2021.07.09 【家電流通総合特集】求められる新たな対応力
巣ごもり需要は続いており、高付加価値品への関心は高い
新型コロナウイルス感染症拡大で特需に沸いた家電流通市場。昨年との対比となる4月からの市場の動きはやや鈍い。人々が新しい生活様式になじみ始める中、コロナ禍で意識が高まった衛生・清潔関連やおうち時間を快適にする家電、ネット通販の利用拡大といったトレンドは続く。地域密着型の地域電器店も、SNSを使った情報発信など、これまで以上にデジタルツールを活用するようになってきた。顧客アプローチの仕方が変化しており、新しい社会環境での対応力が求められている。
量販店 各社、店舗戦略の見直し図る
家電量販店にとっては、巣ごもりやテレワーク、ウイルス抑制・除菌関連などで家電の販売が好調に推移した半面、店舗戦略の見直しも迫られた一年になった。人が密集しやすい都市部を避ける傾向はいまだに継続しており、1年前と比べれば戻ってきたとはいえ、郊外型店舗を利用する頻度は明らかに増えている。
今年度から攻めの新規出店を計画するヤマダホールディングスの山田昇会長兼CEOは、今後の店舗戦略について「コロナの影響で都市部における人の流れが大きく変わったことを考慮しなければならない。今後の軸にしていく新コンセプト店の基本的な考え方は、大型郊外店という位置付けだ」と方向性を示した。アフターコロナであっても郊外型の利用を中心とした生活スタイルは定着し、暮らしを丸ごと提案する大型店で、生活に関わるさまざまな需要を取り込んでいく。
東京五輪・パラリンピックが大型テレビやブルーレイディスクレコーダーなどの需要をどこまで押し上げるかは不透明だが、大型テレビやエアコン、冷蔵庫などは今年度も巣ごもりで堅調な需要が見込めるはずだ。同時に、刈り取り切れていないおうち時間を楽しむための調理家電や玩具なども量販店にとっては格好の提案商材になる。
また、自社ブランドの商品を開発し、差別化と収益力のアップを同時に狙う動きも加速している。
ビックカメラは2021年8月期第2四半期(20年9月~21年2月)でプライベートブランド(PB)商品の売り上げ構成が9.9%となった。ヤマダHDはSPA(製造小売り)商品にまで踏み込み、その売り上げ構成は13%に迫る勢いだ。
特にSPAは、メーカーが開発する商品とは違って設計から開発、製造、販売までを一貫して行うスタイルであるため、差別化を図りやすい。加えて利益率も高く、ヤマダHDはSPAを戦略的に増やしている。ビックもSPAを視野に入れた戦略を組み立てる。
地域店 訪販再開などお客の声に応える
「『待ってたよ!』と言われることが多かった」。そう話すのは、新星電器本店(東京都足立区)の主計眞介社長だ。
対面営業が基本の地域店では当初、コロナ禍で訪問活動を自粛。初めての事態に直面し、どう対処するか途方に暮れる店も少なくなかった。
特に新星電器は、毎月1回は稼働顧客に顔を出す徹底した訪問活動が強みにもかかわらず自粛を余儀なくされたため、昨年4~5月の売り上げは大幅に減少した。
危機感を募らせた主計社長が恐る恐る訪問を再開したところ、お客からの多くの温かい声に迎えられ、その後の訪問再開に自信を持った。
こうした地域店は新星電器だけではない。コロナ禍で多くの店がお客からの厚い信頼を実感している。結果的に年間を通して見ると前年を上回る収益を上げた店も多かった。新星電器も2桁に迫る増収となった。
合展に代表される集合催事はこの一年、ほぼ開催されず、個展を軸にイベントを実施してきた。今夏も同様だ。
ただ、個展にも変化の兆しが出始めている。オンラインで別会場を結び、個展の会場(主に店)に商品提案などの映像を配信する取り組みが始まった。
地域店にもデジタル技術の活用を迫る波は確実に押し寄せている。今後、IoT家電の販売に今よりも注力しなければならない以上、デジタル技術を生かしたお客へのアプローチは商売上も重要なテーマだ。
感染予防の観点から行動が制限される中、無料通話アプリ「LINE」の活用や更新が止まっていたホームページの再開など、お客との接点活動に生かそうとする動きが目立つようになってきた。お客側もこうした新たな接点を受け入れるようになっており、訪問とデジタルツールの両方を活用したハイブリッドの接点活動が今後は求められる。
ワクチン接種が進み、アフターコロナも視野に入り始めた。ただ、従来のような集合催事の在り方は見直されることになりそうで、デジタルツールを活用したハイブリッドの接点活動も定着するだろう。今のうちから対応力を高めておく必要がありそうだ。