2021.08.05 【コンデンサー特集】大形アルミ電解コンデンサーの最新技術動向 市場ニーズに対するニチコンの製品ラインアップ

【写真1】基板自立形アルミ電解コンデンサー「LGCシリーズ」

【写真2】基板自立形アルミ電解コンデンサー「LHTシリーズ」【写真2】基板自立形アルミ電解コンデンサー「LHTシリーズ」

【写真3】基板自立形アルミ電解コンデンサー「LGZシリーズ」【写真3】基板自立形アルミ電解コンデンサー「LGZシリーズ」

【写真4】ネジ端子形アルミ電解コンデンサー「LNUシリーズ」【写真4】ネジ端子形アルミ電解コンデンサー「LNUシリーズ」

【はじめに】

 アルミ電解コンデンサーは、電極にアルミニウムを使用していることで、以下の特長を持つ。アルミニウムの陽極酸化皮膜は比誘電率が高いことから、大きな静電容量を得ることが可能である。またアルミニウムは弁金属の中でも入手しやすく、価格も比較的安価であることから、ほかのコンデンサーに比べると低コストで製品化することが可能である。

 この特長から大形アルミ電解コンデンサーは、太陽光、風力発電などの再生可能エネルギー分野、EV用車載充電器などの自動車分野、工業用ロボットやFA機器などの産業機器分野、5G基地局やデータサーバーなどの情報機器分野といった成長分野においても広く採用されている。

 大形アルミ電解コンデンサーの主な用途は電源入力電圧の平滑用コンデンサーであり、スイッチング電源回路やインバーター回路に安定的に電気を供給する重要な役割を持った部品であることから、今後のさらなる性能向上が期待されている。ここでは大形アルミ電解コンデンサーの最新技術動向として市場ニーズに対する当社の開発取り組みと製品ラインアップを紹介する。

【最新技術動向】

〔1〕小形化

 小形化はアルミ電解コンデンサーにおいて普遍的なニーズであるが、近年は高電圧品や長寿命品に対しても小形化ニーズが増えてきている。小形化の開発ポイントは、最新のエッチング技術による電極箔(はく)の高容量化、電解紙薄手化や製品構造による電極箔の収容率向上にある。

■基板自立形超小形長寿命品105℃5000時間保証「LGCシリーズ」

 現在、ラインアップしている105℃5000時間保証「LGXシリーズ」をさらに小形化した業界最小レベルとなる新シリーズの105℃5000時間保証「LGCシリーズ」(写真1)を製品化した。

 LGCシリーズは、新開発の高容量電極箔や高容量化に適した最適な部材を適用し、電極箔の収容効率を向上させたことで業界最小の製品サイズを実現した。現行のLGXシリーズに比べて最大で33%(体積比)の小形化を達成しており省スペース設計に最適である(図1)。

〔2〕高温度化

 5G基地局や再生可能エネルギー機器では、過酷な設置環境も想定した防じん対策による電源ファンレス化や筐体(きょうたい)密閉化、ユニット小形化に伴う部品集積の高密度化によるセット内温度の上昇に対応可能な高温度化ニーズがある。高温度化の開発ポイントは、熱安定性の高い電解質や添加材を採用した電解液、高温中でも漏れ電流を低く抑制できる誘電体技術にある。

■基板自立形高温度対応品125℃3000時間保証「LHTシリーズ」

 現在、ラインアップしている105℃3000時間保証「LGNシリーズ」を高温度対応させた業界最高温度となる新シリーズ125℃3000時間保証「LHTシリーズ」(写真2)を新たに市場投入した。LHTシリーズは、漏れ電流を抑制した高信頼電極箔適用などの要素技術を最適化して採用することにより、高温下でも安定した耐久性を確保して業界最高レベルの高温度対応を実現、サイズも現行のLGNシリーズと同等で達成している。

〔3〕長寿命化

 再生可能エネルギー分野では、メンテナンスフリーや投資対効果(メンテナンスコスト)の観点から、長寿命化の要求が増えている。長寿命化の開発ポイントは高温度化と同様に高安定性電解液と低漏れ電流電極箔にある。電解液量管理も重要であり電解紙選定、封口部材選定も重要である。

■基板自立形長寿命品105℃20000時間保証「LGZシリーズ」

 現在ラインアップしている業界最長レベルである105℃10000時間保証「LGRシリーズ」をさらに長寿命化して、業界最長となる105℃20000時間保証「LGZシリーズ」を製品化している(写真3)。

 LGZシリーズは、高信頼性電極箔を採用し、電解液保持量の高い電解紙と組み合わせることで、業界最長となる長寿命化を実現した。これまで長寿命化は製品サイズとトレードオフ関係となる傾向にあったが、高信頼性と高容量を両立した電極箔を採用することで、現行のLGRシリーズと同サイズで寿命を2倍にしており、長寿命化設計が求められている用途に最適な大形アルミ電解コンデンサーとして提供している(図2)。

■ネジ端子形高耐電圧小形化品105℃5000時間保証「LNUシリーズ」

 現行のネジ端子形105℃保証標準品である「LNTシリーズ」に対して、高耐電圧化(定格電圧:525V)・長寿命化(5000時間保証)、小形化も同時に実現した、ネジ端子形高耐電圧小形化品105℃5000時間保証「LNUシリーズ」(写真4)を製品化した。

 高信頼電極箔、長期安定性と高電圧下での酸化皮膜修復能力を高めた電解液、耐電圧特性を向上させた低ESR電解紙、放熱性を高めた製品構造の採用により、定格電圧500Vで比較すると約20~30%小形化を実現、機器の小形化・軽量化に貢献する。また、負荷変動の激しい産業機器用途で高い評価を得ている当社独自の高速充放電対応技術も取り入れており、短時間で急激な充放電を繰り返すACサーボモーターなどの用途にも対応する。

 標準品よりも定格電圧を高めたことにより、入力電圧が変動するような電源電圧事情の悪い地域向けの電源平滑用として幅広く活用でき、さらにシステムの要求電圧に対応するために、複数個のアルミ電解コンデンサーを直列接続して使用する場合に員数の削減が可能となるため、サイズ・コストを抑えた回路設計に最適である。

【今後の技術ニーズ】

 ここで述べた電源入力電圧の平滑用コンデンサー用途では、大形アルミ電解コンデンサーが今後も選定候補として推移すると考えられるが、使用条件がより厳しくなることで、小形化、高リプル化、長寿命化といったニーズが強まり、フィルムコンデンサーなどほかのコンデンサーが選択される状況も予想されることから、さらなる高特性化に取り組むことが求められる。

 例えば自動車分野のEVでは車載充電器とDC-DCコンバーター、インバーターなどを一体化したパワートレイン統合に向けて、コンデンサーは体積での小形化だけでなく、低背化などのニーズが予想される。また次世代パワー半導体の採用が進む中では、さらなる高電圧化や低損失化、高周波対応などの新たなニーズも予想されている。

 当社は主要材料である電極箔、電解液などの材料開発と製品設計を一つの組織に集約した技術センターを中心として、今後の市場ニーズを捉えた新製品開発に取り組んでいく。

ニチコン(株)