、今後も拡大戦略を描く。

 都市型店舗を軸にするヨドバシカメラもネット通販には以前から力を入れており、ネットで注文して店舗で受け取るサービスの利用などもコロナ禍で増加した。都市部の来店客数は依然として厳しい状況が続いているため、急増するニーズへの対応力も必要になっている。

 コロナで需要構造が変化したことから、量販店各社もスピード感を持った対応が求められている。ネット通販の売り上げは全社的に拡大しているが、物流コストと合わせた最適な対応が利益の創出には重要となる。ネット通販サイトの見やすさ、使いやすさなども継続利用してもらうには不可欠だ。

 同時に、郊外型の利用が中心となりつつある中、都市部の店舗の生かし方も検討していかなければならない。出退店は簡単ではなく、大きな決断にもつながる。

 需要の変化を先読みし、中長期的な視野に立った店舗戦略が、これからますます重要になりそうだ。