1998年、“モノづくりの楽しさを一人でも多くの人に!"をスローガンに「真空管アンプキット専門店」としてスタートしたSUNVALLEY AUDIO（旧キット屋）。創業23年を迎えた現在でもなお、大橋慎店主の真空管アンプにかける思いは変わらない。半導体技術の進歩によるハイエンドオーディオの台頭や小型ヘッドホンの普及など、オーディオを取り巻く情勢も変化してきた。同店はその中でも真空管アンプを中心にキット販売を続けてきた。

　―一口に「オーディオ」と言っても、レコードプレーヤーからコンピューターオーディオ、ヘッドホンに至るまでさまざまな楽しみ方がありますが、なぜ真空管アンプキットを中心とした事業を始められたのでしょうか。

　大橋店主　個人的には数多くの半導体機器も使ってきましたが、真空管にはほかにはない「モノ」としての魅力があるように思います。表面実装部品などを用いず、はんだごてで作成できる真空管アンプの作りはシンプルです。そして、シンプルであるがゆえに奥深い。そして通電時のヒーターの明かりは、他のオーディオにはない魅力をたたえています。実際に動作させてみたときに「このアンプはまるで生きているようだ」と感じられるのです。また、シンプルであるがゆえに真空管アンプを楽しむわれわれも「モノ」そのものに関与しやすく、おのおのにこだわりが生まれやすいのが根源的な真空管アンプの魅力の一つであると感じます。

　―「モノ」への関与は、やはりオーディオを楽しむ上で重要な要素だとお考えですか。

　大橋店主　私どもが推進してきた「モノづくり」には、何にも代えられない感動があると考えます。若かりし頃、秋葉原のラジオ会館で真空管アンプキットを購入し、分からないことだらけの中、手探りで初めて自力で完成させ、実際に音が出たときの達成感と感動は今でも忘れられません。この高揚感をオーディオを愛する皆さまと共有したいという思いが、私どもの考え方や方針の根幹にあるのです。

　―SUNVALLEY AUDIOのスローガン「モノづくりの楽しさを一人でも多くの人に!」の通りですね。

　大橋店主　SUNVALLEY AUDIOは、2019年まで「ザ・キット屋」としてオリジナルの真空管アンプキット販売を中心に運営してまいりました。現在でもこれは変わりません。私が常に感じていることは、キットを完成に向けて製作していくという一連の所作は単なる手段ではなく重要な目的の一つであるということです。先ほど申し上げた、手作りが完成した時の達成感ももちろんですが、キットを作成する過程でつまずいたこと、悩んだこと、苦労したことの思い出すべてが、部品の集合体であったキットを唯一無二の「モノ」に昇華させるのです。

　―過程や体験すべてが、真空管アンプキットの価値に直結しているということですか。

　大橋店主　例えば、自分で手間暇かけて作った料理は、使った素材のクオリティー以上においしく感じますよね。同様に苦労して完成させた自作の真空管アンプには、決してお金では買えない満足感を見いだせるはずです。数々のメーカーさんが手掛けた商品は、性能も安定しており素晴らしいものです。他方、手作りには製作技術の巧拙を超えた価値があります。そういったモノづくり体験を経て真空管アンプキットの唯一無二性や、一人一人が持つこだわりにつながってくると思います。

　―「モノづくり」への思いを踏まえて、どのようにお客さまと向き合っていらっしゃいますか。

　大橋店主　キット屋時代から「お客さまにモノを提供し、お手元に届いてから私どもの商売は始まる」と考えてきました。つまり、お客さまがキットを完成してアンプから音が出せたところで初めて完了という考え方です。売って終わりではないのです。

　「SUNVALLEY AUDIOの目的は、お客さまにモノづくりの楽しさを知っていただくこと」ですから、キットを作る過程でのサポートに心血を注ぎます。疑問・質問のあるお客さまがいれば、時間の許す限り電話やメール対応をします。そして最終的には、完成にたどり着いた達成感と、その作品を使う喜びを共有したいと思っています。

　商品付属の組立説明書も、特に注力して作成しており、完成度は高いものだと自負しております。こういった私どもとお客さまが密接に、有機的につながったビジネスモデルも他社さんにはない部分の一つかもしれません。

　現在、私どものメインとなる商品は、2015年12月にスタートした真空管アンプキット「SV-1616」シリーズです。こちらは国内外からも評価をいただいているシリーズで現在まで7機種展開してまいりました。1616シリーズの登場を機に出荷数も大幅に伸びています。

　―キットだけでなく、組み立ての代行もなさっていると伺いました。

　大橋店主　ご自分でのキット組み立てはどうしてもハードルが高い、という方も最近は増えました。そういうお客さまのご要望によっては組み立ての代行をさせていただいて、最終工程を残した完成品に近い「組立済品」として提供しております。

　大量生産はせず、注文を受けてから生産する受注生産体制をとっていますので、お客さまの状況、例えば、使用しているスピーカー、プレーヤー、リスニングルームの状況、よく聴く音楽のジャンルなどの聞き取りをさせていただいた上で、最もお客さまのニーズに近いかたちで一台一台手作りしています。

　私どもが重視するのは、オーディオに込められた思いの共有です。お求めいただくお客さまの「こう鳴ってほしい」という思いにどれだけお応えできるか、そのために私どもが機器に対して込めた知恵や工夫がお客さまに伝わることが目標ですね。表面的な価値だけでなく、内在しているそれらを余すところなく伝えていきたい。これがSUNVALLEY AUDIOの目指すところです。

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