2021.08.11 【管球ワールド】協同電子エンジニアリング フェーズメーションコンサート空間の再現を目指す、アナログ再生システム

《写真1》鈴木信行会長。新羽事業所試聴室のオーディオ機器の前で

 高級オーディオブランド、フェーズメーションを持つ協同電子エンジニアリングの創業者、鈴木信行会長(写真1)とオーディオ製品開発の責任者、斉藤善和部長に、同社の歴史や音づくりについてうかがった。

起業・オーディオ製品開発のきっかけ

 ―創業期は計測機器の生産などをされていたと伺いましたが、オーディオの分野に進出するきっかけは何でしたか。

 鈴木会長 幼いころは親によくコンサートに連れて行ってもらっていました。その関係で個人的にオーディオに興味を持ち、趣味として楽しんでいました。ですから、いつかオーディオの仕事をしてみたいという気持ちはありました。

 ―会長は会社員時代はオーディオ会社にお勤めでしたね。

 鈴木会長 大学卒業後、当時のアイワに勤めていました。まだ、ソニーと合併前のことでしたが。そこで、製品検査などの仕事をしていました。その後、ソニーとの合併を機に同僚有志と共に、アイワをスピンアウトして、前身の協同電子システムを立ち上げました。その後、2004年に計測器部門を売却したことに伴い、分社化した自動車機器事業部を協同電子エンジニアリングとして再スタートさせました。

磁気計測器からオーディオへ

 ―でもすぐにはオーディオ事業は開始されませんでしたね。

《写真2》フェーズテックブランド初の製品、「P-1」

 鈴木会長 独立後すぐはそのような余裕はありませんでしたので、得意な磁気計測を仕事を中心にしていました。オーディオ事業を本格的にするようになったのは、1990年代の初め、光悦のブランドで知られる武蔵野音響研究所の菅野義信社長から、カートリッジのコイルの測定を頼まれたことでした。カートリッジはMC型であったため、そのうち、MC昇圧トランスの製造をお引き受けするようになりました。そして、2002年にカートリッジ「P-1」(写真2)を独自ブランド、「フェーズテック」で出しました。その後、2010年にブランド名をフェーズメーションに変更しました。

 ―磁気計測からオーディオ用トランス製作とは一見飛躍した感じですが。

 鈴木会長 実は当時なりわいとしていた磁気計測では、磁気を発生させたり、検知するための巻き線(コイル)作成技術が非常に重要だったので、そのノウハウがあったのです。自社で巻き線機も所有していました。私自身、アイワ時代、ダイナミックマイクのエレメントコイルを巻いた経験もあり、お引き受けできました。

高度なオーディオ再生に不可欠な磁気技術

 ―鈴木会長は常々、高度なオーディオ再生には磁気の技術が不可欠だとおっしゃっていますが、こういう背景があったのですね。

 斉藤部長 この点を少し詳しく説明しますと、低周波信号はほとんどのオーディオ製品では、抵抗でレベル調整されます。特に真空管アンプのようなハイインピーダンスの回路では、高抵抗が用いられます。しかし、抵抗によるレベル調整は、低周波信号を熱に変えて減少させることなので、エネルギーも減少するわけです。つまり、微少な音声情報のエネルギーは熱となって失われます。それと比較して電磁誘導を応用したトランスによる調整は、抵抗と比べてエネルギーはほとんど失われません。ですから、微少な音声情報を余すことなく伝え、かつレベルを合わせることができるわけです。

 鈴木会長 もちろん、現在、市販されているオーディオアンプのほとんどが抵抗による調整です。これは技術とコストとの兼ね合いで、しょうがない部分もありますが、当社は磁気測定で培った技術で、自社でトランスを巻きその問題を解決しています。

フェーズメーションの音づくり
重要なのは音空間の再現性

 ―創業当時からの技術が生かされているということですね。この技術を生かしたフェーズメーションの音づくりとはどういうものでしょうか。何か原則のようなものはありますか。

 鈴木会長 フェーズメーションの音の目標は、一言で言うとコンサートホールの音の再現です。音空間の広がりがキチンと再生できること。これが最も重視していることです。音づくりもそこを重視しています。

 斉藤部長 音空間の再現のために具体的に行っていることには、いくつかありますが、まず微小レベルのセパレーションを確保するために、アンプ類は原則、完全なモノラル仕様としています。筐体(きょうたい)も共通にしない完全なモノ仕様です。

 また、反射音を正確に再生するには、音の立ち上がりを速くする必要があります。このために電源を負荷変化に対して安定で強靭(きょうじん)なものにしています。もちろん、配線引き回し、電源に起因するノイズの処理を可能な限り行い、微少な音も再生できるようにノイズを最小とすることは前提です。

 ―空間の再現性というと、段間の時定数、負帰還(NFB)も問題になると思いますが。

 斉藤部長 当社のアンプ(写真3)は原則、NFBはかけていません。そのため時定数が問題になることはありません。一部の半導体アンプではかけていますが、部分的なものです。また、NFBなしでも良好な音質を得るため、3極管をデバイスとして主に使っています。NFBは特にアナログ再生において、ノイズの影響を拡大させるおそれがあり、その点でも積極的には使っていません。

《写真3》フェーズメーションを代表する管球式モノラルパワーアンプ「MA-2000」。300Bをトランス結合で2A3でドライブ。無帰還、A級となっている

トランスの技術が重要

 ―となると、鈴木会長がおっしゃるとおりトランスが重要になってきますね。

 斉藤部長 そうですね。当社の音づくりでは重要です。トランス類は試聴を重ねながら、丁寧にベストな巻き方を探求しています。当然、全て自社内で巻いています。

最新のフェーズメーションの製品

 ―最新のフェーズメーションの製品について教えてください。

 斉藤部長 最新製品としては、管球式フォノアンプのEA-2000(写真4)があります。MC昇圧トランス、イコライザー、電源の各部を左右分、合計6筐体で構成されるものです。

《写真4》管球式フォノアンプ「EA-2000」

 ―このフォノアンプの特徴を教えてください。

 斉藤部長 イコライザー素子をLCRとしたところが大きいです。これが理論的には理想です。しかし、理想の特性のイコライザー用コイルを巻くのは非常に難しい技術です。特に真空管回路はインピーダンスが高く、コイルと結合させるのが難しいので、回路の工夫も必要です。フォノアンプ部であるEA-2000EQは回路を工夫し、この問題を解決しています。電源も左右別筐体です。MC用トランス(EA-2000T)は、T-2000をベースとして、PC-Triple C線材と極薄スーパーマロイコア材などの新規材料を使用し、イコライザー部と最適ペアになるようにチューニングしています。

 ―カートリッジとアクセサリーにも新製品がありますね。

 斉藤部長 MCカートリッジのPP-200(写真5)とデガウザー(消磁器)のDG-100(写真6)です。PP-200は、PP-2000をはじめとする上級モデルでも採用している天然ダイヤモンドのスタイラスチップと無垢(むく)ボロン材のカンチレバー、6N無酸素銅線の発電コイルを採用しています。高音質素材を継承しながら、値段は抑えコストパフォーマンスが高いです。

《写真5》MCカートリッジ「PP-200」
《写真6》デガウザー(消磁器)「DG-100」

 DG-100は鉄芯入りMCカートリッジとMC昇圧トランス用の消磁器です。テープレコーダーのヘッドと同様、長時間の利用で帯磁しますので、それの解消用です。接続してボタンを押すだけで自動で消磁するようになっていて、使いやすくなっています。

オーディオで重要なことは自分の耳を信じ、実際の音を聴くこと

 ―最後に読者に何かメッセージはございますか。

 斉藤部長 製品を選ぶときは、ただ有名ブランドだからと選ぶのではなく、ご自身の耳を信じて選んでいただきたいですね。

 鈴木会長 コロナ禍で難しいかもしれませんが、販売店に足を運んで、実際の音を聴いていただきたいですね。また、自分に合った良い製品を選ぶには、生のコンサートにも足を運んでいただきたいと思います。やはり生の音を聴かないと音の良しあしは判断しにくいですから。

 ―本日はありがとうございました。

(インタビュー協力:オフィス・アミーチ代表 西松朝男氏)

関連リンク:

協同電子エンジニアリング
https://www.kyododenshi.com/

フェーズメーション
https://www.phasemation.jp/

製品ラインアップ
https://www.phasemation.jp/product.html